■平行多面体に関する新しい定理

 昨年6月,ロシアの数学者ポントリャーギンの生誕100年を記念してモスクワで幾何学の国際会議が開催されたのだが,秋山仁先生が「平行多面体および正多面体の元素について」という演目で講演された中から,平行多面体の元素に関する内容を抜粋して紹介したい.

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【1】フェドロフの平行多面体

 1種類のブロックを使って,空間を隙間なく埋め尽くすにはどうすればいいだろうか? レンガはそのひとつの答えなのであるが,どんな形のブロックなら空間を埋め尽くせるだろうか? そのようなブロックをすべて求めよという問題ならこれは大変な難問である.

 そこで,平行多面体に限定して考えてみよう.平行多面体とは辺が平行(したがって平行四辺形面,平行六辺形面に限られる),面が平行,そして平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体である.

 平行多面体は立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂8面体の5種類しかない.これら5種類の図形(フェドロフの平行多面体)は3次元格子の幾何学的分類であって,5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられる.

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[補]結晶の対称性の群

 3次元の格子状配置は19世紀の初めから,結晶内の原子の配列を記述するのに使われてきたものであり,対称性の群の分類についての仕事の大半は,ブラーベ,フェドロフ,シェーンフリースなど19世紀の結晶学者によってなされた.

 空間での等長変換は,平行移動,回転,並進回転,鏡映,すべり鏡映,回転鏡映,恒等変換の7種類であるから,3次元結晶群は219種類存在し,その多くが結晶構造として自然界にも存在している.(結晶をテーマとする物理の本には,たいてい3次元結晶群の数は230種類存在すると書かれてあるが,変換が向きを保たないものは異なるものと数えているからである.)

 219(230)通りの空間群が解明されたことで,本質的にはすべて解明されたことになり,そして,これから決まる本質的なディリクレ領域は,ロシアの結晶学者フェドロフの見つけた5種類の平行多面体しかない.

 なお,平面上での等長変換は,平行移動,回転,鏡映,すべり鏡映,恒等変換の5種類あり,また,2次元結晶の回転角は,60°・90°・120°・180°・240°・270°・300°しかないことを考察することにより,2次元格子で異なる対称性をもつものは17種類存在することがわかる.この17種類の対称性は,2次元結晶群としてとらえることができる.この問題は,ロシアのフェドロフとドイツのシェーンフリースによって,まったく別々に解かれた.また,4次元のフェドロフ結晶群は4783種類(4895種類)存在する.

 さらに3次元ブラーベ格子には1848年にブラーベが発見した14種類,4次元のブラーベ格子は64種類(74種類:10組は対掌体の関係)ある.

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【2】ペンタドロン(平行多面体の元素の形)

 5種類ある平行多面体を平行多面体に分割する仕方は,102通り(それ自身も含めれば107通り)あり,平行六面体1,6角柱1,菱形12面体4,長菱形12面体6,切頂8面体5ピース,計17ピースを使えばすべての平行多面体を作ることができることが知られている.それでは1種類の凸多面体ピースを使ってすべての平行多面体を作ることができるだろうか?

 裏返し(鏡映対称)の多面体は同一視するが,平行多面体ではたった1種類ですべての平行多面体を充填するような元素が存在するのである.

  [秋山の定理:2008]平行多面体の元素数は1である.

 その5面体ピースをσで表し,ペンタドロンと呼ぶことにするが,立方体はσ12(σ96),6角柱はσ144,菱形12面体はσ192,長菱形12面体はσ384,切頂8面体はσ48という分子構造になっている.ここで,立方体,菱形12面体,切頂8面体は直で等辺であるが,6角柱と長菱形12面体はskewした平行多面体となる.

 分子量が最大の長菱形12面体σ384の中にほかの4種類の分子構造が埋め込まれている.一方,分子量が最小なものは切頂8面体のσ48であるが,切頂8面体には分子量が最小になる理由がある.

 平面充填図形の基本形は6角形であり,6角形の1組の対辺を退化させると4角形になる.2次元の場合のアナロジーで,フェドロフの平行多面体を考えると,フェドロフの平行多面体のうち面数が最大の多面体は切頂8面体であるが,切頂八面体には6組の平行な辺があり,6次元立方体と相同と考えることができる.切頂8面体(f=14,d=6)の辺を点に縮めることによって,長菱形12面体(f=12,d=5)→菱形12面体(f=12,d=4),6角柱(f=8,d=4)→立方体(f=6,d=3)ができる.

 すなわち,6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものとなっていて,空間充填図形の基本形は切頂8面体と考えられる.切頂8面体の1/48がペンタドロンとなる所以である.

[補]1種類の図形による空間充填形がもっと高い次元の立方格子の射影であるというのは本質的に正しいようである.なお,5種類ある平行多面体の元素数は1であるが,同じく5種類ある正多面体の元素数は4であることが証明されている.

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【3】4次元平行多面体

 一般に,n次元空間充填では,各頂点の周りに少なくともn+1個の多面体が集まる.n+1個のとき,n次元平行多面体の面数は最大2(2^n−1)個となる(ミンコフスキーの定理).

 すなわち,2次元平行多辺形は最大6辺,3次元平行多面体の面数は最大14面,4次元平行多胞体の胞数は最大30胞となる.

 4次元の場合,胞数が最大の30であるものが3つ

   P30=10P14+20P8  (原始的)

   P30=4P14+6P12+12P10+2P8+6P6

   P30=18P12+6P8+6P6

あるが,原始的4次元30胞体:P30=10P14+20P8は3次元の六角柱P8と切頂八面体P14を組み合わせた30胞体で,4次元空間の1種類だけの多胞体による空間充填図形である.

 2次元の平行多面体は2種類,3次元の平行多面体は5種類ある.4次元の平行多面体は,3次元の5種類から52種類へと急増する.また,5次元の場合には,原始的でない格子で胞数が最大の62であるものが3つあるが,5次元での平行多面体の状況ははるかに多様となって,そのリストアップはいまでも完成していない.

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【4】4次元平行多面体の元素の形は?

 原始的4次元30胞体は3次元の六角柱と切頂八面体を組み合わせた30胞体で,4次元空間の1種類だけの多胞体による空間充填図形である.

 4次元はともかく5次元,6次元の図形のアナロジーは少々危険に感ずるところがあるが,4次元の六角柱と4次元切頂八面体(30胞体)を組み合わせた62胞体は5次元空間の1種類だけの多胞体による空間充填図形であるに違いない.

 それでは,4次元平行多面体の元素は(実際にそのような充填形は存在すると思われるのだが)どのような形になっているのだろうか? 4次元の図形は直接眼に見えないので正体不明な点が多いのであるが,2次元,3次元からのアナロジーで補完してみたいと思う.

 2次元平行多面体の元素は直角三角形である.3次元平行多面体の元素は5面体である.しかし,これからは予測困難である.そこで,元素2個からなる分子を考えると,2次元では凧型4辺形,3次元では凧型面をもつ6面体となる.

 このことから,n次元では凧型面をもつ2n胞体の2頂点を北極と南極に配置して子午線で2分割した形,すなわち,偶数次元では

  2n/2+1=n+1胞体  (単体)

奇数次元では

  (2n−2)/2+2+1=n+2胞体

になるのではないかとでも予測したくなるが,これもあてずっぽうである.これで辻褄はあっているのだが,はたして4次元平行多面体の元素は凧型面をもつ8胞体を2分割した5胞体だろうか?

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