■高次元結晶と通信理論(その28)
【2】2次元・3次元における最疎球被覆
充填(パッキング)に引き続き,被覆(カバリング)の問題を紹介しよう.平面充填形には正三角形格子,正方格子,正六角形格子の3種類あるが,平面上において,円形が互いに重なり合わないように配置したり,平面を完全に覆いつくす配置問題を考えるとき,正三角格子がきわだった役割を果たす.
最密な円充填密度は
Δ2≦π/√12=0.9068・・・
最疎な円被覆密度は
Θ2≧2π/√27=1.209・・・
で与えられるが,等号は,円の中心が正三角格子の頂点におかれたとき,すなわち,各々の円が正六角形の頂点で6個の他の円と接している場合および切断されている場合に成り立つ(蜂の巣型).
一方,空間における球の配置を考えると,球の中心が面心立方格子を形成したとき,球の最密充填であることが最近証明された.
Δ3≦π/√18=0.74048・・・
面心立方格子のボロノイ多面体は菱形12面体であって,この意味で,菱形12面体は正6角形を3次元空間に拡張したものと見なすことができよう.ケプラーは雪の結晶が正六角形をしているのはなぜかと考え,史上初めて菱形十二面体をみつけたのだが,4次元の雪(超正六角形)はケプラーが予想したとおり菱形十二面体なのである.
ところが,球による空間の最疎被覆は面心立方格子ではない.面心立方格子型配置D3では
2π/3=2.094・・・
それに対して,体心立方格子型配置D3~=A3~では
5√5π/24=1.463・・・
とかなり小さくなることがわかる.
球の最密充填はケプラーやガウスによって既に知られていたのだが,最疎な球被覆問題は球の中心が体心立方格子をつくるときであることが証明されたのは,1954年になってからのことなのである.
Θ3≧5√5π/24=1.463・・・
最密充填配置と最疎被覆配置が異なるというのは驚くべきことであろう.平面では充填配置も被覆配置も正六角形配置になっていたのだが,平面における正六角形の役割を菱形12面体がすべて引き継いでいるわけではない.その理由は,平面では正六角形は円に内接および外接するのに対して,菱形12面体は球に外接するが内接しない,一方,切頂8面体は球に内接するが外接しないことに起因している.そのため,ある問題では球に外接する多面体が重要になり,別の問題では内接する多面体が重要になるのだろう.
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[補]
n ルート 球充填密度
2 A2 π/2√3=0.906(ラグランジュ1773,ガウス1831)
3 A3 π/3√2=0.740(ガウス1831)
4 D4 π^2/16=0.617(Korkine,Zolotareff,1872)
5 D5 π^2/15√2=0.465(Korkine,Zolotareff,1877)
6 E6 π^3/48√3=0.373(Blichfeldt,1925)
7 E7 π^3/105=0.295(Blichfeldt,1926)
8 E8 π^4/384=0.254(Blichfeldt,1934)
n ルート 球被覆密度
2 A2~ 2π/√27=1.209(Kershner,1939)
3 A3~ 5√5π/24=1.464(Bambah,1954)
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