(その1)では(mod π)で考えていましたが,(その2)ではその条件を外してしまいました.その方が証明がすっきりしっくりくると思われたからです.しかし,mod πによる還元は必要のようです.今回のコラムではそのことについて再考してみたいと思います.
正四面体 → cosδ4=1/3,sinδ4=√8/3
立方体 → cosδ6=0,sinδ6=1
正八面体 → cosδ8=−1/3,sinδ8=√8/3
正十二面体 → cosδ12=−√5/5,sinδ12=√20/5
正二十面体 → cosδ20=−√5/3,sinδ20=2/3
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【1】デーンの補題
「分解合同な2つの多面体について,関係式
Σmiαi=Σniβi+kπ (αi,βiは二面角,mi,niは自然数,kは整数)
が成り立つ.」
正多面体ではすべての二面角が等しいので,
n1α=n2β+kπ
ですが,n1,n2を0でない整数として,
n1α+n2β=0 (mod π)
が成り立つとしても同値です.
[参]ボルチャンスキー・ロプシッツ「面積と体積」東京図書
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【2】デーンの定理
「正四面体と立方体は(たとえ同じ体積をもっていたとしても)分割合同ではない」ことは,
n1δ=n2(π/2)+kπ
が成り立たないことを使って証明されます.
(証)分解合同ならば
2n1δ=n2π+2kπ=(n2+2k)π
これを改めて
mδ=nπ (m,nは自然数)
とおくことにする.
cosδ=1/3,sinδ=√8/3
z=exp(iδ)=cosδ+isinδ=1/3+i√8/3
z−1/3=i√8/3
より,zは2次方程式3z^2−2z+3=0の解である.
z^m=exp(imδ)=cosmδ+isinmδ
=cosnπ+isinnπ=±1
しかるに,cosδ=1/3,sinδ=√8/3より
cosmδ=(cosδのm次多項式)=(有理数)
sinmδ=sinδ×(cosδのm−1次多項式)=(無理数)
ここで,
z^m=exp(imδ)=cosmδ+isinmδ (非周期的)
と
z^m=cosnπ+isinnπ=±1 (周期的)
の実部,虚部を比較すれば,前者では実部が±1,虚部が0にならない(永久に回転し続けたとしても両者が再び接することはない)ので矛盾である→分割合同ではない.
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[補]ド・モアブルの定理:
(cosθ+isinθ)^n=cosnθ+isinnθ
の左辺を2項展開して,両辺の実部,虚部を比較すると
cosnθ=(cosθ)^n−nC2(cosθ)^n-2(sinθ)^2+・・・=(cosθのn次多項式)=Tn(cosθ)
sinnθ=nC1(cosθ)^n-1sinθ−nC3(cosθ)^n-3(sinθ)^3+・・・=sinθ×(cosθのn−1次多項式)=sinθ×Gn(cosθ)
を得る.
また,
cosnθ=cosθcos(n−1)−sinθsin(n−1)θ
sinnθ=sinθcos(n−1)+cosθsin(n−1)θ
より,漸化式
Tn(cosθ)=cosθTn-1(cosθ)−(sinθ)^2Gn-1(cosθ)
Gn(cosθ)=Tn-1(cosθ)+cosθGn-1(cosθ)
Tn(cosθ)=2cosθTn-1(cosθ)−Tn-2(cosθ)
Gn(cosθ)=2cosθGn-1(cosθ)−Gn-2(cosθ)
が成り立つ.
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【3】デーンの定理の系
等積であっても分解合同でない2つの多面体は他にも見つけられる.立方体との分解合同
n1δ4≠n2δ6,n1δ6≠n2δ8,n1δ6≠n2δ12,n1δ6≠n2δ20 (mod π)
は前節と同様にして証明される.それでは分解合同の相手が立方体以外ではどうなるだろうか.
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[1]n1δ4≠n2δ8 (mod π)
(証)n1δ4=n2δ8 (mod π)
と仮定すると,δ8=π−δ4より
n1δ4=n2(π−δ4)=−n2δ4 (mod π)
(n1+n2)δ4=0 (mod π)
しかし,前節より,
mδ4≠nπ
mδ4≠0 (mod π)
なので矛盾→分割合同ではない.
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[2]n1δ12≠n2δ20 (mod π)
(証)n1δ12+n2δ20=0 (mod π)と仮定すると,
z12=exp(iδ12)=cosδ12+isinδ12=−√5/5+i√20/5
z20=exp(iδ20)=cosδ20+isinδ20=−√5/3+i2/3
z12^n1=exp(in1δ12)=cosn1δ12+isinn1δ12
z20^n2=exp(in2δ20)=cosn2δ20+isinn2δ20
exp(in1δ12+in2δ20)=cos(n1δ12+n2δ2)+isin(n1δ12+n2δ20)=±1
ここで,実部と虚部
cos(n1δ12+n2δ20)=cosn1δ12cosn2δ20−sinn1δ12sinn2δ20=(a1+b1√5)(a2+b2√5)−(b3√5)(a4+b4√5)(b5√5)(a6)=(無理数)
sin(n1δ12+n2δ20)=sinn1δ12cosn2δ20+cosn1δ12sinn2δ20=(b3√5)(a4+b4√5)(a2+b2√5)+(a1+b1√5)(b5√5)=(無理数)
を比較すれば,実部は±1,虚部は0にならないので矛盾である→分割合同ではない.
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同様の議論から
n1δ4+n2δ6≠0,n1δ4+n2δ8≠0,n1δ4+n2δ12≠0,
n1δ4+n2δ20≠0,n1δ6+n2δ8≠0,n1δ6+n2δ12≠0,
n1δ6+n2δ20≠0,n1δ8+n2δ12≠0,n1δ8+n2δ20≠0,
n1δ12+n2δ20≠0 (mod π)
がいえます.
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【4】デーンの定理の一般化
5種類の正多面体での分解合同の関係式
n1δ4+n2δ6+n3δ8+n4δ12+n5δ20≠kπ
n1δ4+n2δ6+n3δ8+n4δ12+n5δ20≠0 (mod π)
は成り立つでしょうか?
(証)n1δ4+n2δ6+n3δ8+n4δ12+n5δ20=kπとすると,δ8=π−δ4,δ6=π/2より
2n1δ4+n2π+2n3(π−δ4)+2n4δ12+2n5δ20=2kπ
2(n1−n3)δ4+2n4δ12+2n5δ20=0 (mod π)
N1δ4+N3δ12+N4δ20=0 (mod π)
expi(N1δ4+N3δ12+N4δ20)=±1
[2][3−2]節より,実部と虚部
cos(N1δ4+N3δ12+N4δ20)=cosN1δ4cos(N3δ12+N4δ20)−sinN1δ4sin(N3δ12+N4δ20)=(cosδ4のN1次多項式)(無理数)−sinδ4(cosδ4のN1−1次多項式)(無理数)=(無理数)
sin(N1δ4+N3δ12+N4δ20)=sinN1δ4cos(N3δ12+N4δ20)+cosN1δ4sin(N3δ12+N4δ20)=sinδ4(cosδ4のN1−1次多項式)(無理数)+(無理数)(cosδ4のN1次多項式)=(無理数)
を比較すれば,実部は±1,虚部は0にならないので矛盾である→分割合同ではない.
N1δ4+N3δ12+N4δ20≠0 (mod π)
したがって,N2δ6を添加しても
N1δ4+N2δ6+N3δ12+N4δ20≠0 (mod π)
が成り立ちます.
さらに,mod πも外せば
N1δ4+N2δ6+N3δ12+N4δ20≠0
となり(δ4,0,0,0),(0,δ6,0,0),(0,0,δ12,0),(0,0,0,δ20)は4次元格子点空間の基底として理解することができます.基底の数はこれ以上減らすことはできません.これより,必要な原子が最低4種類という結論が主張できます.
[秋山の定理:2009]正多面体の元素数は≧4である.
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