■乙部融朗の針金模型と通信理論(その2)

 高次元多面体に比べて,高次元球は理解もしやすく,実際に通信理論に応用されている.とくに8次元球や24次元球の最密充填は重要であるが,その様子を思い浮かべるのは大変であるから,3次元の最密球充填で代用することで勘弁願いたい.

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 3次元の最密球充填は面心立方格子状配置,すなわち,中心に置いた球に対して,同じ層では隣接する6球,上の層では3球,下の層では3球計12球に接する配置が3次元の最密球充填である.

 一方,3桁通信システムでは通信の際のエラーを検出する目的で,中心(0,0,0)から√2離れた格子点,

(±1,±1,0),(±1,0,±),(0,±1,±1)

が用いられている.ここに半径1/√2の球を配置すると3次元の最密球充填になっているというわけである.

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 3桁通信システムでは3^3=27個の格子点のなかから13個の最適配置となる格子点が選ばれているが,8桁通信システムには,素粒子物理学で有名なE8格子が用いられている.E8格子は

[1]座標成分がすべて整数か(112点),すべて整数1/2か(128点)のいずれか

[2]座標成分の和は偶数

[3]座標成分の平方の和は2に等しい(原点からの距離が√2)

の240個の8次元ベクトル(ルートと呼ばれる)の集まりである.

 E8格子には全部で240個(112+128)のルートがあるが,ベクトル(1,0,0,−1,0,0,0,0)や(1/2,1/2,−1/2,1/2,1/2,1/2,1/2,−1/2)はルートの1例である.8桁通信システムでは5^8=390625個の格子点のなかから241個の最善配置をなる格子点が選ばれているのである.

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