中川宏さんは目下,プラトン立体,アルキメデス立体,カタラン立体の木工制作中である.黄金比に関連する多面体としては,正十二面体や正二十面体,正二十面体の12の頂点を五角錐の高さの1/3で切り取って得られるサッカーボールや正十二面体の20の頂点を三角錐の高さの1/2でカットして得られる12・20面体などについてこれまで何度か紹介したことがある.
1.切頂型
a)非中点切頂型・・・切頂十二面体,切頂二十面体
b)中点切頂型・・・12・20面体
2.切頂・切稜型
a)切頂優位型・・・大菱形12・20面体
b)切稜優位型・・・小菱形12・20面体
今回のコラムでは,切頂・切稜型アルキメデス立体である大菱形12・20面体,小菱形12・20面体の木工製作について論及する.
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【1】正十二面体の計量
もとの立方体の1辺の長さを2,もとの立方体表面に残る1本の稜の長さを2dとします(0≦d≦1).すると切稜角φとの関係は
tanφ=1−d
で表されます.
切削してできる五角形面の頂点をxyz座標で表すと(0,1,d)の巡回置換(1,d,0),(d,0,1)を頂点にもつことがわかります.この3点の重心は
((1+d)/3,(1+d)/3,(1+d)/3)
ですからこの3点を結ぶと正三角形になること,また,もとの立方体の表面の痕跡がないまったく新たに作られた頂点はこの3点から等距離にあることから
(D,D,D)
と表されることも理解されます.
すなわち,五角面の頂点の座標は
A(0,1,d)
B(−D,D,D)
C(−d,0,1)
D(d,0,1)
E(D,D,D)
ここで,
D=1/(2−d)
と計算されます.
5辺が等長となるための条件は,辺AE=辺CDより
D^2+(D−1)^2+(D−d)^2=4d^2 → d^2−3d+1=0
ですから,これを解いて
d=(3−√5)/2,D=(−1+√5)/2
正十二面体の辺間距離は2ですが,頂点間距離は
2(1+d^2)^1/2=2.14093
また,切稜角φとの関係は
tanφ=1−d
で表されますから,面間距離は
2/(1+(1−d)^2)^1/2=1.7013
となり,面間距離が最小であることがわかります.
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【2】切頂・切稜型多面体の計量
正多面体のある頂点から隣接する頂点までの距離のどのくらいを切稜,切頂するのか,その切稜率をs,切頂率をtとおきます.大菱形12・20面体,小菱形12・20面体はともに,正十二面体の切頂・切稜型多面体なのですが,
切稜率s 切頂率t
小菱形12・20面体 1/3 y=2s
大菱形12・20面体 1/5 t=3s
と計算されます.→コラム「切頂・切稜型多面体の計量」参照
前節では正十二面体の辺間距離,頂点間距離,面間距離を求めましたが,ここではそれぞれの切稜面間距離と切頂面間距離を求めてみることにします.
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[1]切稜面間距離
切稜面は正方形面となるのですが,その頂点のy座標は
y=sD
で与えられます.したがって,x=sDとなります.
z座標はABCDE面の方程式が
Dy+z=1
となることより,
z=1−Dy=1−sD^2
また,切稜面間距離は2zで与えられますから
2z=2(1−sD^2)
より
切稜面間距離
小菱形12・20面体 1.74536 (s=1/3)
大菱形12・20面体 1.84721 (s=1/5)
になります.
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[2]切頂面間距離
頂点C(−d,0,1),E(D,D,D),F(D,−D,D)を底面とし,もう一つの頂点をD(d,0,1)とする三角錐に注目します.
底面の重心は((−d+2D)/3,0,(1+2D)/3)にありますから,切頂面の重心は(d,0,1)と((−d+2D)/3,0,(1+2D)/3)をt:1−tに内分する位置
((1−t)d+t(−d+2D)/3,0,(1−t)+t(1+2D)/3)
にあります.
切頂面間距離はこの点と中心(0,0,0)間距離の2倍で与えられますから
切頂面間距離
小菱形12・20面体 1.77748 (t=2/3)
大菱形12・20面体 1.81383 (t=3/5)
になります.
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【3】まとめ
小菱形12・20面体 大菱形12・20面体
面間距離 1.7013 1.7013
切稜面間距離 1.74536 1.84721
切頂面間距離 1.77748 1.81383
このような計算が高精度木工に役だってくれることを願っています.
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