今回のコラムでは,平面幾何学からいくつかのおもしろい定理を紹介する.
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【1】ナポレオンの定理
数学が得意だったフランス皇帝ナポレオンが若い頃に発見したと伝えられている定理が,ナポレオンの定理「任意の三角形の各辺の外側に正三角形を作ったとき,それらの重心を結ぶと正三角形が得られる」です.
三角形の各辺の内側に正三角形を作ったときも,それらの重心を結ぶと正三角形が得られます.これらの2つの正三角形の重心は一致し,その面積の差は最初の三角形の面積に等しくなります.
ナポレオン点は,頂点と外正三角形の中心を結ぶ直線の共点として得られます.一方,第2ナポレオン点は頂点と内正三角形の中心を結ぶ直線の共点として得られます.フェルマー点・ナポレオン点・外心は同一直線上にあり,フェルマー点・第2ナポレオン点・フォイエルバッハの9点円の中心は同一直線上にあります.
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【2】オーベルの定理
「任意の四角形の各辺の外側に正方形を作ったとき,向かい合う正方形の重心を結ぶ2本の線分の長さは等しく直交する」
四角形の各辺の内側に正方形を作ったときも,向かい合う正方形の重心を結ぶと長さが等しく直交する2本の短い線分が得られます.2本の短い線分と2本の長い線分は互いの中点で交わる.
このような中点は2点あるが,これらの中点を結んだ線分の中点は最初の四角形の頂点の重心(a+b+c+d)/4と一致する.
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【3】四角形の重心は何処?
三角形の3つの中線は一点で交わります.この交点が三角形の重心です.原点Oに対する三角形ABCの3頂点A,B,Cの位置ベクトルをそれぞれa,b,cとすれば,重心の位置ベクトルは(a+b+c)/3となります.三角形の形をした均一な板の重心は3つの中線の交点,すなわち重心にあります.この点(一様な三角形の重心)は3つの頂点の重心(a+b+c)/3,すなわち三角形の頂点におかれた3つの等しい質量の中心(物理的重心)に一致します.
一方,四面体ABCDの3組の相対する辺の中点を結ぶ直線は1点で交わり,この交点の位置ベクトルは(a+b+c+d)/4となります.三角形と同様に,一様な四面体の重心はその4つの頂点の重心(a+b+c+d)/4と一致します.一様な棒の重心は両端の間の距離を1:1に,三角形の重心は中線を2:1に,四面体の重心は頂点と向かいあう面の重心との距離を3:1に内分します.すなわち,四面体の重心は1つの面の重心から対頂点に引いた直線の1/4の点にあります.4次元以上でもこの規則性が失われることはありそうもなく同様に類推されます.三角形の重心の性質は四面体に遺伝するのです.
ところが,四角形ABCDの重心Gにはうまい性質がありません.三角形からの類推で,四角形の重心は(a+b+c+d)/4となるような気もします.しかし,これは4点A,B,C,Dに等しい質量がある場合の重心であって,密度一様な板の場合には当てはまりません.
多角形の各頂点に同じ重さのおもりをつけたときの釣り合いの位置を「頂点の重心」と呼ぶことにすると,任意の四角形の4辺の中点は平行四辺形の頂点になりますから,ABの中点とCDの中点とを結ぶ直線とADの中点とBCの中点を結ぶ直線との交点は四角形の頂点の重心(a+b+c+d)/4に当たります.この点は2対角線の中点を結ぶ線分を1:1に内分します.ここで,d→cすなわち三角形の1つの頂点の付近をちょっと切り取った限りなく三角形に近い四角形を考えると
(a+b+c+d)/4→(a+b+2c)/4
ですから,(a+b+c)/3には一致せず,(a+b+c+d)/4は重心ではないことがわかります.三角形では頂点の重心は普通の意味の重心(a+b+c)/3に一致しますが,四角形ではそうではないのです.一般にベクトルak に同一の質量があるとき,この質点系の重心はベクトル(a1 +a2 +・・・+an )/nで表されます.三角形については,これは均質な板の重心と一致しますが,n≧4では均質な板の重心と頂点のみの質点系の重心とは一致しません.それでは,四角形の薄板の重心はどこに位置するのでしょうか.
四角形ABCDを対角線ACで,三角形ABCと三角形CDAに分けると△ABCの重心G1 と△CDAの重心G2 を結ぶ直線上で,各々の面積を逆比に内分する点に重心Gがあります.対角線BDで分けると△ABDの重心G3 と△BCDの重心G4 を結ぶ直線との交点が重心Gとなります.何とか式で表現できないかと考えて,次のような結果を得ました.
重心Gの位置ベクトルをg,三角形ABCの面積を△ABC,四角形ABCDの面積を□と書くことにすると,
g={△ABC(a+b+c)+△CDA(c+d+a)}/3□・・・(1)
g={△ABD(a+b+d)+△BCD(b+c+d)}/3□・・・(2)
(1)+(2)を実行すれば
g={(2□−△BCD)a+(2□−△CDA)b+(2□−△DAB)c+(2□−△ABC)d}/6□
=(a+b+c+d)/3−{△BCD・a+△CDA・b+△DAB・c+△ABC・d}/6□
問題はa,b,c,dに対して対称的ですから,重点の式はa,b,c,dを取り替えても変わらないものでなければなりません.ベクトルの外積を用いると△ABCは,1/2(b−a)×(c−a)=1/2(b×c+c×a+a×b)で与えられますから,gの対称式が得られます.
四角形の重心Gを作図によって求めるためには,4辺の中点が必要になります.あるいは,四角形の各辺の3等分点をとり,隣り合った等分点を結ぶと平行四辺形ができますが,四角形の重心Gはその平行四辺形の中心と一致します.四角形の重心の作図法については,黒田俊郎「コマと重心」(数学セミナー・リーディングス「新しい高校数学の展望」(日本評論社)やコクセター「幾何学入門」(明治図書)にも記述があります.なお,3本の均一な針金でできた縁だけの三角形(いわば一次元の三角形)の重心は,三角形の各辺の中点を結んだ三角形の内心に位置します.
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