■マルコフ数の話

 3元2次のディオファントス方程式

  x^2+y^2+z^2=3xyz

のすべての解を求める問題は,たとえば3元3次の方程式x^3+y^3+z^3=x+y+zの場合とは違って,x,y,zの各変数に関して2次式になっているので1つの解の中の数を使って別の解を作ることができます.

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【1】マルコフ数

 z=xy/2・{3±(9−4/x^2−4/y^2)^1/2}

であり,すべての解は特異解(1,1,1),(1,1,2)から生成されます.たとえば(x,y,z)=(1,1,1),(2,1,1),(5,1,2),(13,1,5),(29,5,2),・・・はひとつの整数解が次の解を導き,

  (x,y)=(1,1)→z=1,2

  (x,y)=(1,2)→z=1,5

  (x,y)=(1,5)→z=2,13

  (x,y)=(2,5)→z=1,29

 x≦y≦zとしても一般性は失われませんが,特異解(1,1,1),(1,1,2)以外のすべての解はx,y,zの値が相異なります(x<y<z).

 こうして,2次のディオファントス方程式x^2+y^2+z^2=3xyzの解として現れる,

  1,2,5,13,29,34,89,169,194,233,433,610,985,・・・

はマルコフ数と呼ばれます.

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[補]3元2次のディオファントス方程式

  x^2+y^2+z^2=3xyz

の解(x,y,z)=(1,1,1),(2,1,1),(5,1,2),(13,1,5),(29,5,2),・・・を並べると,各解は他の3つの解に相隣り合い,2分木のように配置する.真の2分木なのか,同じ値が2つの別のルートから生成されることがあり得るかは有名な未解決問題である.

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【2】ペル数列

 1,2,5,13,34,89,・・・はフィボナッチ数列から1つおきにとってならべたものです.フィボナッチ数列:an=an-1+an-2は有名な数列ですから説明する必要はないでしょうが,他にはどのような数列があるのでしょうか?

 トリボナッチ数列,テトラナッチ数列,ペンタナッチ数列,ヘキサナッチ数列・・・とその変形(an=an-2+an-5,an=an-2+an-3(パドヴァン数列・ペラン数列),an=an-1+an-3,an=2an-1+an-2(ペル数列),an=an-2+an-3+an-4)・・・

 1,5,29,169,985,・・・はペル数列から1つおきにとってならべたものになっています.

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 素数が無限に存在すること・√2が無理数であることは,ギリシア数学のなかでも有名な定理です.それぞれユークリッドとピタゴラスが背理法を用いて証明しています.√2は2つの整数の比p/qではないので,√2=p/qすなわちp^2=2q^2になるような2つの整数p,qを見つけることはできません.しかし,誤差±1を許すことにすると

  2q^2=p^2±1  (ペル方程式)

なる2つの整数p,qを見つけることができます.

  2^2+2^2=3^2−1

  5^2+5^2=7^2+1

  12^2+12^2=17^2−1

  ・・・・・・・・・・・・・

このとき,±1は交互に繰り返し現れます.

 √2の最良近似値は1/1,3/2,7/5,17/12,41/29,・・・です.このような分数を全部求めるには1/1から出発して1+1=2が次の分母になり,1+2=3が次の分子になる,3+2=5が第3の分母,2+5=7が第3の分子になる,すなわち,1つ前の分数の分子と分母の和が次の分母になり,ひとつ前の分数の分母を2倍したものとその分子の和が次の分子になり,同様に続いていくという算術的な規則があります.

  1,2,5,12,29,70,169,408,・・・

はペル数列(an=2an-1+an-2)と呼ばれます.

  1/1↓ ↑3/2↓ ↑7/5↓ ↑17/12↓ ↑41/29↓ ・・・

 すなわち,ペル方程式:p^2−2q^2=±1を満たすp/qがひとつの分数で,P/Qが次の分数だとすると

  Q=p+q,P=q+Q=p+2q

  P^2−2Q^2=2q^2−p^2=±1

となって,P/QもまたP^2−2Q^2=±1となる分数を与えることができることになります.1/1から始まって次々に解となる分数を見つけることができるというわけです.

  p/q→P/Q=(p+2q)/(p+q)

(−1) 1/1<7/5<41/29<239/169<・・・<√2<・・・<577/408<99/70<17/12<3/2 (+1)

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[補]初項1,第2項1から始まり,隣り合う2項の和が次の項となる数列

  1,1,2,3,5,8,・・・

をフィボナッチ数列とよびます.その一般項Fn は

  Fn=Fn-1+Fn-2

です.フィボナッチ数列の特性方程式

  x^2−x−1=0

の2根を

  α=(1+√5)/2=φ,β=(1−√5)/2=−1/φ

とおくと,フィボナッチ数列の一般項は,

  Fn=1/√5(α^n−β^n)

 また,連続する2項の比は黄金比

  φ=(1+√5)/2=1.618034・・・

フィボナッチ数列から1つおきにとってならべると連続する2項の比はφ^2=φ+1=2.618034・・・に次第に近づくことになります.

 同様に,ペル数列(an=2an-1+an-2)

  1,2,5,12,29,70,169,408,・・・

の特性方程式

  x^2−2x−1=0

の2根を

  γ=1+√2,δ=1−√2

とおくと,ペル数列の一般項は,

  Pn=1/2√2(γ^n−δ^n)

 連続する2項の比は

  1+√2

ペル数列から1つおきにとってならべると連続する2項の比は(1+√2)^2に次第に近づくことになります.

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【3】ディオファントス近似の近似精度

 連続する2つの近似分数をan/bn,an+1/bn+1とすると,それらのうち一方は

  |α−a/b|<1/2b^2を満たす.

(証)α−an/bn,α−an+1/bn+1は反対符号で,anbn+1−an+1bn=(−1)^(n+1)であるから

  |α−an/bn|+|α−an+1/bn+1|

 =|an/bn−an+1/bn+1|

 =1/bnbn+1

任意の実数α,βに対してαβ<(α^2+β^2)/2であるから

  1/bnbn+1<1/(2bn^2)+1/(2bn+1^2)

これより題意の結果が得られる.

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 連続する3つの近似分数をan/bn,an+1/bn+1,an+2/bn+2とすると,それらのうち少なくともひとつは

  |α−a/b|<1/√5b^2

を満たす.

 この結果から

  |α−a/b|<1/√5b^2を満たす有理数a/bは無限に多く存在するを証明することができる.この定数√5は最良のもので,これより大きな数に置き換えることはできないが,黄金比φのようにαの連分数展開が有限個を除いてすべて1になる無理数を除外すれば,√5の代わりに√8を用いても成り立つ.

  |α−a/b|<1/√8b^2

 次に問題になるのは√2のようなαの連分数展開が有限個を除いてすべて2になる無理数で,それを除くと定理を

  |α−a/b|<1/√(221/25)b^2

に改良できる.

 同様の改良を続けていったときの定数√5,√8,√(221/25),・・・がラグランジュ数である.それらは

  √(9−4/m^2)

において,それぞれm=1,2,5とおいたものである.

  m=1,2,5,13,29,34,89,169,194,233,433,610,985,・・・

はマルコフ数と呼ばれる.マルコフ数は2次のディオファントス方程式

  x^2+y^2+z^2=3xyz

の解として現れることは前述したとおりであり,大いに興味をかき立ててきたディオファントス方程式である.

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