ねじれ正多面体は空間全体を2分割し,一方から他方へはどこかの面を突き抜けない限りいくことができないという性質をもつため,天文学に応用されている.ねじれ正多面体では内側と外側が同じ構造なのである.
中川宏さんにねじれ正多面体の木工製作をお願いしたところ,板の縁を二面角の半分に削るルーターを使って,以下に掲げる写真のように仕上がった.中川さんはこれまでプラトン・アルキメデス・カタラン立体,ケプラー・ポアンソの星形正多面体(ついでにいうと,ジョンソン・ザルガラーの正多角形面体)の木工製作を手がけてきたが,コクセター・ペトリーのねじれ正多面体ですべて網羅したことになる.
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【1】コクセター・ペトリー多面体
1926年,ペトリーとコクセターは3つのねじれ正多面体(正スポンジ)を発見した(ペトリーが4角6片,6角4片ねじれ正多面体の2つ,コクセターが6角6片ねじれ正多面体の1つ).コクセターはこの種の正則形状が3つしかないことを証明している.星形正多面体はケプラー・ポアンソ正多面体と呼ばれているのに対して,ねじれ正多面体は現在コクセター・ペトリー多面体として知られている.
[1]立方体による正スポンジ(4,6)
[2]切頂八面体による正スポンジ(6,4)
[3]切頂四面体による正スポンジ(6,6)
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【2】ゴットとウェルズによるねじれ正多面体の発見
ゴットはその発見から40年近く遅れて,18才のときに同じ3つの形状を再発見した.さらに,正則性の条件を緩くすることによって新しい4つのねじれ正多面体(5角5片,4角5片,3角8片,3角10片)を発見した.ゴットはそれ以来ずっと幾何学の問題に魅せられて天文学者になった.
その後,化学者のウェルズがゴットと全く同じ正則性の条件に基づいて,別のねじれ正多面体を発見した.ウェルズはK4結晶だけでなく,ねじれ正多面体(4角5片,3角7片,3角8片,3角9片,3角10片,3角12片)なども自らの手で発見したことになる.これらについては彼の著書"Three-Dimensional Nets and Polyhedra"のなかで論じられている.
同著では珪化ストロンチウムの構造解析からK4格子がすでに物質として実在すること,その構造を(10.3)-aと命名したことも論じられているらしいのだが,残念ながら入手しにくい.そこで論文に当たってみたところ,
A. F. Wells, Acta Crysrallogr, 16, 857 (1963)
The Geometrical Basis of Crtstal Chemistry VII, On Three-Dimensional Polyhedra and Networks
があったので,著書の概要を知ることができると思う.
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【3】マッカイ結晶
1991年,ロンドン大学のアラン・マッカイが考え出したこの奇妙な立体は,ねじれ正多面体の1種であり,ひとつながりの面が縦・横・高さの三方向にどこまでも続く3次元結晶である.コクセター・ペトリー多面体(4,6)に丸みをつけたメタボ体といった方がわかりやすいだろう.
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