■n角の穴をあけるドリル(その52)

 多くの曲線で極座標(r,θ)による式のほうが直交座標による式よりはるかに簡単になります.極座標では

  r→√(x^2+y^2)

  cosθ→x/r

  sinθ→y/r

と置き換えることができます.

 卵形線の接線へ原点から引いた垂線の足の軌跡を垂足曲線といいますが,回転体の運動を考える場合は接線極座標の方が簡単になります.接線極座標でも

  p(θ)→r=√(x^2+y^2)

  cosθ→x/r

  sinθ→y/r

と置き換えました.これが正しくないことは明らかですが,実際の直交座標の式ではなく,代数曲線としての次数のみを求める緊急避難的な方法としては役立つと考えられたからです.

 前回のコラムでは,ハイポサイロイドの平行曲線,ペリトロコイド曲線,楕円の平行曲線の場合,θが接線極座標のパラメータでないにも関わらず,接線極座標(p,θ)による式を間違って求めたこと,フルヴィッツ・藤原曲線では正しく求めることができ

  p(θ)=asin(n−1)θ−R

で与えられることを述べました.

 そして,フルヴィッツ・藤原曲線ではこの方法で曲線の次数が2n次式になることが正しく求められているようですが,緊急避難的な方法でなく,直交座標の式を求める方法はないものでしょうか?

===================================

【1】アステロイドの平行曲線

 アステロイドの平行曲線

  x=3sinθ+cos^3θ

  y=−3cosθ−sin^3θ

において,cos^3θ,sin^3θはcos3θ,sin3θで表されますから,6次曲線となることが予測されます.ここでは,アステロイドの平行曲線の代数曲線としての次数を求めてみます.

 この曲線は直線y=±xに関する裏返しに関して対称ですから,

  f(x+y,(x−y)^2)

  f(x−y,(x+y)^2)

の多項式の形に表すことができます.また,(x+y)^2=x^2+y^2+2xy,(x−y)^2=x^2+y^2−2xyとなって,x^2+y^2,xyの多項式の形

  f(x,y)=F(x^2+y^2,xy)

に表すこともできます.すなわち,

  D2:F(x^2+y^2,x^2)

のx^2(あるいはy^2)の代わりがxyということになります.

  D0:x^2+y^2=−3(sinθcosθ)^2+6sinθcosθ+10・・・(1)

  D2:−xy=(sinθcosθ)^3−6(sinθcosθ)^2+9sinθcosθ+3・・・(2)

  (1)→(sinθcosθ−1)^2=−(x^2+y^2−13)/3

  (2)→−xy−3=sinθcosθ(sinθcosθ−3)^2=(sinθcosθ−1)^3−3(sinθcosθ−1)^2+4

D0はsinθcosθ=sin2θ/2の2次式,D2は3次式です.

 (2)より

  −xy−7=(sinθcosθ−1)^2(sinθcosθ−1−3)

ですから,(1)を代入すると

  (x^2+y^2−13)^3+27(x^2+y^2+xy−6)^2=0

となって,実際に6次式で表すことができました.

===================================

【2】ペリトロコイド曲線

 コラム「トロコイドの幾何学」を参照していたきたいのですが,一般にエピサイクロイドやハイポサイクロイドなどの対称図形は二面体群Dnを用いて,

  D1:F(x^2+y^2,x)

  D2:F(x^2+y^2,x^2)

  D3:F(x^2+y^2,x(x^2−3y^2))

  D4:F(x^2+y^2,x^2y^2)

と表される代数曲線であることを示すことができます.

 ペリトロコイド曲線とは,ローターに固定された点の軌跡であって,以下,回転子とつねに相対的位置が不変に保たれた点P(x,y)の運動について調べてみます.

 固定子の中心を原点(0,0),回転子の中心を(x0,y0)として,最初の中心を(a,0)にとる.回転子に固定された点P(x,y)と回転子の中心との距離をRとして,点Pの最初の相対的位置を

  x−x0=Rcosγ,y−y0=Rsinγ

にとります.

 回転子は原点を中心とする円周上を公転角α(反時計回り)で動きますから,

  x0=acosα,y0=asinα

また,回転子は中心の周りを自転角β(時計回り)で回転することより

  [x]=[cos(−β),−sin(−β)][Rcosγ]+[x0]

  [y]=[sin(−β), cos(−β)][Rsinγ]+[y0]

すなわち

  x=Rcos(−β+γ)+acosα

  y=Rsin(−β+γ)+asinα

  β=α/(n−1)

 通常方式では公転角と自転角が反対回りですが,ロータリーエンジン方式は同じ向きなので,ローターに固定された点の軌跡は

  x=Rcos(β+γ)+acosα

  y=Rsin(β+γ)+asinα

  β=α/(n−1)

で表されることになります.両方式は公転と自転の回転の向きが同じ方向に回転するか,反対方向に回転するかが異なるだけなので,ローターの頂点の軌跡は両方式ともローターのn−1個の頂点が描く軌道はすべて一致します.

===================================