■ウィア・フェラン泡(その21)
【1】ヘロンの公式とオイラーの公式
ふいご予想の証明に用いられたものは四面体の体積をその辺の長さから求める3次元空間版のヘロンの公式です.線分と三角形および四面体(三角錐)は,それぞれ最も簡単な1次元図形,2次元図形,3次元図形ですが,次元数nより1つ多い(n+1)個の頂点によって作られる図形をシンプレックス(単体)と呼びます.線分は1次元単体,三角形は2次元単体,三角錐は3次元単体とも呼ばれます.
三角形の面積,四面体の体積を座標を使って表すためにはn+1個の点の座標に(1,1,1,・・・,1)を加えて作られる(n+1)次の行列式の絶対値を考えます.
|S|=|1 x1 y1| |V|=|1 x1 y1 z1|
|1 x2 y2| |1 x2 y2 z2|
|1 x3 y3| |1 x3 y3 z3|
|1 x4 y4 z4|
原点が含まれるときは,
|S|=|x1 y1| |V|=|x1 y1 z1|
|x2 y2| |x2 y2 z2|
|x3 y3 z3|
のように展開されます.
これらはそれぞれn次元単体の体積のn!倍になりますから,三角形の面積,四面体の体積は,
S’=S/2
V’=V/6
また,4辺の長さがa,b,cで与えられた三角形,6辺の長さがa,b,c,d,e,fで与えられた四面体の場合は,
2^2(2!)^2S’^2=|0 a^2 b^2 1|
|a^2 0 c^2 1|
|b^2 c^2 0 1|
|1 1 1 0|
2^3(3!)^2V’^2=|0 a^2 b^2 c^2 1|
|a^2 0 d^2 e^2 1|
|b^2 d^2 0 f^2 1|
|c^2 e^2 f^2 0 1|
|1 1 1 1 0|
となります.
前者はおなじみの平面三角形のヘロンの公式にほかなりませんが,面積をS’=Δとして,
(4Δ)^2=2a^2b^2+2b^2c^2+2c^2a^2−a^4−b^4−c^4
=(a+b+c)(−a+b+c)(a−b+c)(a+b−c)
ここで,2s=a+b+cとおくと
Δ^2=s(s−a)(s−b)(s−c)
となり,ヘロンの公式が得られます.
後者が空間のヘロンの公式であり,V’=Δとして
(12Δ)^2=a^2d^2(b^2+c^2+e^2+f^2−a^2−d^2)
+b^2e^2(c^2+a^2+f^2+d^2−b^2−e^2)
+c^2f^2(a^2+b^2+d^2+e^2−c^2−f^2)
−a^2b^2c^2−a^2e^2f^2−d^2b^2f^2−d^2e^2c^2
一見複雑ですが,相対する線分の2乗の積に,他の線分の2乗の和から自分自身の2乗を引いた量をかけた和が
a^2d^2(b^2+c^2+e^2+f^2−a^2−d^2)
+b^2e^2(c^2+a^2+f^2+d^2−b^2−e^2)
+c^2f^2(a^2+b^2+d^2+e^2−c^2−f^2)
であり,4個の三角形の周辺3本の2乗の積の和が
a^2b^2c^2+a^2e^2f^2+d^2b^2f^2+d^2e^2c^2
です.
この公式はオイラーの公式(1752年)と呼ばれるものですが,複雑であり平面三角形のヘロンの公式のように因数分解できません.ただし,4面の面積が等しい等積四面体=4面が合同な鋭角三角形よりなる四面体(バンの定理)の場合,
72Δ^2=(−a^2+b^2+c^2)(a^2−b^2+c^2)(a^2+b^2−c^2)
と因数分解した形で表されます.
このようにかなり複雑にはなるものの四面体(三角形面4枚からなる立体)についてもヘロンの公式のようなもの(オイラーの公式)は存在します.四面体は最も単純な多面体(単体)で,あらゆる多角形が三角形分割できるようにすべての多面体は四面体に分割できます.この公式は体積と辺の長さの関係を示していて,もし多面体が形状を変えても辺の長さが同じであれば体積は変わらないというわけです.
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【2】任意の多面体の体積
三角形は3辺の長さa,b,cが与えられれば一意に決まりますから,当然面積も決まり,面積はa,b,cで表されるというのがヘロンの公式ですが,残念なことに四角形以上ではこのような公式はありえません.たとえば,すべての辺の長さが1の四角形の面積は0〜1の任意の値をとることができます.
四面体もの場合は6辺の長さを与えると(それが存在するなら)決まりますから,体積を与える公式もあり,オイラーによって与えられています.面の形が三角形でないならこの種の公式はあり得ません.
そこで,すべての面を三角形であるとして,辺の長さによる体積公式はあるでしょうか? このような公式が存在することが証明されています(それらは公式というよりはある代数方程式の根として得られます).平面三角形の面積,四面体の体積ではΔ^2を含む多項式が現れましたが,さらに複雑な立体にはますます高次の累乗が必要になり,たとえば,三角八面体の体積の公式にはΔ^16が含まれています.これ以上面の数が増えると次数は急速に大きくなります.
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【3】鍛冶屋のふいご
コネリーは折り曲げ可能多面体の体積はその折り曲げ過程で変化しないという予想を「鍛冶屋のふいご予想」と名付けました.ふいごから風はでないというこの仮説は1977年から1978年にかけて何人かの数学者によって定式化されたのですが,ほぼ20年の間,証明も反証も成功しませんでした.
そして,1997年,コネリー,ワルツ,サビトフらによってヘロンの公式の多面体の体積への拡張により証明されています.しかし,これまでのところ高次元の折り曲げ可能多面体に対するふいご予想は証明されていません.
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