■パスカルの定理の仲間達(その3)

【1】平面代数曲線

 2変数x,yの多項式f(x,y)=0で定義される曲線を平面代数曲線と呼びます.f(x,y)=0が2次式の場合,その一般式は,

  ax^2+hxy+by^2+cx+dy+e=0

のごとく,項数6の多項式として書くことができます.2次曲線には楕円,放物線,双曲線があり,それらは円錐(必ずしも直円錐でなくてよい)を平面で切断したときの切り口として現れる一群の曲線,すなわち円錐曲線として古代ギリシャにおいて完全に考察されていました.ある緯度の位置に立てられた棒の影の先端が描く曲線は,その緯度によって楕円,放物線,双曲線のいずれかを描きます.

 何世紀も経た後,それらは惑星運動のケプラーの法則,そしてまたニュートンの力学において大きな役割を果たしました.天体力学では互いに引力を及ぼしあっている二つの物体は楕円,放物線,双曲線のうちのいずれかの軌道になります.例えば,地球から打ち上げた人工衛星の初速が秒速7.9km(第1宇宙速度)のとき円,それ以上で秒速11.2km(第2宇宙速度)以下のとき地球を焦点とする楕円,秒速11.2kmのとき放物線,それより速いときは双曲線を描くといった具合です.放物線軌道,双曲線軌道になると地球の重力圏を脱出し,もう地球に戻ってくることはありません.このように,円錐曲線は天文学において重要な役割を果たすことになり,力学と幾何学の間には美しい調和が存在していることになります.

 一直線上にない3点を通る2次曲線,3点を通る3次曲線はただひとつ存在しますが,それは座標軸の方向が定まっている場合であって,一般には,平面上の任意の位置にある5点が唯一の円錐曲線を決定します.ニュートンは「プリンキピア」のなかで5点を通る円錐曲線の作図法などを案出しながら壮大な天体力学を展開しています.

 同様に,3次曲線とはf(x,y)=0が2変数x,yの3次あるいは3次以下の方程式で与えられた曲線です.3次曲線の例としては,ディオクレスのシッソイド(x^3+xy^2=y^2)があげられますが,これは古代ギリシアにおいて立方体倍積問題に用いられた曲線です.また,

  y=x^3+x^2+x+1

  y^3=xy^2−2x^2y+y−3

なども3次曲線で,一般式の項数は10になります.平面内n次曲線f(x,y)=0の一般式の項数は,

  3Hn=n+2Cn=(n+2)(n+1)/2

で計算されます.

 平面内の2次曲線や空間内の2次曲面の分類はよく知られていて,高校で習うところです.2次曲線の分類については,3種類の円錐曲線,すなわち楕円,双曲線,放物線になることは既に述べたとおりですが,同じことをもっと高次の曲線・曲面に対して考えるのは自然なことでしょう.18,19世紀になると,2次曲線論に続いて3次および4次曲線について論じられました.

 3次曲線の分類には,2次曲線とは異なった種類の難解さが要求されましたが,ニュートンはあらゆる場合を考察して,最終的に3次曲線は全部で78種類が必要であることを示すに至り,さらに3次曲線の一般式が5個の標準形に帰することを示しました.ニュートンはこうした研究を応用して,2次曲線上の5点,3次曲線上の7点が与えられた場合にこれを作図する方法を見いだしています.

 ニュートンの3次曲線の分類に引き続いて,オイラーは4次平面曲線の分類を企てましたが,可能な場合の数が非常に多いという理由で断念しています.この問題に対する答えは長い間知られていなかったのですが,プリュッカーが19世紀に4次曲線の152の型を数え上げることによって解かれました.プリュッカーはオイラーが4次曲線の分類で犯した多くの誤りを見つけたのですが,18世紀の解析幾何とは違って,高次曲線,曲面は解析幾何の対称ではなく,代数幾何の分野となりました.

[補]ニュートンは係数の値によってとりうる3次曲線の形を72種類挙げた.しかし,実際には78種類あり,残り6種類のうち4種類はスターリング,2種類はニコルとベルヌーイが発見している.

[補]代数幾何学において重要な変換に双有理変換(クレモナ変換)があるが,ニュートンは楕円,放物線,双曲線から3次曲線を得るのに双有理変換を使っている.この例からわかるように代数曲線の次数は双有理変換で不変ではないが,種数は不変である.すなわち,ニュートンは代数操作という変換を用いており,78種類というのは(幾何学的な分類ではなく)代数的な分類となっている.プリュカーは幾何学的な分類方法によって3次曲線を219種に分類している(1835年).

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【2】ライス(Reiss)の公式

 y=f(x)上の点P(x,y)における1階の導関数は点Pにおける勾配であり,2階の導関数は点Pにおける曲率κと関係している.点Pを通ってx軸と平行な直線となす角度をαとすると

  κ=f”(x)/f’(x)・sin^3α

が成り立つ.

 もし,次数qの曲線がq個の相異なる点でx軸と交わるならば

  Σκ/sin^3α=0

が成り立つ.

 もし,x軸上にq個の異なる点と各点での勾配を指定すると,与えられた条件を満足するq次の代数曲線は常に存在するが,ライスの公式によってすべての点で任意の曲率を指定することはできない.曲率のひとつは他の曲率と勾配よって支配されるのである.

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