三角形の5心とは内心,傍心,重心,外心,垂心を指しますが,古代ギリシャ人は5心について知っていました.その1500年後,フェルマー点が発見され,さらに1〜2世紀後に9点円の中心,その次がジェルゴンヌ点,19世紀にはいるとナーゲル点やブロカール点などが発見されました.
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【1】フェルマー点
ユークリッドは三角形の中心と呼べる点を4つ(内心,重心,外心,垂心)知っていたらしいのですが,これ以外にも中心はいろいろあります.
微分積分の入門書に「平面上に3つの定点A,B,Cがある.この平面上に点Pをとって,AP^2+BP^2+CP^2が最小になるようにせよ」という問題が偏導関数の応用例として載せられています.その点Pは重心です.3定点が4定点であっても,同じ議論になるのですが,距離の2乗の和に特に具体的な意味があるようには思えません.むしろ,2乗を取り去ったほうが問題としては自然です.
そこで,「A,B,C3軒の家に電線をひきたい.電線の長さを最小にするにはどこの柱を立てればよいか」ではAP+BP+CPを最小にする実用価値のある問題になります.
この問題は17世紀のフランスの数学者フェルマーがイタリアの物理学者トリチェリ,数学者カヴァリエリに出題したものとして有名な問題で,求める点Pをフェルマー点といいます.点Pは三角形ABCの内部にありますが,∠A,∠B,∠C<120°のときには,3頂点に至る距離の和が最小となる点は3辺を等角120°に見込む点です.∠A,∠B,∠Cのいずれかが≧120°のときには,それぞれ頂点A,頂点B,頂点Cになります.
このフェルマー点は頂点と外正三角形の頂点を結ぶ直線の共点として得られます.すなわち,フェルマー点を見つけるには与えられた三角形の各辺の上に正三角形を立てて各頂点と結ぶと,これら3本の線は1点Fで交わり∠AFB=∠BFC=∠CFAが成り立ちます.また,フェルマー点は3つの正三角形の外接円の交点でもあります.
このような最短配線問題は最小木問題(問題の発案者シュタイナーに因んで最小シュタイナー木問題)と呼ばれていますが,VLSI回路を設計するときの最も基本的な技術となっています.
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【2】9点円の中心
外心と重心の中点はフォイエルバッハの9点円の中心であり,フォイエルバッハの9点円は各辺の中点,各頂点から対辺へ下ろした垂線の足,頂点と垂心の中点の9個の点を通る円となっています(1821年:ポンスレとブリアンション).
このことから,オイラー線(1767年)は外心・重心・垂心・フォイエルバッハの9点円の中心を相互に結ぶ直線ということになりますし,フォイエルバッハの9点円の中心はオイラー線の中点で,その半径は外接円の半径の半分となります.
さらに,フォイエルバッハの9点円が三角形の内接円と傍接円の各々に接する,9点円には他にも多くの特別な点が含まれているなど,三角形のような簡単な図形が無数に未知の性質を有することはまことに不思議なことです.
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【3】ジェルゴンヌ点とナーゲル点
△ABCの内接円が3辺に接する点をD,E,Fとすると,チェバの定理により,それと向かい合う頂点とを結ぶ3本の直線AD,BE,CFは1点で交わります.この点をジェルゴンヌ点といいます.
また,△ABCの傍接円が3辺に接する点をX,Y,Zとすると,3直線AX,BY,CZは1点で交わります.この点がナーゲル点です.
三角形ABC内の点Pに対し,AP,BP,CPの延長が対辺と交わる点をX,Y,Zとします.このとき各辺の中点に関するX,Y,Zの対称点をX’,Y’,Z’とすると,チェバの定理により3直線AX’,BY’,CZ’は1点Qで交わります.このようにしてできる2点P,Qを互いに他の等長共役点と呼びます.ジェルゴンヌ点とナーゲル点は典型的な等長共役点の例ですし,重心は自己等長共役点です.
三角形の中心点を通る直線や円を介して,中心点同士の間には驚異的な関連性があり,そして中心点の位置を相互に入れ替えるような変換(共役関係)があったのです.
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【4】雑感
ユークリッドは3つの角を2等分することで内心を見つけたのですが,モーリーは3つの角を3等分するとどうなるかを問題にして,モーリーの定理「任意の三角形において,各内角の3等分線の隣同士の交点を結んで得られる三角形は正三角形である」を発見しました(1899年).
この驚くべき基本的な定理が2000年という長い間,20世紀直前にいたるまで発見されなかった理由は角の3等分問題は解けないことが判明していたところにあるのでしょう.その後,次々とモーリーの定理の証明が発表され,ロジャー・ペンローズやジョン・コンウェイのものを含めその数は150にもおよび,いまでも増え続けているそうです.三角形の幾何学は永遠に不滅なのです.
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