■良い配置(その4)

【1】グレコ・ラテン方陣の存在・非存在

 すべてのnに対してグレコ・ラテン方陣は存在するのでしょうか? また,そうでないとしたらどのようなnに対してグレコ・ラテン方陣は存在するのでしょう?

 p次のグレコ・ラテン方陣とq次のグレコ・ラテン方陣があれば,p×q次のグレコ・ラテン方陣を作ることができます.また,グレコ・ラテン方陣はnが奇数のときと4の倍数のときに可能であることがわかっていて,

  n=2^q×l,lは奇数,q≧2

とすると,lは奇数ですからl次のグレコ・ラテン方陣は存在します.2^q個の元からなる体は存在し,したがって,2^q次のアフィン平面も存在するので,2^q次のグレコ・ラテン方陣は存在しますから,2^q×l次のグレコ・ラテン方陣も可能であることがわかります.

 結局,q=1の場合,すなわち,

  n=2×l=2(2k+1)=4k+2

の場合だけが残ります.

 1782年,オイラーはn=4k+2(2の奇数倍)のときグレコ・ラテン方陣は不可能と予想し,そして1903年にタリーがk=1すなわちn=6の場合があることをしらみつぶしの方法によって証明しました.

 nが素数または素数の累乗のときには有限アフィン平面は存在しますが,n=6のときには不存在であることが証明できるようです.有限アフィン平面の存在はn−1組の互いに直交するラテン方陣の存在と同値ですから,これは5個の互いに直交するラテン方陣がないことを主張しているのであって,直交するラテン方陣が一組も存在しないかについて何もいっていないことになります.

 1903年,タリーによって6次のグレコ・ラテン方陣は不可能であることが証明されているのですが,6次のアフィン平面は存在しないので,直交するラテン方陣が一組も存在しませんという言明は正しくなく,したがって,その証明はしらみつぶしの方法によるしかないのです.

 その後,1959年になって,ボーズ,シュリカンデ,パーカーによって,nが22や14のときに可能なことがわかると,せきをきったように一般的な作り方がわかっていき,最も困難だったn=18の場合も攻略され,1年ほどでn≧10であるn=4k+2という形の数すべてについて,互いに直交するラテン方陣が存在することが判明しました.177年にわたる難問の解決は当時の世界に大きな衝撃を与え,New York Timesのトップ記事として報道されたのですが,数学に関する取り扱いとしては空前絶後のものでした.

 たとえば,10次のグレコ・ラテン方陣

  [00,47,18,76,29,93,85,34,61,52]

  [86,11,57,28,70,39,94,45,02,63]

  [95,80,22,67,38,71,49,56,13,04]

  [59,96,81,33,07,48,72,60,24,15]

  [73,69,90,82,44,17,58,01,35,26]

  [68,74,09,91,83,55,27,12,46,30]

  [37,08,75,19,92,84,66,23,50,41]

  [14,25,36,40,51,62,02,77,88,99]

  [21,32,43,54,65,06,10,89,97,78]

  [42,53,64,05,16,20,31,98,79,87]

では,1≦(i,j)≦7の場合と8≦(i,j)≦10の場合で作り方が違っていて,10=3+7=3+(1+2×3)と分解することによって,2個の直交するラテン方陣を作り出しています.

 こうして,オイラーの予想は覆され,n=2と6の場合だけグレコ・ラテン方陣が不可能であることが判明したのでした.

 なお,6次の魔方陣は存在し,

  [00,01,02,33,34,35]

  [30,31,14,03,22,05]

  [29,28,27,08,07,06]

  [11,10,09,26,25,24]

  [23,19,21,20,04,18]

  [12,16,32,15,13,17]

は和算家・久留島義太の手作りとされるものです.

 この6進数版は

  [00,01,02,53,54,55]

  [50,51,22,03,34,05]

  [45,44,43,12,11,10]

  [15,14,13,42,41,40]

  [35,31,33,32,04,30]

  [20,24,54,23,21,25]

ですが,グレコ・ラテン方陣にならないことはすぐにわかります.

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