デュドニー分割では正三角形の周は正方形の内部に移り,正方形の周は正三角形の内部の点だけから構成されている.この立体版の分割も考えることができる.すなわち,立体Aの表面が立体Bの内部に移り,立体Bの表面が立体Aの内部の点だけから構成されているというものである.これはデュドニー分割よりも難しいリバーシブル問題であるが,このような例として秋山仁先生の「キツネヘビ」があげられる.
秋山先生は菱形十二面体と直方体の間の立体ハトメ返し,切頂八面体と直方体の間の立体ハトメ返しなど空間充填形同士のハトメ返しが作られ,講演ではそのような小道具を使って菱形十二面体,切頂八面体の体積を求めておられる.また,このとき多面体の形が変形するばかりでなく,菱形十二面体,切頂八面体の表面が直方体の内部に隠れることを利用して,黄色(キタキツネ)を緑(ヘビ)に変色させ,キタキツネが一瞬にしてヘビに飲み込まれる様子を表現している.
また,
[定理]平行多面体の元素数は1である(立方体σ12(σ96),6角柱σ144,菱形12面体σ192,長菱形12面体σ384,切頂8面体σ48).
が成り立つのは平行多面体が空間充填多面体であって,その二面角がπと通約できることに基づいている.今回のコラムではこれらのことについて調べてみよう.
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【1】菱形十二面体と直方体の間の立体ハトメ返し
直方体と菱形十二面体の二面角をそれぞれδp,δrで表すことにします.直方体の二面角はすべて90°,「4次元の雪」とも称される菱形十二面体の二面角はすべて120°です.
デーンの補題「分解合同な2つの多面体について,関係式
Σmiαi=Σniβi+kπ (αi,βiは二面角,mi,niは自然数,kは整数)
が成り立つ.」は,n1,n2を0でない整数として,
n1α+n2β=0 (mod π)
が成り立つとしても同値です.
この場合,明らかに
n1δr+n2δp=0 (mod π)
が成り立ちますから,菱形十二面体と直方体の間の立体ハトメ返しが可能となるための必要条件を満たしているというわけです.
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【2】切頂八面体と直方体の間の立体ハトメ返し
切頂八面体は名前のとおり正八面体の各辺を三等分して頂点を切り取った後に残る多面体です.切頂八面体には2種類の二面角がありますが,ひとつは正八面体の二面角
δo=109.471° (cosδo=−1/3)
もうひとつは切頂によって生ずる二面角
δt=125.264° (cosδt=−√(1/3))
です.
ここで,
δt=π−δo/2
すなわち,π−正八面体の2面角の半分を意味しているので,
n1δt+n2δo+n3δp=0 (mod π)
が成り立つのは当然のことです.
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【3】平行多面体の元素数は1である
立方体も菱形12面体も空間充填平行多面体なのですが,本質的な空間充填平行多面体は5種類−−立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体(6角形4枚と菱形8枚の2種類で作る12面体,菱形12面体を半分に切ってあいだに四角柱を挟んだもの),切頂8面体−−しかありません.
立方体の二面角はすべて90°,正六角柱の二面角は90°と120°,長菱形十二面体の二面角も90°と120°ですから,前項同様,分解合同となるための必要条件を満たしています.
立方体(C),6角柱(H),菱形12面体(R),長菱形12面体(E),切頂8面体(T)に共通する構成元素があるとすれば,それは
n1δc+n2δh+n3δr+n4δe+n5δt=0 (mod π)
を満たさなければなりませんが,実際にそのような元素は存在しそれがσ(ペンタドロン)というわけです.
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