■ダイヤモンド結晶とK4結晶(その10)

 ロンスデール石は1967年,アリゾナにある隕石の落下地点で初めて発見された希少な結晶である.同年に人工的に合成することに成功したこの結晶の名前は英国の結晶学者ロンスデールに因んでいる.

 ロンスデール格子を真横からみるとダイヤモンドと変わりがないが,真上からみると蜂の巣状に見える.そのため,六方晶ダイヤモンド(hexagonal dismond)という呼び名もある.ロンスデール格子はグラファイトに似たところがあり,隕石孔のみから発見されることより衝突下の高温高圧によりグラファイト構造を保ちつつ変性したものがロンスデール石であると考えられる.また,ロンスデール石と同じものは1967年よりかなり前から人工ダイヤモンド生成過程で微細な結晶として得られていたはずであると考えられている.

 (その2)において,ロンスデール石はダイヤモンド(モース硬度10)よりも柔らかく,そのモース硬度は7〜8であることが知られていると書いた.ダイヤモンドではすべての六角形がイス型立体配置であったのに対し,ロンスデール石では舟型立体配置が存在する.舟型立体配置はイス型立体配置に較べ構造不安定であるといのがその理由である.

 しかし,Wikipediaによると,この硬度の低さは主として不純物や格子欠陥によるものと見られ,純粋なロンスデール石ではダイヤモンドより58%も硬いと予想されているとのことである.

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【1】六角形で球面が覆えるか?

 各細胞が同一の辺をもち,各頂点に同一数の辺が会するとき,「正則地図」と呼ばれる.正多面体は正則地図になる.ここでは各頂点に3本の辺が会する正則な六角形の正則地図で球面を覆うことができるだろうか?

 この不可能性を証明することは易しい.そういう地図があると仮定する.各面は6本の辺と6個の頂点をもつ.各頂点には3面が会するからv=6f/3.各辺は2面に共有されるから,e=6f/2.

 これをオイラーの多面体定理:v−e+f=2に代入すると

  6f/3−6f/2+f=0=2

となって矛盾.したがって,最初の仮説が誤りである.

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【2】オイラーの多面体定理

 3次元凸多面体の頂点,辺,面の数をそれぞれv,e,fとすると,

  v−e+f=2  (オイラーの多面体定理)

が成り立ちます.これは3次元立体について,0次元の特性数であるv,1次元の特性数であるe,2次元の特性数であるfの関係を述べたものと解釈され,最も美しい数学の10大定理の1つに挙げられるものです.

 また,正則な多面体とはその面が正多角形で,どの面にも同じ数の面が集まっている凸多面体のことで,正多面体では

  pf=2e,qv=2e

でしたが,正則とは限らない一般の多面体では

  Σpi=p1+・・・+pf=2e,

  Σqi=q1+・・・+qv=2e

となります.

 オイラーの多面体定理は,8個の凸なデルタ多面体が存在することの証明の基礎にもなります.デルタ多面体では,pi=3,3≦qi≦5ですから

  3f=2e   (fは偶数)

  3v≦2e≦5v

これをオイラーの多面体定理

  v−e+f=2

に代入すると

  6≦e≦30

 これより

  4≦f≦20,(3≦v≦20)

が得られます.3f=2eよりfは偶数ですから,4面体から20面体までの偶数多面体がデルタ多面体の候補となります.

   f      e      v

   4      6      4

   6      9      5

   8     12      6

  10     15      7

  12     18      8

  14     21      9

  16     24     10

  18     27     11

  20     30     12

 3次元では,オイラーの多面体公式

  v−e+f=2

以外に

  f≦2v−4,v≦2f−4

を満たせばよいことが証明されています(シュタイニッツ,1906年).デルタ多面体では,これ以上面数fを大きくできないという

  f≦2v−4

の上限に達していることも理解されます.

 なお,これらの式の頂点vと面fの対称性により,f面凸多面体とv点凸多面体は同数になるのですが,「4面体は4つの頂点と4つの面から構成されるので,頂点数を加えていうと,4点4面体である.5面体には4角錐(5点5面体)と3角柱(6点5面体)がある.6面体には5点6面体が1種類,6点6面体,7点6面体,8点6面体が2種類ずつの合計7種類ある.以下,7面体には34種類,8面体には257種類,9面体には266種類ある.

 見方を変えて,凸多面体を頂点数で分類すると,4点多面体は1種類,5点多面体は2種類,6点多面体は7種類,7点多面体は34種類,8点多面体は257種類,9点多面体は266種類,10点多面体は32300種類ある.」・・・両者で同じ数値が出現していることに気づかれたかと思います.

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【3】もっと驚くべき定理

 球を六角形でタイル貼りすることができないこと以上に驚くべきことがわかる.もし球を5角形と六角形からなる地図で敷き詰めたならば,サッカーボールのようにちょうど12個の5角形がなければならないというものである.

 (その5)では,五角形と六角形からなる多面体には五角形が常に12個あることを証明した.

(Q)五角形と六角形からなる多面体には五角形が常に12個ある.

(A)オイラーの多面体定理で示される制限からいえることとして,

  v−e+f=2,2e≧3f,2e≧3v

を組み合わせると,

  2v+2f=2e+4≧3f+4 → f≦2v−4

  2v+2f=2e+4≧3v+4 → v≦2f−4

また,別の組合せ方をすると,

  3v+3f=3e+6≦2e+3f → 3f−e≧6

  3v+3f=3e+6≧2e+3v → 3v−e≧6

 n本の辺をもつfn枚の面とn本の辺が交わるvn個の頂点をもつ凸多面体について,

  F=f3+f4+f5+・・・

  2E=3f3+4f4+5f5+・・・

  6F−2E≧12

に代入すると

  3f3+2f4+f5−f7−2f8−3f9−・・・≧12

 地図のように2つの辺に囲まれた領域まで許すことにすると,この数え上げ公式は

  4f2+3f3+2f4+f5−f7−2f8−3f9−・・・=12

となり,係数が1ずつ小さくなり,それが0となるf6は式中に現れない.

 ここで,

(1)f2=f3=f4=0だとすると,少なくとも12個のf5がなければならないことになる

(2)多面体の面がすべてf5とf6であるならば,f5=12(切頂二十面体)

(3)多面体の面がすべてf4とf6であるならば,f4=6(切頂八面体)

(4)多面体の面がすべてf4,f6,f8であるならば,f4=f8+6(斜方切頂立方八面体)

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【4】さらなる帰結

(5)多面体の面がすべてf3とf6であるならば,f3=4

  すなわち,球面を六角形と三角形で覆うとしたら,ちょうど4個の三角形が必要である.

 一般に,球面を六角形とn角形で覆うとしたら,ちょうどk=12/(6−n)個のn角形が必要である.

(6)多面体の面がすべてf4とf6であるならば,f4=6

(7)多面体の面がすべてf5とf6であるならば,f5=12

 n=3,4,5のとき,

  k=12/(6−n)=4,6,12

であるが,これは正多面体の面数と同じである.

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