■デューラーの八面体の設計(その5)
デューラーの謎めいた版画「メランコリアT」は五角形と六角形の組み合わせを用いることで幾何学的比喩表現に富んだものになっているという.また,「メランコリアT」の梯子の角度は72°傾いているという.これまでの結果をまとめておきたい.
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[1]以前,デューラーの八面体の榎本説(72°説)は,球に内接するが無限入れ子の方に若干のずれがあったことをレポートした.おそらく72°→正五角形→ペンタクラムからの類推から無限入れ子になると誤解したのであろうが,実際,この切頂菱面体を黄金比切頂(0.618:0.382)すると球に内接する八面体ができる.
[2]球に内接し,かつ,入れ子構造を持ち,8個の面がすべて合同な5角形の8面体であるためには,菱形の対角線の長さを2dと2,切頂率をtとすると,
d=√(13/7),t=3/5
であることが必要である.
この場合は無限入れ子構造をもつが,d=√(13/7)=1.36277という値に特別な意味を見出すことはできない.しかし,面白いことに1回の入れ子につき菱面体の大きさは1/√2の相似比で縮小される.
[3]数学的にみて蓋然性があるもうひとつの候補が,外接球と内接球を同時にもつ双心多面体である.この計算は3次方程式に帰着されるため,定規とコンパスで作図可能ではない.
d^3+4d^2/√3−7d+4/√3=0
d=1.43929
この場合も[2]とは別の意味での無限入れ子構造を形成するが,その相似比は0.795512である.
そうそう都合のいいことばかりは起こらないが,その存在理由を否定するものばかりではない.たとえば[2]の2次元対応物(外接円と内接円を同時にもつ切頂菱形)は存在しないが,[3]の2次元対応物は正六角形になり,相似比√3/2=0.866025の無限同心円列の入れ子ができることが確かめられるからである.
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