今回のコラムではQの円分拡大のガロア理論を用いて,
[Q]角δがcosδ=1/3を満たすならば,δはπの有理数倍ではない
ことを証明する.
[参]Hartshorne "Geometry: Euclid and Beyond", Springer-Verlag
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【1】円分体
円周のn分の1の角をα=2π/nとするとき,
ζ=exp(αi)=cosα+isinα
は1のn乗根である.1,ζ,ζ^2,・・・,ζ^(n-1)のなかで,(d,n)=1となるζ^dを1の原始n乗根とよぶ.
また,
Φn(x)=Π(x−ζ^d)=(x^n−1)/ΠΦd(x)
はn次の円分多項式とよばれる.その次数はオイラーのφ関数
φ(n)=#{1≦d<n,(d,n)≠1}
で与えられる.
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【2】円分拡大のガロア理論
体Q(ζ)はQ上n次の円分拡大と呼ばれ,
ζ=exp(αi)=cosα+isinα
で生成される.それはQ上,次数φ(n)をもち,そのガロア群はZnと同型である.とくにnが素数pのとき,次数p−1をもち,そのガロア群はZpと同型の位数p−1の巡回群である.
る.
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【3】正四面体の場合
cosδ=1/3,sinδ=√8/3
であるから
z=cosδ+isinδ=1/3+i√8/3
を考える.
z−1/3=i√8/3
より,zは2次方程式3z^2−2z+3=0の解である.それゆえ,zはQ上の2次拡大体Q(z)=Q(−√2)を生成する.
δがπの有理数倍ならは,
δ=p/q・2π (p,q)=1
と書ける.zは1のq乗根となるから,円分多項式Φq(z)の次数はφ(q)=2となる.
もし,q=p1^e1p2^e2・・・pd^edと素因数分解されるならば
φ(q)=Πpi^ei-1(pi−1)
であるから,φ(q)=2を与えるqはq=3,4,6のみで,これらに対応する拡大体はQ(√−3)とQ(i)である.
どちらもQ(√−2)と異なるので矛盾,したがって,δはπの有理数倍ではない.
正八面体→Q(√−2)
正十二面体→Q(√−5)
正二十面体→Q(√−5)
の場合も同様に,δはπの有理数倍ではない.
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【4】雑感
(その7)より概念的な証明になっていることがみてとれたであろうと思う.ところで,Q(√2),Q(√3)はQ上の2次拡大体であるが,Q(√2,√3)はQ上,次数4の拡大であり,基底として元1,√2,√3,√6をとることができる.いいかえれば,Q(√2,√3)体のどの元も
a+b√2+c√3+d√6
の形にただ1通りに書ける.
[秋山の定理:2009]正多面体の元素数は≧4である.
の場合,Q上の4次拡大体Q(√−2,√−5)に対して,
N1δ4+N2δ12+N3δ20≠0 (mod π)
を証明しなければならないのである.
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