鎌倉の金原博昭さんより,菱形十二面体の黄金化と菱形三十面体の白銀化について教えていただいたのですが,これらの黄金比三角多面体と白銀比三角多面体には相互補完的な関係にあることが判明しました.
金原さんが次に考えた問題は,凧型24面体の黄金化(凧型60面体の黄金凧型で凧型24面体の展開図を作成し各面が2等分されるように組み立てる)と凧型60面体の白銀化(凧型24面体の白銀凧型で凧型60面体の展開図を作成し各面が2等分されるように組み立てる)です.
凧型24面体は立方体を切頂・切稜した多面体ですし,凧型60面体は正12面体を切頂・切稜した多面体になっていますが,この両者の黄金化・白銀化の間にも相互補完的な関係は成立するのでしょうか? また,それ以前の問題としてこのような多面体は実際に閉じた多面体として存在しうるのでしょうか? このシリーズではこれらの点について検証しますが,今回のコラムでは手始めに凧型24面体と凧型60面体の計量を行ってみたいと思います.
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【1】凧型24面体の計量
アルキメデス双対を作るためには,アルキメデス立体を球に内接させ,多面体の頂点における球の接平面上に,面心を投影する必要があります.準正多面体は球に内接しても外接しないので,各頂点に集まる面の中心を結んでできる多角形が平面多角形にならないからです.
もとの立方体の1辺の長さを2,正方形面の1辺の長さをdとおくと,準正多面体[3,4,4,4]の場合,立方体を
d=2(√2−1)
で切稜すると正方形6枚と六角形12枚の2種類の面をもつ18面体(切稜立方体)ができあがります.この18面体は内接球をもつ唯一の切稜18面体であるのみならず,S^3/V^2比が最小(すなわち,表面積の割に体積が大きい)という性質をもつ特別な切稜立方体となっています.
外接球はもちませんが,この切稜立方体の六角形面が3枚集まる頂点を三角錐状に削り取ることによって,準正多面体[3,4,4,4]ができあがります.この準正多面体は斜立方八面体あるいは小菱形立方八面体と呼ばれているのですが,準正多面体ですから外接球をもつようになります.
(1)正方形面の頂点の座標:(d/2,d/2,1)
明示的に書くと,d=2(√2−1)ですから
(√2−1,√2−1,1)
の±を含めた巡回置換によって得られることがわかります.そして,原点から頂点までの距離の2乗は
2(√2−1)^2+1^2=7−4√2=R^2
(2)正方形面の中心の座標:(0,0,1)
(3)もとは六角形面だった正方形面の中心の座標:
(d/4+1/2,0,d/4+1/2,
(0,d/4+1/2,d/4+1/2)
(4)正三角形面の中心の座標:
((d+1)/3,(d+1)/3,(d+1)/3)
外接球はx^2+y^2+z^2=R^2ですから,(1)正方形面の頂点(d/2,d/2,1)における接平面は
d/2・x+d/2・y+z=R^2
で与えられます.
したがって,外接球の中心から接平面上に(2),(3),(4)を投影すると,それぞれ,
(2)→(0,0,7−4√2)
(3)→((−8+7√2)/2,0,(−8+7√2)/2)
(3)→(0,(−8+7√2)/2,(−8+7√2)/2)
(4)→((−9+10√2)/7,(−9+10√2)/7,(−9+10√2)/7)
この凧型は√2でパラメトライズされますから,白銀凧型と呼ぶことにします.白銀凧型の辺長(1.028,0.795115)で辺長比は1.29289,内角は(81.579°×3,115.263°),二面角はすべて等しく138.118°と計算されます.
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【2】凧型60面体の計量
切稜多面体のq角錐を根本のところで切り落とすとそこには正q角形ができますから[4,p,4,q]型の多面体となります.立方体の場合は(p,q)=(4,3)ですから[3,4,4,4]=小菱形立方八面体が,正12面体の場合は(p,q)=(5,3)ですから[3,4,5,4]=小菱形12・20面体となります.
もとになる立体の1辺の長さをa,切稜パラメータをx,切頂パラメータをy,また,正多面体のある頂点から隣接する頂点までの距離のどのくらいを切稜,切頂するのか,その切稜率をs,切頂率をtとおくと
sa=x,ta=2x+y (0≦s≦0.5,0≦t≦1)
ですから
x=sa,y=(t−2s)a
(1)p角形面と4角形面に挟まれる辺の長さは
b=a+2xcos(2π/p)−2x
(2)4角形面q角形面に挟まれる辺の長さは
d=2xcos(π/p)
で与えられます.
準正多面体では,b=dより
1+2scos(2π/p)−2s=2scos(π/p)
s=1/(2−2cos(2π/p)+2cos(π/p))
したがって,p=4(立方体)では
s=1/(2+√2),t=2s
p=5(正12面体)では
s=1/3,t=2s
となることがわかります.
この公式は小菱形立方八面体も場合も使えますが,ここでは小菱形12・20面体の場合を考えます.小菱形12・20面体では1辺の長さaの正12面体の各面が1辺の長さb(=d)の正五角形に縮み,その隙間を正方形,正三角形が埋めたものになっています.そこで黄金比をφ,縮小比をκ=b/a=φ/3,もとの正12面体の正五角形面の頂点の座標を
A(φ/2,φtan36°/2,φ^2/2)
B(φ/2,−φtan36°/2,φ^2/2)
C(φcos36°,−φsin36°,φ^2/2−1)
D(φ,0,−φ^2/2+1)
E(φcos36°,φsin36°,φ^2/2−1)
から小菱形12・20面体の頂点の座標をパラメトライズすると
(1)正五角形面の頂点の座標:
A(φ/2,φtan36°/2,φ^2/2)
したがって,原点から頂点までの距離の2乗は
(φκ/2)^2+(φκtan36°/2)^2+(φ^2/2)^2=(31φ+22)/36=R^2
(2)正五角形面の中心の座標:(0,0,φ^2/2)
(3)正方形面の中心の座標:
((2φ+1)/6,0,(3φ+2)/6)
((2φ+1)/6cos72°,(2φ+1)/6sin72°,(3φ+2)/6)
(4)正三角形面の中心の座標:
((5φ+4)/18,(5φ+4)/18tan36°,(9φ+5)/18)
正五角形面の頂点(φκ/2,φκtan36°/2,φ^2/2)における接平面は
φ/2・x+φtan36°/2・y+φ^2/2・z=R^2
x+tan36°y+3z=(9φ+13)/6
で与えられます.
したがって,外接球の中心から接平面上に(2),(3),(4)を投影すると,それぞれ,
(2)→(0,0,(9φ+13)/18)
(3)→((6φ−5)/6,0,(φ+6)/6)
(3)→((6φ−5)/60cos72°,(6φ−5)/60sin72°,(φ+6)/6)
(4)→((17φ+20)/66,(17φ+20)/66tan36°,(37φ+17)/66)
この凧型は黄金比φでパラメトライズされますから,黄金凧型と呼ぶことにします.この黄金凧型の辺長(0.827147,0.537337)で辺長比は1.53935,内角は(86.9742°×2,118.2691°,67.783°),二面角はすべて等しく154.121°と計算されます.
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