arctan(1/n)を2項まで使って,πを表現する方法はステルマーの定理より次の5つしかないことが知られています.
π/4=arctan(1/1)
π/4=arctan(1/2)+arctan(1/3)
π/4=2arctan(1/2)−arctan(1/7)
π/4=2arctan(1/3)+arctan(1/7)
π/4=4arctan(1/5)−arctan(1/239)
このシリーズの目的はこのことの証明にあるのですが,今回のコラムではいよいよ証明について考えてみます.
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【1】加法定理
π/4=arctan1=arctan(1/n)±arctan(1/m)
を満足させるn,m(n>m)を求めてみましょう.
[1]+の場合
arctana+arctanb=arctan((a+b)/(1−ab))
を使うと
1=(1/n+1/m)/(1−1/nm)
m=(n+1)/(n−1)=1+2/(n−1)
したがって,mが整数となるためには(n,m)=(3,2)しかありません.
arctan(1/1)=arctan(1/2)+arctan(1/3)
は傾き1/2と1/3の坂の角度が傾き1/1になることを示しています.
[2]−の場合
1=(1/n−1/m)/(1+1/nm)
m=−(n+1)/(n−1)より解なし
次に,任意のarctan(1/n)を2項に分解することを考えてみます.
arctan(1/n)=arctan(1/p)+arctan(1/q)
同様に公式を使うと
1/n=(1/p+1/q)/(1−1/pq)
n=(pq−1)/(p+q)
q=(np+1)/(p−n)
ここで,p=n±mとおくと
q=n±(n^2+1)/m
arctan(1/n)=arctan(1/(n±m))+arctan(m/(n^2±mn+1))
したがって,n^2+1=kmなるkが存在するならばqは整数になることがわかります.
n=1,2,3,・・・,m=1とおくと
arctan(1/1)=arctan(1/2)+arctan(1/3)
arctan(1/2)=arctan(1/3)+arctan(1/7)
arctan(1/3)=arctan(1/4)+arctan(1/13)
arctan(1/4)=arctan(1/5)+arctan(1/21)
のように2項に分解できます.この結果,
π/4=2arctan(1/2)−arctan(1/7)
π/4=2arctan(1/3)+arctan(1/7)
が得られます.
n=1,2,3,・・・,m=−1
n=1,2,3,・・・,m=±2
n=1,2,3,・・・,m=±5
n=1,2,3,・・・,m=±10
n=1,2,3,・・・,m=2^p・(4k+1)^q
とおいても2項に分解することができるので,各項に加法定理を繰り返し施すことによって,πのarctan級数公式を無数に得ることができます.その際,項数は増えていくのですが,さらに展開を続けていくうちにどこかで劇的に2項まで減少する可能性があります.
まだ得られていない
π/4=4arctan(1/5)−arctan(1/239)
はその1例ですが,このような展開をやみくも(絨毯爆撃的)に進めていく解き方は端的にいってアート(技巧)はあってもセオリー(一般的理論)がなく,勘や経験や個々の問題の性質に負っていて,決定打にはなりません.
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【2】1+iのn±i分解
問題はこの型のすべての整数解を求めることですが,試行錯誤ではいささか難ありですから,(その2)に掲げた一般的理論(ステルマー分解)に倣って,1+i(傾き1/1の坂)をn±iで分解することを考えてみます.ただし,一意に表される必要はないので,nはステルマー数でなくてもよいことにします.
arctan(1/n),arctan(1/m)の2項を使って,πを表現する方法は
(1+i)(n−i)^r=(m±i)
となるn,m,rを求める問題に帰着されるのですが,
π/4=arctan1=arctan(1/n)±arctan(1/m)
が成り立つのは,ただ1通り
π/4=arctan(1/2)+arctan(1/3)
ですから,nについてはn=2,3がその候補となります.また,
2^2+1=5,3^2+1=10=2・5
より,n=5もその候補で,nの候補はn=2,3,5に限られることもわかります.
rについては,複素数の掛け算は偏角の足し算に対応しますから,偏角を幾何学的に考慮することによって,
|π/4−r・arctan(1/n)|<arctan(1/n)
π/4/arctan(1/n)−1<r<π/4/arctan(1/n)+1
の範囲に収まることがわかります.
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[1]n=2→r=1,2
(1+i)(2−i)=(3+i)
→π/4=arctan(1/2)+arctan(1/3)
(1+i)(2−i)^2=(7−i)
→π/4=2arctan(1/2)−arctan(1/7)
[2]n=3→r=2,3
(1+i)(3−i)^2=7(7−i)
→π/4=2arctan(1/3)+arctan(1/7)
(1+i)(3−i)^3=4(11−2i)→×
[3]n=3→r=3,4
(1+i)(5−i)^3=4(46−9i)→×
(1+i)(5−i)^4=4(239−i)
→π/4=4arctan(1/5)−arctan(1/239)
これでarctanを2つ使ってπを表現する公式がすべて出揃いました.実際の数値計算では,項数が少なく分母が大きいものほど有効ですから,マーチンの級数はarctanを2つ使ってπを表現する公式の中で最良のものであることがお分かりいただけたかと思います.
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