平面図形の等周不等式はL^2≧4πA,空間図形の等周不等式はS^2≧36πV^2で与えられる.今回のコラムでは等周不等式と(不等式ではないが)幾何学における2つの定理を紹介しよう.
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【1】等周不等式
任意のn次元の等周不等式は,
S^n/V^(n-1)≧n^nvn (vnはn次元単位球の体積)
=n^nπ^(n/2)/Γ(n/2+1)=Cn
で表されます.
n次元等周比(Cn)において,とくに,n=2のときとn=3のときについては,
C2=4π,C3=36π
すなわち,
L^2≧4πS
S^3≧36πV^2
がわかります.以下,
C4=2^7π^2,C5=8/3*5^4π^2,C6=6^5π^3,・・・
となりますが,等周比が有理数(整数)×πの形となるのは,2次元・3次元だけのようです.
また,凸体Vを囲む曲面Sにおいて,平均曲率は,
H=1/2(1/R1+1/R2)
で定義されます.ここで,平均曲率の積分を
M=∫Hds
で表すと,ミンコフスキーの不等式
S^2−3VM≧0
M^2−4πS≧0
これから直ちに
S^3≧36πV^2
が導かれます.
ともあれ,3次元凸集合に対し,表面積をS,体積をVとすると,
S^3≧36πV^2
が成り立ちます.等号成立は球のときだけで,すべての立体中で球が表面積に対して最大の体積をもっています.
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【2】パップス・ギュルダンの定理
半径aと半径b(b<a)の同心円に挟まれた円環状部分の面積は
πa^2−πb^2
で与えられるが,この図形は2次元の円に幅をもたせたものと考えることができる.
そこで,帯の幅(a−b)に重心(原点からの距離:(a+b)/2)が描く円周長2π(a+b)/2を乗ずると
円周長×幅=2π(a+b)/2×(a−b)=πa^2−πb^2
となって同じ値が得られる.
円を円と交わらない軸を中心にして3次元空間内で回転させるとトーラス(円環面)が得られる. 半径bの円を3次元空間内で半径aで回転させたトーラスの場合,
表面積=円周長2πb×円周長2πa=4π^2ab
体積=断面積πb^2×円周長2πa=2π^2ab^2
で表すことができる.すなわち,体積・表面積とも太さと長さの積で表せるというわけである.
円周率が2つ入っているが,この意味はトーラス面は環状に並べられた円であることにほかならない.トーラスの体積・表面積の解答を自力で見つけて感動を覚え,それが次の興味に繋がったという経験をお持ちの読者も少なくないだろう.トーラスを同心円の積層であることを自力でみつける姿勢は必要であろうし,わかるということの喜びを体験することができるのである.
(第1定理)回転体の体積は元になる図形の面積とその図形の重心が移動した距離の積になる.
(第2定理)表面積は図形の周となっている曲線の重心の移動距離とその図形の周長との積になる.
これらは円だけでなくあらゆる回転体について成り立つ回転体の体積と表面積に関する定理であり,4世紀前半に精力的に活動した数学者パップスにちなんで「パップスの定理」と呼ばれている.
(Q1)三角形の重心は底辺から高さの1/3のところにあるが,それでは半円の重心はどこにあるのだろうか?
(A1)パップスの第1定理を逆に使って求めてみよう.直径を軸として半円を回転させると球になる.アルキメデスによれば球の体積は
4/3πr^3
一方,パップスによればこの体積は半円の面積1/2πr^2と半円が回転したときの重心の移動距離2πdの積に等しい(重心と円の中心との距離をdとする).したがって,
d=4r/3π=0.42r
(Q2)半径rの半円形をした針金の重心は?
(A2)パップスの第2定理より,重心の移動距離2πdと半円の長さπrの積は球の表面積4πr^2は等しくなる.したがって
d=2r/π=0.64r
これらの問題は積分を使っても解くことができるが,それよりもパップスの定理を使った方が簡単であろう.また,パップスの定理は円が曲線に沿って移動するような軌跡問題などにも応用することができる.
[補]この回転体の体積や表面積についての定理は古代ギリシアの数学者パップス(4世紀前半)が言及し,後になってスイスの数学者ギュルダンによって証明が試みられました.そのため今日ではパップス・ギュルダンの定理と呼ばれています.
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【3】ホテリング・ワイルの定理(管状近傍定理)
パップス・ギュルダンの定理は一般のn+1次元空間内の曲線ついても成立する.すなわち,半径rのn次元円板を考えることによって,
管状r近傍の体積=半径rのn次元円板の体積×曲線の長さ
一般に,Sをn次元空間におけるj次元単体とすると,Sの直交r近傍Srは,Sと半径rのn−r次球の直積としても書くことができる.
voln(Sr)=volj(S)r^n-j×voln-j(Bn-j)
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