■幾何学的不等式への招待(その6)

 (その3),(その5)では与えられたf個の面をもつ多面体に対する等周不等式の問題を取り上げた.

(Q)3次元空間の多面体について,f個の面をもつ多面体の中で等周比の最小値を与えるものは何か?

(A)f≦7においては正四面体,直三角柱,立方体,直五角柱.f=12では正十二面体が最小値をとる.しかし,f=8で等周比の最小値をあたえるものは正八面体ではない.

 凸f面体の表面積をS,体積をVとすれば,等周不等式は,

  S^3/V^2≧54(f−2)tan(ωf)(4sin^2(ωf)−1)

ただし,等号は3稜頂点多面体に対してのみ成り立つ.

 与えられた頂点数をもつ多面体の場合,対応する不等式は正しくないことがわかっていて,たとえば,3角形多面体に関しては

  S^3/V^2≧54(n−2)(3tan^2(ωn)−1)

であることが予想されているが,これは未だに解決されていない.

 今回のコラムでは,多面体ではなく多角形に対する等周問題と取り上げてみたい.平面上の凸多角形に関してさえ,未だに解決されていない問題がたくさん残っているのである.

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【1】2次元等周不等式

 「周長Lの等しい平面領域で,最大の面積Sをもつものは円である.」これを別の表現にしたものが,等周不等式

 「L^2≧4πS   等号は円に対してのみ成り立つ.」

である.

 n角形に関する等周不等式は,n角形の周の長さが与えられているとき,面積の最大のものは正n角形であるから,

  L^2≧4nStan(π/n)

等号は正n角形に対してのみ成り立つ.

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[Q]与えられた直径をもつ凸n角形で,最大周長をもつものは何か?

[A]nが奇数kで割り切れるならば,ルーローのk角形の各弧をn/k等分して頂点を決め,その凸包となる多角形.n=2^rの場合は未解決で,最適な四角形は正方形ではなく,最適な八角形もまた正八角形でないことが示されている.

 一般にn角形の直径に関する問題はnの整除性ゆえ難解となる.たとえば,奇数のnに対して,与えられた直径をもつ凸n角形で,最大面積をもつものは正n角形であるが,n≧6の偶数の場合はあてはまらない.正方形以外にも多くの最適四角形があり,最適六角形・八角形は正五角形・正七角形をわずかに変形させたものであることが示されている.

[Q]与えられた直径をもつ3次元多面体で,最大体積をもつものは何か?

はなかなか一筋縄ではいかない問題であろう.なお,3次元空間の多面体について,以下のことがわかっている.

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【2】多面体の稜の全長について

 単位球面をn(≧3)個の等面積な部分に分割する網目の長さの総和Lについては,

  L≧6(n−2)arccos(2/√3ωn)

等号は3稜頂点多面体の球面網に対してのみ成り立ちます.

 また,表面積Sの凸多面体のすべての面が等面積ならば,稜の全長は

  L≧√(6(n−2)Stanωn)

等号は3稜頂点多面体に対してのみ成り立つ.

 以上より,与えられた直径Dの球を内部に含むならば,L/Dの値は立方体のとき最小値をとり,

  L≧12D

となることが証明されています.立方体が最小の稜の長さの和をもつのです.

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