■双子の正十六面体は変形するか?

 コラム「デルタ多面体の木工製作」では,デルタ12面体の設計をした.デルタ12面体は双子の正十二面体とも呼ばれる多面体であるが,凸なので変形しない.実際,

  w=f(h)=(4−h^2)^1/2sin(3arctan(3−h^2)^-1/2)

とおいて,y=x,y=g(f(x))の交点を求めてみると,交点はひとつだけであった(x=1.28917).

 それに対して,コラム「変形するデルタ20面体に対する疑義」に掲げた2個の重五角錐が直角に交わったような双子の正二十面体では,

  w=f(h)=(4−h^2)^1/2sin(5arctan(3−h^2)^-1/2)

とおいて,y=x,y=g(f(x))のグラフを描いてみると,交点が3箇所あることがわかった(x=0.1424,x=0.6545,x=0.9847).すなわち,双子の正二十面体は3つの安定した形状をとるのである.

 それでは,2つのクロス重角錐の中間に位置する「双子の正十六面体」の場合,交点はふたつあるのだろうか? ふたつあれば変形するということになるのだが,本当だろうか?

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【1】重四角錐の高さ

 まず,1辺の長さを1とする重四角錐(正八面体)の高さhを求めてみることにする.ピタゴラスの定理を使えば中高生でも簡単に確かめることができると思われるが,

  1/(3−h^2)^(1/2)=tan45°=1

より

  h=√2=1.41421

となる.

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【2】重四角錐の開口関数

 重四角錐(正八面体)に1本の切れ込みを入れると,口の開いた重四角錐が得られる.一方の開口重四角錐の高さhから開口の大きさwを求める.式はピタゴラスの定理から簡単に求められ,

  w=f(h)=(4−h^2)^1/2sin(4arctan(3−h^2)^-1/2)

 これは他方の開口重四角錐の高さとなるから,

  h=g(w)=(4−w^2)^1/2sin(4arctan(3−w^2)^-1/2)

 ここで,2つの開口重四角錐が歪みなしに接合できるための条件は

  h=g(f(h))   h:0〜1.41421

である.

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【3】プログラムによる検証

  w=f(h)=(4−h^2)^1/2sin(4arctan(3−h^2)^-1/2)

とおいて,y=x,y=g(f(x))の交点を求めてみよう.グラフを描いてみるまでもなく,以下のような簡単なプログラムでも交点はひとつだけであることが確かめられる(x=1.03296).

100 PI=3.14159

110 N=4

120 MADE=SQR(3-1/TAN(PI/N)/TAN(PI/N))

130 FOR X=0 TO MADE STEP .05

140 Y=SQR(4-X*X)*SIN(N*ATN(1/SQR(3-X*X)))

150 IF (3-Y*Y)<=0 THEN 180

160 Z=SQR(4-Y*Y)*SIN(N*ATN(1/SQR(3-Y*Y)))

170 PRINT X,Z,X-Z

180 NEXT X

190 END

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【4】雑感

 双子の正十二面体はそもそも凸多面体であるから変形しない.それに対して,双子の正二十面体は凸でない.この「変形するデルタ20面体」を初めて模型にしたのはマイケル・ゴールドバーグであるが,彼がこの多面体を発見したのは偶然ではない.この多面体が3つの安定した形状をとることは既に知られていたようである.

 双子の正十六面体も凸ではない.ゴールドバーグは論文

  Goldberg, M: Unstable polyhedral structures, Mathematics Magazine, May, 1978

の中で双子の正二十面体の場合しか述べていないが,それだけしか調べなかったことはあり得ないものと思われる.双子の正十六面体の場合も調べてみて,唯一の安定な形状を与えたはずである・・・そのように考えるほうが自然な見方であろう.

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