1辺の長さが1の正多角形を考える.正三角形は対角線をもたないが,正六角形には長さ√3と2の2種類の対角線がある.対角線の長さが1種類なのは正方形の√2と正五角形の(1+√5)/2に限られる(正方形と正五角形の特殊性).
わが国の仏教寺院建築,たとえば大和の法隆寺は白銀比長方形の区画の上に建てられている.函館戦争で榎本武揚が立てこもった五稜郭には黄金比がみられるが,古代エジプトのピラミッドの底面の1辺の長さと高さの比や古代ギリシャのパルテノン神殿の外形にも黄金長方形が使われていることが知られている.黄金比は西洋人に愛される形,白銀比は東洋人に好まれる形といわれる.
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【1】黄金比と白銀比
√2とφ=(1+√5)/2は1辺と対角線の長さの比である特別な値であって,それぞれ白銀比,黄金比と呼ばれている.つぎに縦横比が白銀比,黄金比の長方形を考える.白銀長方形を長辺を2等分するように2つ折りにすると,一回り小さな白銀長方形が現れる.このことから白銀長方形は紙のサイズの規格になっている.一方,黄金長方形から正方形を取り除くと一回り小さな黄金長方形が現れてくる.黄金長方形も自己再現型図形としてよく知られている.
この操作は無限に続けることができるが,このことは黄金比,白銀比がそれぞれ,無限級数
1+1/φ+1/φ^2+1/φ^3+1/φ^4+・・・=φ^2
1+1/2+1/2^2+1/2^3+1/2^4+・・・=2
無限連分数
φ=[1:1,1,1,,1,・・・]
√2=[1:2,2,2,2,・・・]
で表されることと同義である.
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【2】白金比と白銅比
正六角形の場合,辺と対角線の長さの比は1:√3,1:2となる.1:2はドミノや日本の畳の形であるが,細長すぎて安定しない形といえるかもしれない.1:√3には白金比という呼び名もあるらしい.
1+1/3+1/3^2+1/3^3+1/3^4+・・・=3/2
√3=[1:1,2,1,2,・・・]
対角線の長さの比が
ω=(7+√2−√5+√10)^1/2/2=1.52811
の菱形を用いた凸24面体,凹60面体はぴったりはまりこみ,より空間充填に適した形になる.このとき二面角は
tanδ=(−1+√2+√5−√10)/2
より165.641°となる.
ω=1.52811を白銅比あるいは青銅比という名で呼ぶことを提案したいと思う.
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【補】プラスチック比
1,1,2,3,5,8,・・・
初項1,第2項1から始まり,隣り合う2項の和が次の項となるこの数列をフィボナッチ数列とよびます.その一般項Fn は
Fn=Fn-1+Fn-2
です.フィボナッチ数列の特性方程式
x^2−x−1=0
の2つの解より,連続する2項の比は黄金比
φ=(1+√5)/2=1.618034・・・
に次第に近づくことになります.
数列
1,1,1,2,2,3,4,5,7,9,12,16,21,・・・
は直前の1項を除いたその前の2項を加えたものです.漸化式は
Pn=Pn-2+Pn-3 (P0=P1=P2=1)
で表されます.この各項が2つ前と3つ前の項の和で与えられる数列は,イタリアの建築家パドヴァンにちなんでパドヴァン数列と呼ばれています.
パドヴァン数列の特性方程式
x^3−x−1=0
の唯一の実数解より,パドヴァン数列の連続する2項の比はプラスチック比
p=1/3{3√(27/2−3√69/2)+3√(1/2+√69/18)}=1.324718・・・
に次第に近づくことになります.pがφよりも小さいことより,パドヴァン数列はフィボナッチ数列に較べてゆっくりと増加することになります.
黄金比φはx^2−x−1=0の解ですが,プラスチック比はこれと近い関係にある
x^3−x−1=0
の解というわけです.
フィボナッチ数列を拡張する方向としては,ひとつには加える項を変えること,もう一つには加える項数を増やすことです.パドヴァン数列は前者の例で,後者,たとえば1つの項の和がその前の3つの項の和になっている
Tn=Tn-1+Tn-2+Tn-3
で定義される数列
1,1,1,3,5,9,17,・・・
は,フィボナッチ数列の拡張とみなせるので,フィボナッチ(Fibonacci)をもじってトリボナッチ(Tribonacci)数列と呼ばれます.
トリボナッチ数列でも連続する2項の比はある決まった値
1/3{3√(19+3√33)+3√(19−3√33)+1}=1.839・・・
に収束します.これは
x^3−x^2−x−1=0
の実根です.
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