イスラム世界ではタイル貼り芸術の極致が見られるとされる.モスクをはじめさまざまな建築物の装飾にタイル貼りが用いられているからである.全部で17種類あるとされる壁紙模様はすべてアルハンブラ宮殿で発見されている.
複雑な模様になると不等辺多角形が使われる.一見すると正方形,正五角形,正六角形,正七角形,正八角形が用いられているようなタイル張りでは,全部が正多角形だとしたらひとつの頂点に集まる内角の和が360°になるはずがない.正五角形と正七角形を肉眼では気づかないように巧みにゆがめて隙間をなくしているのである(擬似正多角形によるタイル貼り).
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【1】五角形を用いたタイル貼り
正五角形だけを使ったタイル貼りではどうしても隙間が残ることになる.平面上で正五角形を連結させてみよう.正五角形を10枚丸く並べるとちょうどひとつの輪になり,正10角形の隙間が残る(デューラー・パターン).また,正五角形を5枚を星形5角形の隙間が残るように並べることもできる(ケプラー・パターン).正10角形の隙間に可能な限り正五角形を詰め込むと,菱形や星形5角形の隙間が残る非周期的な平面充填ができあがる(ペンローズ・パターン).
各正五角形を他の6つの正五角形に接するように規則的に配列させると,平面をできるだけ密度高く充填することができる.このデザインは中国の格子にも見られるそうだ.
それらに対して,アラベスク模様の多くはさまざまな見方ができるように工夫されている.たとえば,正五角形ではなく,底角と頂角が120°,それに挟まれる角が90°の歪んだ等辺五角形だけを使ったタイル貼り(カイロのタイル貼り)では細長い六角形を直交するように重ね合わせたものと見ることもできる.
カイロのタイル貼りは正方形と正三角形によるアルキメデスの平面充填形の双対として得られるものであるが,β14面体による空間充填を平面に投影した図とそっくりである.β14面体による空間充填は直方体のレンガで1段目を敷き詰めたあと,2段目を直交するように配置した空間充填(βパターン)が元になっている.
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【2】正12面体を用いたタイル貼り
ところで,中川宏さんによる以下のようなパターンはこれまで知られていたものなのだろうか.
正12面体と立方体とN91による空間充填とその平面表現であるが,私にとっては初見であり「中川パターン」と呼ぶことにした.おそらくすでに見つけられてはいただろうが,誰も注目しなかったものと思われる.これがある空間充填の平面表現であるという意義を考えたときに改めて中川パターンのおもしろさが見いだせるのではなかろうか.
なお,正12面体と立方体とN91による空間充填でN91だけ抜き出してみると,直交する3方向のβパターンがあり,その隙間を正12面体と立方体が埋め尽くした配列となっていることがわかる.桧垣文様(長方形を直交するように配置した平面充填)の3次元版と考えることもできるだろう.
正12面体を周期的に配列させたときに現れる3個の菱形が直交したような形の隙間を12等分した三角錐で埋め尽くすこともできる.最後に,その平面表現も一緒に掲げる.
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