■射影幾何学における2つの定理(その4)

 (その1)では射影幾何学におけるパップスの定理とデザルグの定理を,(その2)ではパスカルの定理とその拡張形定理を紹介しました.パップスの定理もデザルグの定理もパスカルの定理もメネラウスの定理,チェバの定理を用いて証明することができます.

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【1】射影幾何学におけるパップスの定理とデザルグの定理

[1]パップスの定理

 直線上に3点A,B,C,もう一つの直線上に3点A’,B’,C’をとる.AB’とA’Bの交点をP,BC’とB’Cの交点をQ,AC’とA’Cの交点をRとするとき,P,Q,Rは同一直線上にある.

 すなわち,2直線上にすべての頂点がのっている6角形の反対側の位置にある辺同士の交点は同一直線上にあるというのが,射影幾何学におけるパップスの定理である.

 パスカルの定理は円錐曲線が既約でない場合にも成り立つといわけで,これを発見したのもパップスである.直線は無限半径をもつ円であるが,2本の直線からなる退化した円錐曲線を考えれば容易にこの定理にたどりつくであろう.

[2]デザルグの定理

 △ABCと△A’B’C’において,AA’とBB’とCC’が点Oで交わるとする.ABとA’B’の交点をP,BCとB’C’の交点をQ,ACとA’C’の交点をRとするとき,P,Q,Rは同一直線上にある.

 透視図法で移り合う2つの三角形について,対応する辺の交点はすべて1直線上にあるというのがデザルグの定理である.平行でない直線は有限の点で交わるが,平行な直線群は同じ無限遠点で交わる.無限遠直線を導入すると,任意の2直線は必ず交わることになるのである.

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 1899年,ヒルベルトは代数学から幾何学への貢献となる素晴らしい発見をしています.

  パップスの定理が成立する←→多元数系は可換

  デザルグの定理が成立する←→多元数系は結合的

パップスの定理もデザルグの定理もヒルベルトにより射影幾何学のカギとなる定理であることが示されたというわけです.

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【2】パスカルの定理

[1]パスカルの円錐曲線定理

 円錐曲線すなわち楕円,双曲線,放物線に内接する任意の六角形の三組の対辺の交点は同一直線上にある.

 円錐曲線には種々の形があります.直線は無限半径をもつ円ですが,2本の直線からなる退化した円錐曲線(ax+by+c)(dx+ey+f)=0を考えればパップスの定理「直線上に3点A,B,C,もう一つの直線上に3点A’,B’,C’をとる.AB’とA’Bの交点をP,BC’とB’Cの交点をQ,AC’とA’Cの交点をRとするとき,P,Q,Rは同一直線上にある.」にたどりつきます.パスカルの定理は円錐曲線が既約でない場合にも成り立つというわけで,どのような円錐曲線でもこの定理が成り立つことが主張されているのです.

 パスカルの定理の重要な系が「円錐曲線は任意の5点で一意に定まる」です.

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[2]パスカルの円錐曲線定理の拡張

 円錐曲線上に6点を定める.3次曲線E1,E2がこれら6点を通るとき,E1,E2はさらに3点R,S,Tで交差するが,これらの交点は同一直線上にある.

 3次曲線E1,E2は一般に9個の交点をもちますから,前述のパスカルの定理は,拡張形定理(2次曲線あるいは3次曲線相互の交点が直線上に並ぶことを主張する定理)において,3次曲線が直線に退化した特別な場合:(ax+by+c)(dx+ey+f)(gx+hy+i)=0とみなすことができます.

 この拡張形定理は楕円曲線:y^2=x^3+ax+b  (4a^3+27b^2≠0)の結合法則をも保証するものであって,その意味では楕円曲線論,代数曲線論における基本定理の原型となる重要な定理となっていて,代数幾何学の重要な定理と深く関わっています.

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[3]オイラーの定理

 2つの3次曲線が9点で交わっているとき,9個の交点のうち8個を通る3次曲線は残りの1点をも通る.

 オイラーの定理の重要な系がパスカルの拡張形定理「2つの3次曲線が9点で交わっているとき,9点中6点がひとつの2次曲線上にあれば,残りの3点は1直線上にある」です.一般に,2つのn次曲線f(x,y)=0とg(x,y)=0がn^2個の点で交わっているとします.こられのn^2個の交点中,n^2+n−2個の交点を通るn次曲線は残りのn−2個の点も通り,

  f(x,y)+tg(x,y)=0

で表されます.

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【3】メネラウスの定理とチェバの定理

[1]メネラウスの定理

 直線が△ABCの辺またはその延長と,それぞれP,Q,Rで交わるとき

  AP/PB・BQ/QC・CR/RA=1

が成り立つ.逆に,

  AP/PB・BQ/QC・CR/RA=1

が成り立てば,P,Q,Rは1直線上にある.

[2]チェバの定理

 △ABCの辺またはその延長上にない点Oをとる.頂点A,B,Cと点Oを結ぶ直線が△ABCの辺またはその延長とそれぞれP,Q,Rで交わるとき

  AR/RB・BP/PC・CQ/QA=1

が成り立つ.逆に,

  AR/RB・BP/PC・CQ/QA=1

が成り立てば,AP,BQ,CRは1点で交わる.

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 2つの定理は一見似たような定理ですが,メネラウスの定理は「3点が1直線上にある」ことを,チェバの定理は「3直線が1点で交わる」ことを示しています.

 パスカルの定理から150年以上たって,その双対にある共点定理「円錐曲線の外接する6辺形の対角線は1点で交わる」が発見されたのですが,それがブリアンションの定理です.メネラウスとチェバの生存時期も1500年以上違い,その間何もなされませんでした.不思議さを感じてしまいます.

 なお,射影平面上では点という語と直線という語を入れ替えても定理は成り立っています.これをポンスレーの双対原理と呼び,射影幾何学の最も美しい特質です.

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