ときに仰天させられる結果に出会うことがある.今回のコラムでは,正の整数nを2つの整数の平方和で表す方法:n=x^2+y^2が平均してπ通りあることを紹介する.
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【1】ラグランジュの定理(4平方和定理)
「すべての正の整数は高々4個の整数の平方和で表される」というのが,ラグランジュの定理です.すなわち,ラグランジュの定理は4次元空間内の原点を中心とする半径√nの球面には必ず格子点があることを主張しているわけです.半径√nの2次元の円,3次元の球には格子点が存在するとは限らないのです.
4=(±1)^2+(±1)^2+(±1)^2+(±1)^2 16通り
4=(±2)^2+0^2+0^2+0^2 +8通り
のように,順列,符号,0を含む4個の平方数による分割
n=x1^2+x2^2+x3^2+x4^2
の解の個数をR(n)で表せば,1829年,ヤコビは
R(n)= 8Σ(2d+1) n≡1(mod 2)
R(n)=24Σ(2d+1) n≡0(mod 2)
Σは(2d+1)|nをわたる
を示しました.すなわち,4で割り切れないnの約数の8倍です.
R(4)=8(1+2)=24
この出発点となった考え方は,
{Σq^(n^2)}^4=ΣR(n)q^n
=1+8nq^n/(1-q^n)
の2つの表現のq^nの係数を比較することであって,Σq^(n^2)はテータ関数です.R(n)を求めるのにヤコビはテータ関数を用いたのですが,それ以来,モジュラー形式などの解析的理論が数論へ応用されるようになり,ヤコビは2,4,6,8個の平方の和に分解する仕方の数,エルミートは3,5個の平方の和に分解する仕方の数を得ています.
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【2】2平方和定理と3平方和定理
どの場合に2つで済むのか,3つで済むのか?という問題は,ラグランジュの定理に先行するフェルマー・オイラーの定理,オイラー・ルジャンドルの定理で解決されています.
[1]フェルマー・オイラーの定理(2平方和定理)
特別な素数である2を除外して,素数は4で割ると余りが1になるもの(5,13,17,29,37,41,・・・)と3になるもの(3,7,11,19,23,31,・・・)の2種類に分けられます.
このうち,4n+1の形の素数は2つの整数の平方の和として表されます.たとえば,5=1^2+2^2,13=2^2+3^2,17=1^2+4^2,29=2^2+5^2
幾何学的な解釈を与えると半径√pの円上には8個の格子点が存在するのです.しかし,4n+3の形の素数は1つもこのようには表せないのです.この定理はフェルマーの定理と呼ばれ,フェルマーは無限降下法でこれを証明しましたが,その証明は不十分で,100年後のオイラーによって完全な証明がなされています.
それでは,どのような自然数mが2つの平方数の和の形に書くことができるのでしょうか? 2つの平方数の和になる数m=4n+3はありません.mの素因数分解におけるp=4n+3の形のすべての素因数の指数が偶数であるときに限り,2つの平方数の和の形に表すことができるのです.
すなわち,
p=1 (mod3)
q=−1 (mod3)
m=2^aΠp^bΠq^c
において,すべてのcが偶数のとき,m=x^2+y^2に対する解は存在するのです.
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[2]ガウス・ルジャンドルの定理(3平方和定理)
4n+3の形の素数は2個の平方数の和で表せませんが,同様にして,
「8n+7の形の素数は3個の平方数の和では表されない.」
4の非負のベキをかけたときの自然数m≠4^k(8n+7)はmが高々3個の平方数で表されるための必要十分条件です.すなわち,
x^2+y^2+z^2≠4^k(8n+7)
のときに限って整数解をもちます.
このことは、平均して全整数の
1/8+1/4・8+1/16・8+・・・=1/6
は三平方和で表すことができないことを意味しています.
ガウスの定理ともルジャンドルの定理とも呼ばれますが,ルジャンドルは2次形式ax^2+by^2+cz^2の研究を通して,より一般的な3元2次形式論として,この結果を得ています.
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【3】n=x^2+y^2
和の順序や整数の正負も区別すると,2は2つの平方数の和で4通りに表せる.
2=(±1)^2+(±1)^2
しかし,3は2つの平方数の和では表せない数である.5は
5=(±2)^2+(±1)^2
5=(±1)^2+(±2)^2
と書けるから8通りに表せる.そこで
[Q]正の整数nを2つの平方数の和で表す方法は,平均して何通りあるか?
[A]たとえば,1,2,・・・,10の表し方の個数はそれぞれ,4,4,0,4,8,0,0,4,4,8だから,平均は3.6である.128までのとき,平均は3.15625となるそうだ.
平均してπ通りあるのだが,共通点がなにもないようなこんな意外なところになぜπが出てくるのだろうか? πは2つの異質な対象を密接に関係づけるのだが,πについての別のおもしろい問題「互いに素となる整数」がある.
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1つの数が素数piによって割り切れる確率は1/pi,両方の数が同じ素数で割り切れる確率は1/pi^2になります.2つの数がどちらもpiで割り切れない確率は1−1/pi^2ですから,互いに素である確率はΠ(1−1/pi^2).
ここで,
Π1/(1−1/pi^2)=Π(1+1/pi^2+1/pi^4+・・・)=Σ1/n^2=ζ(2)
したがって,2つの整数が互いに素である確率は1/ζ(2)=6/π^2(0.608)すなわち,2つの無作為に選んだ整数が互いに素である確率は1/ζ(2)=6/π^2 (61%)となります.
同様にして3つの整数が互いに素である確率は1/ζ(3)=0.832、4つの整数が互いに素である確率は1/ζ(4)=90/π^4(0.9239)を得ることができます.オイラー積により,1/ζ(s)はs個の整数を勝手に選んだとき,同時に割り切ることのできる1でない数が存在しない確率であることがわかります.
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