■フェルマーの最終定理と有限体(その7)

 (その2)では楕円曲線y^2=x^3−x  (mod p)の整数点の個数をNpとすると,重さ2の保型関数のq展開

  F(z)=qΠ(1-q^4n)^2(1-q^8n)^2=q-2q^5-3q^9+6q^13+2q^17-q^25-10q^29+・・・=c(n)q^n,q=exp(2πiz)

がNp+c(p)=pという関係をもつことをみた.まずはおさらいから・・・

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【1】y^2=x^3−x on Fp

 有限体

  Fp={0,1,,・・・,p−2,p−1}

を考え,楕円曲線

  y^2=x^3−x=x(x+1)(x−1)

に限定して,

  y^2=x^3−x  (mod p)

を満たす整数点(x,y)を探し出したが,Fpでの整数点の個数をNpとすると

  p  2  3  5  7  11  13  17  19  23

  Np  2  3  7  7  11   7  15  19  23

となった.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 デデキントのイータ関数,

  η(z)=q^(1/24)Π(1-q^n),q=exp(2πiz)

において,q=exp(2πiz)とおいて,関数

  F(z)=η(8z)^2η(16z)^2

=qΠ(1-q^4n)^2(1-q^8n)^2=q-2q^5-3q^9+6q^13+2q^17-q^25-10q^29+・・・

   =c(n)q^n,q=exp(2πiz)

を考えます.c(n)はF(z)のフーリエ係数です.

  n  1  5  9 13  17  25  29

  c(n) 1 −2 −3  6   2  −1 −10

 F(z)は,モジュラー

  ad-bc=1,c=0(mod 32,すなわち32の倍数)

なる任意の整数a,b,c,dに対して

  F(az+b/cz+d)=(cz+d)^2F(z)

を満たします.このとき,F(z)は重さ2の保型形式をもつといいます.とくに,

  a=1,b=1,c=0,d=1

のとき,F(z+1)=F(z)となって,実軸方向に周期1の関数になっていることがわかります.

 素数だけに注目して,Npとc(p)をひとつの表にすれば

  p  2  3  5  7  11  13  17  19  23

  Np  2  3  7  7  11   7  15  19  23

  c(p) 0  0 −2  0   0   6   2   0   0

 すなわち,

  Np+c(p)=p

という関係があることがわかります.Npは楕円曲線からの数列,c(p)は保型形式からの数列というまったく違った由来をもっているのに深いところで関連があるというわけです.このような対応がすべての楕円曲線について存在するというのが谷山予想(谷山・志村・ヴェイユ予想)です.

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【2】y^2±y=x^3−x^2 on Fp

 (その3)に掲げたy^2±y=x^3−x^2 はy^2=(xの3次式)の形ではないが,

  (y±1/2)^2=x^3−x^2+1/4

と書き換えられるので,楕円曲線である.

 y^2±y=x^3−x^2のFpでの整数点の個数Npは,

  p  2  3  5  7  11  13  17  19  23

  Np  4  4  4  9  10   9  19  19  24

  F(z)=η(z)^2η(11z)^2

   =qΠ(1-q^n)^2(1-q^11n)^2=q-2q^2-q^3+2q^4+q^5+2q^6-2q^7+・・・

   =c(n)q^n,q=exp(2πiz)

を考える.c(n)はF(z)のフーリエ係数である.

 F(z)は,

  ad-bc=1,c=0(mod 11すなわち11の倍数)

なる任意の整数a,b,c,dに対して

  F(az+b/cz+d)=(cz+d)^2F(z)

を満たすから,F(z)は重さ2の保型関数である.

 素数だけに注目して,Npとc(p)をひとつの表にすれば

  p  2  3  5  7  11  13  17  19  23

  Np  4  4  4  9  10   9  19  19  24

  c(p)−2 −1  1 −2   1   4  −2   0  −1であるから,Np+c(p)=pという関係が成り立つことが確かめられる.

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【3】y^2=x^3+1 on Fp

  F(z)=η(6z)^4=qΠ(1-q^6n)^4=q-4q^7+2q^13+8q^19-5q^2-4q^31・・・

   =c(n)q^n,q=exp(2πiz)

を考える.c(n)はF(z)のフーリエ係数である.

 F(z)は,

  ad-bc=1,c=0(mod 36すなわち36の倍数)

なる任意の整数a,b,c,dに対して

  F(az+b/cz+d)=(cz+d)^2F(z)

を満たすから,F(z)は重さ2の保型関数である.

 素数だけに注目して,Npとc(p)をひとつの表にすれば

  p  2  3  5  7  11  13  17  19  23

  Np  2  3  5 11  11  11  17  11  23

  c(p) 0  0  0 −4   0   2   0   8   0

であるから,Np+c(p)=pという関係が成り立つことが確かめられる.

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【4】2種類のゼータ関数の一致

 こみいった話になるのですが,F(z)のフーリエ係数c(n)を使って,ディリクレ級数

  φ(s)=Σc(n)/n^s

を定義します.ディリクレ級数はリーマンのゼータ関数

  ζ(s)=Σ1/n^s

を一般化したものです.そして,楕円曲線Eに対してよい還元になる素数を使って,代数的ゼータ

  L(s;E)=Π(1-c(p)p^(-s)+p^(1-2s))^(-1)=Π(pに関する部分)

を定義します.

 Fpにおいて,楕円曲線が3重根をもつとき(pに関する部分)=1(0次),2重根をもつとき(pに関する部分)=1−1/p^s(1次),重根をもたないとき(pに関する部分)=1-c(p)p^(-s)+p^(1-2s)(2次)になる.よい還元になる素数とは3つの可能性のうち最後のものを指します.

 一方,解析的ゼータを

  L(s;F)=Σc(n)/n^s=Σc(n)q^n

で定義します.このとき,すべての素数に対して「解析的ゼータ=代数的ゼータ」が成り立つというのが谷山予想(谷山・志村・ヴェイユ予想)です.

 ワイルスは1994年に谷山予想の大部分を証明し,その副産物としてフェルマーの最終定理を証明しました.谷山予想は2001年,ワイルスの方法を改良することで,ブルイエル,コンラッド,ダイヤモンド,テイラーにより証明されました.

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