■高次元結晶と通信理論(その20)
[1]ミンコフスキー結晶
[2]BCC結晶
[3]FCC結晶
[4]HCP結晶
[1][4]は正単体,[2][3]は正軸体・立方体からワイソフ構成される.これまでの通信理論は球充填問題から派生しているが,[3][4]は内接球をもつ球充填問題である.それに対して[1][2]は外接球をもつ球被覆問題である.
充填(パッキング)と被覆(カバリング)をもとにしていくつかの不等式が得られるのですが,今回のコラムでは,平面・球面・空間を円(球)でパッキングあるいはカバリングするときの密度から出た不等式を取り上げて,以下に紹介することにします.
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【1】平面(空間)における円(球)の最密充填と最疎被覆
平面充填形には正三角形格子,正方格子,正六角形格子の3種類あるのですが,平面上において,円形が互いに重なり合わないように配置したり,平面を完全に覆いつくす配置問題を考えるとき,正三角格子がきわだった役割を果たします.
最密な円充填密度は
d≦π/√12=0.9068・・・
最疎な円被覆密度は
D≧2π/√27=1.209・・・
で与えられますが,等号は,円の中心が正三角格子の頂点におかれたとき,すなわち,各々の円が正六角形の頂点で6個の他の円と接している場合および切断されている場合に成り立ちます(蜂の巣型).
一方,空間における球の配置を考えると,球の中心が面心立方格子を形成したとき,球の最密充填であることが証明されています.(最近まで証明することにまだ誰も証明に成功していなかったですが・・・).
d≦π/√18=0.74048・・・
面心立方格子のボロノイ多面体は菱形12面体ですから,この意味で,菱形12面体は正6角形を3次元空間に拡張したものと見なすことができます.ケプラーは雪の結晶が正六角形をしているのはなぜかと考え,史上初めて菱形十二面体をみつけました.4次元の雪(超正六角形)はケプラーが予想したとおり菱形十二面体なのです.
ところが,球による空間の最疎被覆は面心立方格子ではありません.面心立方格子型配置では
2π/3=2.094・・・
それに対して,体心立方格子型配置では
5√5π/24=1.463・・・
とかなり小さくなることがわかります.
球の最密充填はケプラーやガウスによって既に知られていたのですが,最疎な球被覆問題は球の中心が体心立方格子をつくるときであることが証明されたのは,1954年になってからのことなのです.
D≧5√5π/24=1.463・・・
平面では充填配置も被覆配置も正六角形配置になっていたのですが,平面における正六角形の役割を菱形12面体がすべて引き継いでいるわけではないのです.その理由は,平面では正六角形は円に内接および外接するのに対して,菱形12面体は球に外接するが内接しない,一方,切頂8面体は球に内接するが外接しないことに起因しています.そのため,ある問題では球に外接する多面体が重要になり,別の問題では内接する多面体が重要になるのです.
たとえば,球形の素材を型に詰め込んでおいて,それをぎゅとつぶすという過程を考えてみましょう.結晶化の過程では,実際,このようなことが起こっていると考えられるのですが,その場合,最密充填から最疎被覆への状態移行が問題になると思われます.ところが,平面の場合とは異なって,最密充填から最疎被覆には球の中心点が面心立方格子から対心立方格子に移行しなければならなりません.このような移行はどのようにしたら可能になるのでしょうか? 連続的それとも飛躍的におこなわれるのでしょうか?
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