■高次元結晶と通信理論(その26)
【3】高次元空間の極大格子
ここまでの話をまとめて表示しておくことにすると,
1)平面上に配置した格子点の最近接点間距離が最大値をとるときは,点の配置が正三角形の頂点に等間隔に配置するときであり,空間中の点については,点の配置が立方格子の格子線の交角を60°になるようにゆがめたときである.
2)その際,グラミアンは
G=|d^2 d^2/2|=(d^2/2)^2|2 1|
|d^2/2 d^2| |1 2|
|d^2 d^2/2 d^2/2| |2 1 1|
G=|d^2/2 d^2 d^2/2|=(d^2/2)^3|1 2 1|
|d^2/2 d^2/2 d^2| |1 1 2|
として得ることができる.
もっとも稠密な格子状球配置を求める問題はより高次元の空間においても考えることができます.ところが,高次元空間においては,平面における正三角形格子や3次元空間における面心立方格子はもはや最密球配置を与えてはくれません.
人間の直観や勘が働くのはたがだか3次元空間までで,次元が大きくなるに従い,格子点の配位は非常に複雑となり,われわれが3次元空間でイメージするものとは大きく異なってくるからです.そのため,n次元に拡張したグラミアン
|2 1 ・・ 1|
G=(d^2/2)^n|1 2 ・・ 1|=1=V^2
|1 1 ・・ 1|
|1 1 ・・ 2|
という手はもはや通用しないのですが,それではどうやったら高次元空間における極大格子を求めることができるのでしょうか? 実は,コラム「モザイク模様とルート系」で説明した鏡映三角形で埋めつくす問題を一般の次元に拡張してR^nにおける格子群を実際に構成するのです.
R^nの単体に置き換えて得られるベクトルの集合が一般の階数のルート系となります.ルート系の分類は,それ自体大変面白いものなのだそうですが,既約ルート系の同型類には,AからGまでのアルファベットに,添字として階数をつけた名前が付いていて,E8型ルート系などと呼ぶ習慣になっています.
A3型,D4型,E8型のディンキン図形は,
3 1−2−3 (A3 )
/
1−2 (D4 ) 4
\ |
4 1−2−3−5−6−7−8 (E8 )
そして,ディンキン図形に基づいて,隣接行列の要素bijを,
それ自身のとき・・・・2
結ぶ辺があるとき・・・1
結ぶ辺がないとき・・・0
と定めます.
これは,隣接行列{bij}が内積bi↑・bj↑からなるグラミアンによって定義され,その際,n次元平行多面体の基底となるn個のベクトルbkはすべて長さ√2,biとbjが隣り合うときは2つのベクトルは角度60°で交わり(内積=1),隣り合わないときは直交すること(内積=0)を意味しています.
そうすれば,A3型,D4型,E8型に対応する隣接行列式|B|は,それぞれ
|2 1 0| |2 1 0 0|
|1 2 1| |1 2 1 1|
|0 1 2| |0 1 2 0|
|0 1 0 2|
|2 1 0 0 0 0 0 0|
|1 2 1 0 0 0 0 0|
|0 1 2 1 1 0 0 0|
|0 0 1 2 0 0 0 0|
|0 0 1 0 2 1 0 0|
|0 0 0 0 1 2 1 0|
|0 0 0 0 0 1 2 1|
|0 0 0 0 0 0 1 2|
で定義され,格子群の基本領域の体積Vと最短距離dは
G=(d^2/2)^n|B|=1=V^2
より求められます.極大格子については,現在のところ,n≦8のみ答えが知られています.
n ルート 最小距離 球充填密度
1 1 1
2 A2 4√(4/3) =1.075 0.906
3 A3 6√2 =1.122 0.740
4 D4 8√4 =1.189 0.619
5 D5 10√8 =1.231 0.465
6 E6 12√(64/3)=1.290 0.373
7 E7 14√64 =1.346 0.295
8 E8 √2 =1.414 0.254
最小距離が√2となるn=8の場合が大変興味を惹かれます.7次元までの2次形式は単位行列から定まる2次形式
x1^2+・・・+xn^2
と同型になるのですが,n=8ではこの情勢が覆り,同型ではないからです.
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