コラム「射影幾何学における2つの定理」(その2)(その4)において,「パップスの定理」という非常に古い定理を紹介した.この定理は代数幾何の観点からいっても色褪せない美しい定理である.
パップスの定理は直線の固有の性質というものではなく,円でも同様に成り立つことをパスカルが発見する.
パスカルの定理:円に内接する六角形の対辺の交点は共線である.
その後,楕円でも双曲線でも広く成り立つことがわかった.すなわち,パスカルの定理の主張されている円を底面にもつ円錘を考えて,その円錐を斜めに切ることで一般の円錐曲線に対してもパスカルの定理が成り立つのである.
最初に発見されたときには直線固有の性質を使って証明されているが,徐々にそのような強い性質は不要であり,本質はもっと他の図形も備えている別の性質にある・・・このように具体的な法則を見つけて,それが一般的な対象についても成り立つというような探求を極限まで進めていくのが代数幾何の思想である.
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【1】パップスの定理
「直線上に3点A,B,C,もう一つの直線上に3点A’,B’,C’をとる.AB’とA’Bの交点をP,BC’とB’Cの交点をQ,AC’とA’Cの交点をRとするとき,P,Q,Rは同一直線上にある.」
すなわち,2つの直線上にそれぞれ3点ずつとってクモの糸のように結ぶと,新しくできる交点3つは共線をなして並ぶ,2直線上にすべての頂点がのっている6角形の反対側の位置にある辺同士の交点は同一直線上にあるというのが射影幾何学におけるパップスの定理である.
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【2】パスカルの円錐曲線定理(1640年)
円錐曲線すなわち楕円,双曲線,放物線に内接する任意の六角形の三組の対辺の交点は同一直線上にある.
円錐曲線には種々の形があります.直線は無限半径をもつ円ですが,2本の直線からなる退化した円錐曲線(ax+by+c)(dx+ey+f)=0を考えればパップスの定理にたどりつきます.パスカルの定理は円錐曲線が既約でない場合にも成り立つというわけで,どのような円錐曲線でもこの定理が成り立つことが主張されているのです.
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パスカルは,直線を直線に移す円板の非ユークリッド幾何学的な変換
x’=(ax+by+c)/(ux+vy+w)
y’=(dx+ey+f)/(ux+vy+w)
を行っても定理で述べられた性質は保たれることを見抜いて簡明な証明を与えています.
たとえば,
x’=2x/(1+y)
y’=(1−y)/(1+y)
と変数変換すると単位円x’^2+y’^2=1は放物線y=x^2になり
x’=2/(x+y)
y’=(−x+y)/(x+y)
と変数変換すると単位円x’^2+y’^2=1は双曲線xy=1になります.この変換によって直線の交差する角度や線分の長さは保たれませんが,これが射影幾何学の視点であって,射影幾何学とは長さや角の大きさに無関係に,例えば,いくつかの点がある直線上にあるといった関係,射影によって不変な図形の性質を研究する学問です.
この変換によって,射影平面上では円錐曲線はただ1種類しかなく,双曲線・放物線・楕円などの区別はなく,どれも同種の曲線となります.したがって,パスカルの円錐曲線定理は円に対する証明を示せば直ちに得られることになります.実際,問題が簡単な形になったことで,パスカルは古典幾何学的に円に対する証明を与えていますが,それで放物線に対しては直接証明することなしに自動的に定理が導かれたというわけです.
パスカルの定理の重要な系が「円錐曲線は任意の5点で一意に定まる」です.パスカルの定理から150年以上たって,その双対にある共点定理「円錐曲線の外接する6辺形の対角線は1点で交わる」が発見されたのですが,それがブリアンションの定理です.また,射影平面上では点という語と直線という語を入れ替えても定理は成り立っています.これをポンスレーの双対原理と呼び,射影幾何学の最も美しい特質です.
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【3】パスカルの円錐曲線定理の拡張
円錐曲線上に6点を定める.3次曲線E1,E2がこれら6点を通るとき,E1,E2はさらに3点R,S,Tで交差するが,これらの交点は同一直線上にある.
3次曲線E1,E2は一般に9個の交点をもちますから,前述のパスカルの定理は,拡張形定理(2次曲線あるいは3次曲線相互の交点が直線上に並ぶことを主張する定理)において,3次曲線が直線に退化した特別な場合:(ax+by+c)(dx+ey+f)(gx+hy+i)=0とみなすことができます.
この拡張形定理は楕円曲線:y^2=x^3+ax+b (4a^3+27b^2≠0)の結合法則をも保証するものであって,その意味では楕円曲線論,代数曲線論における基本定理の原型となる重要な定理となっていて,代数幾何学の重要な定理と深く関わっています.
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(証)3次曲線とはf(x,y)=0が2変数x,yの3次あるいは3次以下の方程式で与えられた曲線
a1x^3+a2y^3+a3xy^2+a4x^2y+a5x^2+a6y^2+a7xy+ax8+a9y+a10=0
で,一般式の項数は10になります.
平面内n次曲線f(x,y)=0の一般式の項数は,
3Hn=n+2Cn=(n+2)(n+1)/2
で計算されます.n次平面代数曲線の方程式f(x,y)=0は,(n+1)(n+2)/2個の係数をもっていますが,fに定数を掛けても曲線は変わりませんから,n次曲線はn(n+3)/2個のパラメータに依っていることになります.そこで,平面内に与えられたn(n+3)/2個の点(xi,yi)を通るという条件によって曲線を決定するという問題が自然に提起されます.
すなわち,交点は勝手な配置が許されるのではなく,拘束条件を満たすように配置されるのですが,この定理の場合,円錐曲線:Q(x,y)=0,E1:F(x,y)=0,E2=G(x,y)=0,R,Sを通る直線:L(x,y)=0とすると,
G(x,y)=λF(x,y)+μQ(x,y)L(x,y)
の形で与えられることから,R,S,Tが直線上に並ぶことが証明されます.
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【4】オイラーの定理
2つの3次曲線が9点で交わっているとき,9個の交点のうち8個を通る3次曲線は残りの1点をも通る.
オイラーの定理の重要な系がパスカルの拡張形定理「2つの3次曲線が9点で交わっているとき,9点中6点がひとつの2次曲線上にあれば,残りの3点は1直線上にある」です.一般に,2つのn次曲線f(x,y)=0とg(x,y)=0がn^2個の点で交わっているとします.こられのn^2個の交点中,n^2+n−2個の交点を通るn次曲線は残りのn−2個の点も通り,
f(x,y)+tg(x,y)=0
で表されます.
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