■ペル方程式とチェビシェフ多項式(その1)

 mを平方数でない自然数とすると,いわゆるペル方程式とは

  x^2−my^2=±1(あるいは±4)

で表されるものです.コラム「連分数展開の応用」ではペル方程式の解法について説明しましたが,ペル方程式の自然数解を求めることはそれほどやさしくはありません.たとえば,

  x^2−199y^2=±1

の解を求めようと思ってもなかなか見つかりません.それもそのはずで,この最小解は

  (16266196520,1153080099)

のようにとても大きなものになってしまいます.これではいくら式を眺めたところでわからないのは無理もありません.

  [参]小野孝「数論序説」裳華房

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【1】ペル方程式の解法

 この解を合理的に出すには,後述するように√199の連分数展開

  √199=[14;9,2,1,2,2,5,4,1,1,13,1,1,4,5,2,2,1,2,9,28,・・・]

を用います.9〜28は循環節(周期20)です.

 このペル方程式は,実2次体Q(√199)と関係しているのですが,x^2−m=0の根√mを添加して得られる体Q(√m)の元は一意的に

  a+b√m

の形で表されます.そして,一般に0,1以外の平方因数をもたない整数m,

  −1,±2,±3,±5,±6,±7,±10,・・・

によって,Q(√m)は体になります.

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【2】基本単数

 まず最初に,実2次体Q(√m)の基本単数について説明することから始めたいと思います.Q(√m)を2次体とするとき,a+b√mの共役をa−b√mで表します(m<0ならば通常の複素共役である).このとき,その標準底は

  ω=√m         m=2,3(mod4)

  ω=(1+√m)/2   m=1(mod4)

で与えられます.

 そして,単位元「1」の約数を単数といいます.m>0のとき,単数群は

  {±1}×C(Cは乗法的巡回群)

によって与えられます.また,εをε>1なる最小の単数とするとき,

  C={±ε^n}

と表すことができ,εをQ(√m)の基本単数といいます.

 実2次体の基本単数は一意に定まります.Q(√m)を実2次体とすると,

[a]m=2,3(mod4)のとき

 基本単数を

  ε=a+b√m

とすると

  ε~=a−b√m

εが単数←→εε~=a^2−mb^2=±1

また,

  ε^n=an+bn√m

と書くと

  ε^(n+1)=ε・ε^n=(a+b√m)(an+bn√m)

      =aan+bbnm+(abn+ban)√m

 これより

  an+1=aan+bbnm

  bn+1=abn+ban

 このことから0<a1<a2<・・・,0<b1<b2<・・・となるのですが,より,a,bはペル方程式:

  a^2−mb^2=±1

の解の中で(a,b)が最小なものとして与えられます.ペル方程式の自明な解(a=±1,b=0)には単数±1が,自明でない解のなかで絶対値|a|または|b|が最小なものには基本単数が対応するというわけです.

 Q(√2),Q(√3),Q(√6),Q(√7)の基本単数を求めると,それぞれ,

  x^2−2y^2=±1,複号は−1で(1,1)が最小→ε=1+√2

  x^2−3y^2=±1,複号は+1で(2,1)が最小→ε=2+√3

  x^2−6y^2=±1,複号は+1で(5,2)が最小→ε=5+2√6

  x^2−7y^2=±1,複号は+1で(8,3)が最小→ε=8+3√7

[b]m=1(mod4)のとき

 基本単数を

  ε=(a+b√m)/2   a=b(mod2)

と書けば

  a^2−mb^2=±4

となること以外は前と同様です.

 Q(√5),Q(√13)の基本単数を求めると,それぞれ,

  x^2−5y^2=±4,複号は−4で(1,1)が最小→ε=(1+√5)/2

  x^2−13y^2=±4,複号は−4で(3,1)が最小→ε=(3+√13)/2

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 Q(√2)ではε=1+√2が基本単数ですが,その他の解は

  (1+√2)^n=an+bn√2

とおいて

  n=1:1^2−2・1^2=−1

  n=2:3^2−2・2^2=+1

  n=3:7^2−2・5^2=−1

  n=4:17^2−2・12^2=+1

  n=5:41^2−2・29^2=−1

  n=6:99^2−2・70^2=+1

  n=7:239^2−2・169^2=−1

  n=8:577^2−2・408^2=+1

  n=9:1393^2−2・985^2=−1

  n=10:3363^2−2・2378^2=+1

一般に,

  an^2−2bn^2=(−1)^n

となります.

 Q(√3)ではε=2+√3が基本単数で,

  n=1:2^2−3・1^2=+1

  n=2:7^2−3・4^2=+1

  n=3:26^2−3・15^2=+1

  n=4:97^2−3・56^2=+1

  n=5:362^2−3・209^2=+1

  n=6:1351^2−3・780^2=+1

  n=7:5042^2−3・2911^2=+1

  n=8:18817^2−3・10864^2=+1

  n=9:70226^2−3・40545^2=+1

  n=10:262087^2−3・151316^2=+1

一般に,an^2−2bn^2=1でan^2−2bn^2=−1となる解は存在しません.

 この2つの例からわかるように,基本単数εのノルムが−1のときには

  x^2−my^2=+1

  x^2−my^2=−1

はどちらも無数の解をもちますが,εのノルムが+1のときには解はすべて前者の解であって,後者は解をもちません.

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 以下,実2次体Q(√m)の基本単数εを掲げますが

m  ペル方程式の最小解        ε           ノルム

2  1^2−2・1^2=−1       1+√2         −1

3  2^2−3・1^2=+1       2+√3         +1

5  1^2−5・1^2=−4       (1+√5)/2     −1

6  5^2−6・2^2=+1       5+2√6        +1

7  8^2−7・3^2=+1       8+3√7        +1

10  3^2−10・1^2=−1      3+√10        −1

11  10^2−11・3^2=+1     10+3√11      +1

13  3^2−13・1^2=−4      (3+√13)/2    −1

14  15^2−15・4^2=+1     15+4√14      +1

15  4^2−15・1^2=+1      4+√15        +1

17  8^2−17・2^2=−4      4+√17        −1

19  170^2−19・39^2=+1   170+39√19    +1

21  5^2−21・1^2=+4      (5+√17)/2    +1

22  197^2−22・42^2=+1   197+42√22    +1

23  24^2−23・5^2=+1     24+5√23      +1

26  5^2−26・1^2=−1      5+√26        −1

29  5^2−29・1^2=−4      (5+√29)/2    −1

30  11^2−30・2^2=+1     11+2√30      +1

31  1520^2−31・273^2=+1 1520+273√31  +1

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【3】連分数

 mが小さいときは比較的簡単に求まりましたが,ペル方程式の自然数解を求めることはそれほどやさしくはありません.Q(√199)を考えてみると,199=3(mod4)の素数ですが,

  x^2−199y^2=±1

の最小解は

  (16266196520,1153080099)

にもなってしまいます.

 この解を求めるには√199の連分数展開

  √199=[14;9,2,1,2,2,5,4,1,1,13,1,1,4,5,2,2,1,2,9,28,・・・]

を用います.9〜28は循環節(周期20)です.

 冒頭で述べたことを標準連分数の場合に書き換えますと,

  α=[q1,・・・,qn]=Pn/Qn

  P0=1,P1=q1,Pn=qnPn-1+Pn-2

  Q0=0,Q1=1 ,Qn=qnQn-1+Qn-2   (n=2,3,・・・)

  PnQn-1−Pn-1Qn=(−1)^n   (n=1,2,・・・)

  PnQn-2−Pn-2Qn=(−1)^n-1qn   (n=2,3,・・・)

が成り立ちます.

 また,

  α=[q1,・・・,qn-1,qn,qn+1,・・・]

の部分列[qn,qn+1,・・・]に対して

  αn=[qn,qn+1,・・・]

なる実数αnを定めると

  α=[q1,・・・,qn-1,αn]

   =(αnPn-1+Pn-2)/(αnQn-1+Qn-2)

が証明されます.

 これに循環連分数になるという性質が加わって,ペル方程式の解が得られるのですが,

  √m=[q1,q2,・・・,qn,2q1]   (周期n)

  αn+1=[2q1,q2,・・・]=√m+q1

より

  √m=((√m+q1)Pn+Pn-1)/((√m+q1)Qn+Qn-1)

 ここで,

  PnQn-1−Pn-1Qn=(−1)^n   (n=1,2,・・・)

より,

  Pn^2−mQn^2=(−1)^n

となり,ペル方程式の解(Pn,Qn)が得られます.

  √199=[14;9,2,1,2,2,5,4,1,1,13,1,1,4,5,2,2,1,2,9,28,・・・]

では,q1=14,q2=9,q3=2,・・・,n=20ですから

P Q

0 1 0

1 14 1

2 127 9

3 268 19

4 396 28

5 1058 75

6 2511 178

7 13613 965

8 56963 4038

9 70576 5003

10 127593 9041

11 1728583 122536

12 1856122 131577

13 3584705 254113

14 16194942 1148029

15 84559415 5994258

16 185313772 13136545

17 455186959 32267348

18 640500731 45403893

19 1736188421 123075134

20 16266196520 1153080099

となって,

  (16266196520,1153080099)

が得られました.

 ペル方程式は√mの連分数展開を用いると求められるのですが,最小解がmと較べて非常に大きい例としては

m        ε                       ノルム

46   24335+3588√46                 +1

94   2143295+221064√94             +1

151  1728148040+140634693√151      +1

193  1764132+126985√193            −1

409  111921796968+5534176685√409   −1

526  84056091546952933775+3665019757324295532√526                     +1

などが知られているようです.

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