中川宏さんはこれまでプラトン・アルキメデス・カタラン立体,フェドロフ立体,ケプラー・ポアンソの星形正多面体,コクセター・ペトリーのねじれ正多面体の木工製作を手がけてきたが,ジョンソン・ザルガラーの正多角面体については双側3角柱,双三角台塔,異相双四角台塔柱のみである.
正多角面体の中にはじゅげむ式の長い名前がつけられているものもあるから,N26,N27,N37と呼んだ方がわかりやすいかもしれない.このシリーズでは,中川さんに正多角面体の木工製作にチャレンジしてもらうことになった.
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【1】ジョンソン・ザルガラー多面体(正多角面体)
1966年,ロシアの数学者ザルガラーは正多角面体(すべての面が正多角形である凸多面体)は正多面体(プラトン体),準正多面体(アルキメデス体),角柱,反角柱を除くと92種類存在することを証明しました.これもコンピュータの手を借りることで解決されました.アメリカのジョンソンも独立にこの分類を完成させています.
ついでにいうと,デルタ多面体やミラーの多面体もジョンソン・ザルガラー多面体に含まれます.92種類もあるザルガラー多面体を整理するには,分解可能性という考え方を取り入れると便利です.たとえば,正多面体のうちで分解不可能なものは正4面体,正6面体,正12面体の3種類です.正8面体は2つの正4角錐の合成であり,正20面体は2つの正5角錐と正5角反柱の合成です.
なお,「ポリドロン」には辺の長さの等しい正3角形,正4角形,正5角形,正6角形のユニットがあります.92種類あるザルガラー多面体の面は正3角形,正4角形,正5角形,正6角形,正8角形,正10角形のいずれかなので,ポリドロンで多くのザルガラー多面体を構成することができます.
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【2】双側3角柱(N26)
コンウェイの二重プリズムは4枚の合同な三角形と4枚の合同な平行四辺形からなっていますが,空間充填可能という性質を保持しながら引き伸ばしたりひねったりする変形を考えることができます.
うまく伸縮させると4枚の正三角形面と4枚の正方形面からなる「双側3角柱」と呼ばれる立体ができあがります.接合面の頂角はπ/2(2πの有理数倍)ですから,双側3角柱は周期的にも非周期的にも積み上げることができます.
双側3角柱は1×1×√3の直方体のブロックを二面角
正三角形面・正方形面間 150°
正方形面・正方形面間 60°
で切稜することによって作ることができます.
双側3角柱は面は正則ですからすべての辺の長さは等しくなりますが,頂点は等価(すべての頂点の周りが一定)ではないので準正多面体には含まれません.この多面体は正多角面体(ザルガラー多面体)の1種です.
[参]関口次郎「多面体の数理とグラフィックス」牧野書店
によると,双側3角柱はN26に分類されています.
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【3】双三角台塔(N27)
空間に球を配置させるとき,1層目を六角形に並べて2層目を1層目のくぼみに入るように重ねる.しかし,3層目を載せるとき2種類の載せ方がある. (1)1層目,2層目の真上にこないように載せる
(2)1層目の真上にくるように載せる
いずれにしても各球は12個のまわりの球と接するのだが,(1)の方が対称性が高く,12個の球の中心を結ぶと立方八面体が現れる.(2)は立方八面体を六角形の赤道のところでねじった形になる.これが双三角台塔である.
立方八面体の3−4の二面角は70.5288+54.7357=125.264度と計算されるが,ねじったことによって新しくできるの3−3,4−4の二面角はそれぞれ
70.5288+70.5288=141.058
54.7357+54.7357=109.471
となる.
六角柱を切稜することによって双三角台塔ができるが,六角形の1辺を1とした場合,高さは1.63299のものが必要になる.六角柱からは菱形12面体,立方八面体,双三角台塔ができるからこれらをひとつのグループとして扱うこともできるだろう.
中川宏さん製作の木工模型を掲げる(左:立方八面体,右:双三角台塔).立方八面体の天地面の正三角形は逆向きだが,双三角台塔は立方八面体を六角形の赤道のところで60°ねじった形になっているため,天地面の正三角形は同じ向きになる.双三角台塔を積んでみると空間充填模型となるが,中川さんのお話では予想外の隙間が見えるそうだ.
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【4】異相双四角台塔柱(N37)
ミラーの多面体は小菱形立方八面体[3,4,4,4]の一方の八角鉢だけを45°回転させたものです.すなわち,小菱形立方八面体の八角鉢状の上蓋を45°ねじった「異性体」と考えられます.
ミラーの多面体は正八面体群にはなりません.ミラーの多面体のねじれは切稜立方体の工程を一部変えることによって作ることができます.
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