■群と月光(その4)

 対称群の列挙の歴史は19世紀後半,クライン(ドイツ)とリー(ノルウェー)に始まる.クラインは離散群を,リーは連続群(リー群)を取り扱った.リーやキリング,アルティン,カルタン,ワイルらによる連続群の分類は20世紀数学の大きな業績であるが,最終的にルート系の分類に帰着されるのである.

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【1】リー型の単純群

 無限個ある.A型からG型まで7種類あるとしてよく,さらにまた16種類に細分することができる.

 ドイツのキリングとフランスのカルタンのよる単純リー群(詳しくは複素コンパクト型単純リー群,古典線形群はみな含まれる)の分類の成功が大きな影響を与えた.既約ルート系の分類の基づいて,複素単純リー代数の分類を行ったものがカルタンの分類定理であり,それは『いかなる複素単純リー代数もAk(k≧1),Bk(k≧2),Ck(k≧3),Dk(k≧4),E6,E7,E8,F4,G2の型のものに限られる.』というもので,Ak,Bk,Ck,Dk型の複素単純リー代数は古典型,E6,E7,E8,F4,G2の型のものは例外型と呼ばれる.

 4つの古典群,5系列の例外群,さらにそのうちで対称性をもつA,D,E6,D4の4系列,疑似対称性をもつB2,G2,F4の3系列で総計16系列に細分される.

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【2】鏡映群(コクセター群)

 いくつかの鏡映変換により生成される直交変換群を鏡映群という.鏡映群は数学の様々に分野で広く現れる重要な研究対象である.無限の鏡映群は基本的には直交群しかないが,有限の鏡映群は

  An(n≧1),Bn(n≧2),Dn(n≧4),E6,E7,E8,F4,H3,H4,I2(p)(p=5またはp≧7)

に分類される.

 下付きの指数はそれが働く空間の次元である.Anはn次元正単体の対称性の群と解釈することができる.Bnはn次元立方体(正8面体)の対称性の群であり,位数は2^nn!である.DnはBnに対応する群の指数2の部分群に対応している.H3は正20面体の対称性の群に対応し,I2(p)は正2面体群Dpに対応している.H4とF4はそれぞれ4次元の正多胞体(正24胞体,正600胞体)に対応している.

 ここにあげられた群はH3,H4,I2(p)(p=5またはp≧7)を除いて,すべて結晶群である.なお,線形代数はAkという特定のルート系の理論であり,ユークリッド空間やシンプレクティック空間の幾何に対応するのはBk,Ck,Dkの理論である.そこでの理論の多くは,例外型の結晶群(E6,E7,E8,F4,G2)に対してだけでなく,結晶群でないユークリッド鏡映群(I2(p),H3,H4)に対しても成り立つ.

 コクセターの関心の的は鏡映によって生成される対称群であったが,一般のn次元空間における等長変換(平行移動・回転運動)は高々n+1個の鏡映の積として表すことができる.

 リー群とコクセター群との関連は,カッツとムーディーによる独立した仕事を通じて興味深い進展をみせました.彼らはコクセター群からまったく新しいリー代数(現在カッツ・ムーディー・リー代数と呼ばれる)とリー群を生成できることを示したのです.

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【3】散在型単純群

 代数群などの分野からは発見され得ないし,古典群,交代群のように無限系列にはいっていないという意味で,散在型単純群と呼ばれる単純群が26個ある.

 一番小さいのが,11個の文字の上の置換群であるマシュー群M11(位数:7920),一番大きいものが,モンスター(位数:2^46・3^20・5^9・7^6・11^2・13^3・17・19・23・29・21・41・47・59・71)で,モンスターの位数はなんと54桁にものぼる.モンスターの発見と構成は26個の散在型単純群の中でも特異な位置を占めていて,26個の散在群のうち,20個がモンスターの部分群として現れるのである.

 モンスターの発見とこれ以外の例外型単純群は存在しないという証明により,有限単純群の分類の完成したのだが,ムーンシャイン予想という予期せぬものを生み出した.

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【4】ムーンシャイン予想

 19世紀の後半,デデキントとクラインは独立に保型関数

  j(az+b/cz+d)=j(z)

を構成しました.j(z)は古典的なSL(2,Z)不変な保型関数です.

 ここで,q=exp(2πiz)とおくと,

  j(z)=j(q)=Σcnq^n

 =1/q+744+196884q+21493760q^2+864299970q^3+・・・

と展開されます.

 196883次元のモンスター群は散在型群のなかで最も巨大で神秘的で魅力的であることから,コンウェイがモンスター群と名付けています.モンスターの既約表現の次数dnと係数cnを小さい方から数個あげると

  d0=1

  d1=196883      c1=196884

  d2=21296876    c2=21493760

  d3=842609326   c3=864299970

 このq展開に現れる係数196884とモンスターの既約表現の最小次数196883がほとんど等しいことに注目すると,q,q^2,q^3等の係数は

  c1=d0+d1

  c2=d0+d1+d2

  c3=2d0+2d1+d2+d3

のようにモンスターの既約表現の簡単な線形結合となっていることを見いだされました.これは単なる偶然の一致なのでしょうか?

 ムーンシャイン予想の出発点の出発点であるマッカイ・トンプソン予想(モンスター群と楕円モジュラー関数のと関連性),コンウェイ・ノートン予想(ムーンシャイン予想呼ばれる命題に発展させた)には,このような不思議な事実がたくさん収集されています.しかし,後にボーチャーズが,現代物理学の弦理論にその原点をもつ頂点作用素代数を用いることによって,これは単なる偶然の一致ではなく,そこに何か真実が隠されていることをつきとめます.

 さらに,ボーチャーズは一般化されたカッツ・ムーディー・リー代数(数学と数理物理学のさまざまな分野で応用されている)を導入して,マクドナルド恒等式を導いた論法を適用することにより,分母公式は

  J(p)−J(q)=p^(ー1)Π(1−p^mq^n)^c(mn)

となることを示しました.この等式は19世紀のデデキントのイータ関数の変形のようでもあり,ヤコビの3重積公式にも結びついています.

 ボーチャーズは8年にわたってムーンシャイン予想の証明に取り組み,1992年にモンスター群のムーンシャイン予想を証明しました.ボーチャーズはその功績により1998年フィールズ賞を受賞するのですが,楕円曲線,モンスター群,ひも理論の関連性が明らかにされたのです.これにより,ムーンシャイン予想の一応の解決となったわけですが,ムーンシャイン予想は保型関数論のように古典的なものでもあり,また,物理学の弦理論のように新しいものでもあったというわけです.

 リー型の単純群に比べると,散在型単純群は例外的なものにみえるのですが,ミステリアスなムーンシャイン現象を知ると,散在型単純群にも深い存在理由がありそうです.しかし,疑問は残ったままであり,今後は有限単純群の分類論の明瞭化・簡明化とともに,この神秘的現象の解明が研究課題とされています.

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