■オイラーの定数γをめぐって

 数には整数,分数,根号数,超越数の種類があり,整数,有理数,代数的数,実数という階層をなしています.整数,分数,根号数は数直線のうちのほんのわずかな部分を占めるにすぎません.数直線上の数の大部分を占めるのはπやeなどの超越数です.超越数の集合の大きさはルベーグ測度1であり,実数から無作為にひとつ数を選ぶとしたら,それは超越数なのです.

 今日に至るまで,オイラーの定数γの値は有理数とも無理数ともわかっていません.おそらく超越数なのでしょうが,先日,佐藤洸風さんから

  [参]Havil著,新妻弘監訳「オイラーの定数ガンマ」共立出版

を献本していただきました.

 原著は一般書として出版され,アメリカではベストセラーになった経緯があるそうです.ガンマを軸にしながら数学の話題をこれでもかと詰め込んだような印象を受けましたが,今回のコラムではお礼の意味もあって,コラム「無理数・代数的数・超越数(その9)」を補完してみたいと思います.

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【1】オイラーの定数

  Hn =1/1+1/2+1/3+1/4+・・・+1/n

と定義します.(n>1ならばHn は整数にはなりません.)

 nを無限大にしたとき,調和級数

  H∞=1/1+1/2+1/3+1/4+・・・

は発散しますが,そのn次部分和Hnは離散的な世界で連続関数lnnに対応するものであり,自然対数は双曲線y=1/xの下の面積として定義できます.

 したがって,双曲線y=1/xを上と下から棒グラフではさんで近似することにより,lognとlogn+1の間に押し込まれまれることがわかります(∵∫1/xdx=logx).

 Hn とlognの比{Hn /logn}は

  Hn /logn→1   (n→∞)

です.一方,Hn とlognの差{Hn −logn}は確定した極限値γに収束します.

  Hn =logn+γ+o(1)

  Hn −logn→γ   (n→∞:Hn =logn+γ+O(1/n))

 この極限値はオイラーの定数として知られており,約0.57722になります.オイラーの定数の比較的よい近似値は4/7で,さらによい近似値は41/71で与えられます.

 Hn は上限と下限の間の約58%のところにあることがわかりましたが,オイラーの定数γを極限値lim(Σ1/k−lnn)を直接計算するのは収束が遅くて非効率的です.そこで,

  log(1+x)=x−x^2/2+x^3/3−x^4/4+・・・

  log(1+1/x)=1/x−1/(2x^2)+1/(3x^3)−1/(4x^4)+・・・

より

  logΓ(1+s)=−γs+ζ(2)/2s^2−ζ(3)/3s^3+・・・

これを用いると

  γ=ζ(2)/2−ζ(3)/3+ζ(4)/4−ζ(5)/5+・・・

あるいは

  γ=1−1/2(ζ(2)−1)−1/3(ζ(3)−1)−1/4(ζ(4)−1)−・・・

などと書けることになります.これらの無限級数はかなり速く収束します.

 なお、素数の逆数の和Σ(1/p)については

  lim{Σ(1/p)−loglogn}→0.26149・・・

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【2】ベンフォードの法則(ニューカムの法則)

 1938年,GEの物理学者ベンフォードは対数表の対数表の最初が残りの部分よりもひどく汚れていることに気づき,「1ではじまる数が多いのはなぜか」という問題に説明を与えました.

 先頭の数字がどのような確率で出現するかを考えましょう.単純に各数字(0〜9)の出現確率が同じと考えれば,同じ確率1/9で現れるはずですが,実際には1から始まる数値が圧倒的に多く30%くらいもあります.

 たとえば,簡単な例として,2のベキ乗2^nを順に並べてそれぞれの最大桁の数を取り出すと

  2,4,8,16,32,64,128,256,512,1024,2048,・・・

  →2,4,8,1,3,6,1,2,5,1,2,・・・

となっているのですが,倍にした数が9で始まるためには,その前の数字が45−49で始まっていなければなりません.それに対して,5−9で始まる数はどれも倍にすると1で始まる数になります.そして,最大桁がk(1≦k≦9)である確率はn→∞のとき,

  log10((k+1)/k)

に収束することが知られています.

 したがって,最大桁の頻度は1が一番高く

  1→log102=0.3010,

以下,

  2→log103/2=0.1761,

  3→log104/3,

  ・・・・・・・・・,

  9→log1010/9=.0458

の順になるというわけです.

 このことは計算尺を見れば1で始まる数が全体の約30%を占めることとまったく同じで,逆に,9から始まる数値は4.5%程度まで落ちるのです.この現象はベンフォードの法則として知られていますが,実はアメリカの天文学者ニューカムが1881年に発見したのが最初ということです.

[補]フィボナッチ数の1000項までの最高位の数もこの法則に従っていることがわかります.

数     1   2   3  4  5  6  7  8  9

頻度  301 177 177 96 80 67 56 53 45

 フィボナッチ(Fibonacci)数列は,項比が黄金比に近づくという性質がなかに隠されている慨指数関数的増加数列なのですが,黄金比がギリシア文字のφで表されることから,phi-bonacci数列と呼ぶ人さえいます.

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【3】ベンフォードの法則=尺度不変性

 1961年,数学者ビンカムは「尺度不変性があれば,ベンフォードの法則が成立する」ことを証明しました.尺度不変性(scale invariance)=パワー則ですが,驚いたことにベンフォードの法則はパワー則の表れ,すなわち,この世界には指数的に増加するものが多いということになります.

  [参]Havil著,新妻弘監訳「オイラーの定数ガンマ」共立出版

にしたがえば,N桁の数字までの累積分布をP(N)とすると

  p(k)=∫(k,k+1)P(N)dN

と表されるのですが,ベンフォードの法則はP(N)としてベキ指数1のジップ分布

  P(N)〜1/N

を仮定することにより

  p(k)=∫(k,k+1)P(N)dN=log10(1+1/k)

と再現できるというのです.

 それでは,最高位から2番目の数の出現頻度はどうなるか調べてみましょう.最高位の数がk1,次の位の数がk2となる確率は

  log10(1+1/k1k2)

ですから,

  Σlog10(1+1/kik2)

で与えられます.

 最高位から2桁目の数がk2である確率は

  0→0.1197,

  1→0.1139,

  2→0.1088,

  3→0.1043,

  ・・・・・・・・・,

  9→0.0850

となって,2桁目に最もよく出てくる数字は0ですが,個々の数字の出現確率にはあまり差がないことがわかかります.

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【4】連分数展開

 連分数展開が有限で終わることと有理数であることは同値です.そこで,2次方程式の解となる√nの連分数展開を求めると,たとえば

  √2=[1:2,2,2,2,・・・]

  √3=[1:1,2,1,2,1,2,1,2,・・・]

  √7=[2:1,1,1,4,1,1,1,4,・・・]

のように循環型の単純連分数に展開されることが知られています.一般に,2次の無理数(整数係数の2次方程式の解)は周期的な連分数展開をもちます(ラグランジュの定理).

 平方根を無限連分数に表す手順はわかりやすく,たとえば,1<√2<2であるから

  √2=1+(√2−1)

    =1+1/(√2+1)    2<√2+1<3

    =1+1/{2+(√2−1)}

    =1+1/{2+1/(√2+1)}

    =1+1/{2+1/(2+(√2−1)}

    =1+1/{2+1/(2+1/(√2+1)}

    =1+1/{2+1/{2+1/{2+1/{2+・・・

の手順を何度も繰り返すことにより,

  √2=[1:2,2,2,2,・・・]

ができあがります.また,黄金比φ=(1+√5)/2は,

  φ=[1:1,1,1,,1,・・・]

で表されます.黄金比φ=(1+√5)/2が,無限連分数

  φ=[1:1,1,1,,1,・・・]

や無限の入れ子の根号

  φ=√(1+√(1+√(1+√(1+・・・

で3通りにも表されるという事実は魔法のようにさえ思えます.

 ここでは,連分数展開を用いて数の集合を定義してみますが,たとえば,正の実数が無限連分数展開され,そのすべての部分商が1または2であるような実数の集合のハウスドルフ次元は0.531280506・・・であることが計算されています.

 3次以上の方程式の解,たとえば3√2の連分数展開を求めると,

  3√2=[1:3,1,5,1,1,4,1,1,8,1,14,1,10,2,1,4,・・・]

の一般項は求めることができません.この展開に現れる整数に最大値があることも示すこともできないのです.

 有理数は有限連分数,無理数で代数的数の場合は無限循環連分数,超越数は無限非循環連分数になります.たとえば,超越数eの連分数展開は,

  e=[2;1,2,1,1,4,1,1,6,1,1,8,1,1,10,1,1,12,1,1,14,1,1,16,・・・]

と書け,数字の出方が自然数順になっていることがわかります.すなわち,

  e=[2;1,2,1,1,4,1,1,6,1,・・・,1,2n,1,・・・]

 πの連分数展開

  π=[3;7,15,1,292,1,1,1,2,1,3,1,14,2,1,1,2,2,2,2,1,84,2,1,1,15,3,13,1,4,2,6,6,99,1,2,2,6,3,5,1,1,6,・・・]

にはなんの規則性も見あたらないようにみえます.もちろん,一般項は見つかっていません.10進数表現しても

  e=2.718281827459045・・・

 π=3.141592653589793・・・

eには何かパターンがありそうに見えますが,πの数の並び方には何のパターンもありません.しかし,単純連分数(分子がすべて1)に限らなければ,

  π/4=1/{1+1^2/{2+3^2/{2+5^2/{2+7^2/{2+9^2/{2+・・・}

分子には奇数の平方が並んでいるというパターンを見つけることができます.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 単純循環連分数

  L=[a:b,b,b,b,・・・]

で表される数Lを求めてみることにしましょう.

  L−a=R=[0:b,b,b,b,・・・]=1/(b+R)

  R^2+bR−1=0 → R=(−b+(b^2+4)^(1/2))/2

  L=a+R=a−b/2+(b^2/4+1)^(1/2)

 同様に,2項が循環する連分数は

  L=[a:b,c,b,c,・・・]

  L=ab−bc/2+((bc)^2/4+bc)^(1/2)

 ところで,数を連分数で表示すると数字1が大量に出現することに気づきます.そこで,連分数の部分商の分布について考えてみます.

  [参]Havil著,新妻弘監訳「オイラーの定数ガンマ」共立出版

によると,整数部を除いた[0:a1,a2,a3,・・・,an]がxより小さい小数となる確率は

 P([0:a1,a2,a3,・・・,an]<x)=log2(1+x)+εn

で与えられますが,1928年にクズミンはほとんどすべての連分数に対して,

  εn=O(q^√n)  0<q<1

1929年にレヴィは

  εn=O(q^n)  q=0.7

であることを示しました.どちらも誤差項εnは漸近的に0になることを示しています.

 連分数の部分商の確率密度関数は

  P(an=k)=P(k<εn<k+1)=P(εn<k+1)−P(εn<k)

→log2(1+1/k)−log2(1+1/(k+1))=log2(1+1/k(k+2))

 したがって,十分大きなnに対する部分商の起こる確率Pは

k        1  2  3  4  5  6  7  8 9+

P(an =k)  .41 .17  .09  .06  .04 .03 .02 .02 .16

となることがわかります.

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【5】ヒンチンの定理

 次にanの平均値を求めてみます. ヒンチンは一般の連分数

  [a0:a1,a2,a3,・・・,an,・・・]

の大多数についてあてはまる法則を発見しています.

 ヒンチンの定理とは,幾何平均(a1a2・・・an)^1/nの値がn→∞のとき,ある無限乗積から定まる定数

  (a1a2・・・an)^1/n→Π(1+1/k(k+2))^logk/log2=2.685452001・・・

に収束するというものです.κ=2.68545・・・はヒンチンの定数として知られています.

 ただし,分母に明確なパターンのある代数的数やeをはじめとするいくつかの超越数は例外になります.

  (eの場合,(a1a2・・・an)^1/n→0.6259・・・)

 算術平均は発散するのに対し幾何平均は収束するというわけですが,ほとんどすべての連分数の場合,調和平均も収束し,その極限値は

  n/(1/a1+1/a2+・・・+1/an)→1.74540568・・・

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