■通信,暗号,そして多面体(その3)

 紙数制限のため,最終稿は以下のようになった.

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【1】ワイソフ・トリック

 n次元準正多面体はn桁の0/1コードを使って記述することができる.のみならずこのn桁から多面体の図形情報(k次元面数とその形,体積など)を抽き出すことができる.たったn桁の0/1のなかに詳細情報が圧縮された形で格納されていることは驚くべきことである.このトリックの核心は二重旗構造;(1110)の場合で説明すると(1)⊆(11)⊆(111)⊆(1110)⊇(110)⊇(10)⊇(0);にある.端的にいえば,球ではなく多面体のなせる業ということになろう.なお,位相幾何学的組み合わせ論を用いた計算手順は,松浦・豊島(東京電機大学)によってすでにコンピュータに実装化されている.

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【2】現行の通信コードシステムについて

 一方,現行の通信理論では最密球充填を基盤とした0/1コードが用いられている.そこで球を多面体に変えることで,よりエンリッチな情報通信(たとえば暗号にみえない暗号など)を実現させることはできないだろうかというアイデアが浮かぶ.まずは現行のコードシステムをみてみよう.

 高次元多面体に比べて,高次元球は理解もしやすく,実際に通信理論に応用されている.とくに,8次元と24次元の最密球充填は通信理論を介して現代生活を担保するほどの重要な応用を担っている.しかし,その様子を思い浮かべるのは容易ではないから,3次元の最密球充填で代用することにする.3次元の最密球充填は中心に置いた球に対して,同じ層に6球,上の層に3球,下の層にも3球で合計12球に接することになる.この配置が面心立方格子状配置で,3次元の最密球充填配置となる.中心(0,0,0)から√2離れた12個の格子点(±1,±1,0),(±1,0,±1),(0,±1,±1)に半径1/√2の球を配置すると3次元の最密球充填が実現される(図).

8次元の場合にはE8格子と呼ばれる240個の8次元ベクトルの集まりを構成することができる.(1,0,0,-1,0,0,0,0)や(1/2,1/2,-1/2,1/2,1/2,1/2,1/2,-1/2)はその例で,原点からの距離が√2になっている.これらの配置を応用した通信システムでは検出力が最大となる.これらの次元のコードシステムがうまく機能する幾何学的な理由は,立方体の8頂点から4頂点をうまく選ぶと正四面体を,8次元立方体の256頂点から16頂点をうまく選ぶと8次元正軸体を内接させることができることに依拠している.一般に,n次元立方体の頂点をうまく結んで正軸体を作ることができるための必要条件はnが4の倍数であること,正単体を作ることができるのはnが4の倍数-1であることである.さらに偶ユニモジュラー格子は次元が8の倍数のときにしか存在しないことも知られている.いずれにせよ,通信に活用されているのはある特殊な次元(例外型)の球の座標情報だけなのである.

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【3】多面体の通信への応用を考える

 特殊な次元でなく一般の次元の多面体の,しかも座標にこだわらず頂点や辺などの連結情報をうまく利用できないだろうか.すぐに思いつくのは

[1]球の格子状配置において,球をもっと膨らませると押し合いへし合いを生じて,最終的にはボロノイ多面体に落ち着く.任意のn次元空間(無限系列)に4種類の空間充填多面体を普遍的に構成することができる(図).

[2]空間充填多面体にこだわることなく,任意の次元に通信コードと1対1対応するn次元多面体を構成することが可能である(図).

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【4】まとめ

 多面体の理論を通信に役立てようというアイデアではあっても,複雑になりすぎて,球模型のもつ単純さ・エレガントさを損なってはならない.本当に有用なものになるのか,役立つとしたらどの次元のどの多面体になるのか,その具体的な方法について直ちに解答を与えられそうにはない.先駆的な発想となればよいが,それとも妄想?

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