■転がる石に苔むさず(その3)

 タイヤが歪んでいるとき,平らな道の上を滑らかに転がることができません.丸くない車輪,たとえば,定幅図形であるルーローの三角形では最高点を同じ高さに保つことはできても中心位置は上下にブレて高さを一定には保てないからです.しかし,逆に考えると,歪んだタイヤでも凸凹具合によっては滑らかに転がることができる道があるはずです.

 (その1)では丸くない車輪の例として,四角い車輪の回転軸が水平線を描く場合の基線となる曲線を求めてみました.解曲線は懸垂曲線を上下逆にしていくつか並べたものになりました.

 その際,正方形の重心の高さが一定に保たれたまま動くことができます.これは懸垂曲線のもつ意外な性質ですが,うまく調節すれば三角の車輪も可能になるはずです.今回のコラムでは車輪が正三角形でありながら電車が上下動することなく進むことのできる線路を設計してみます.

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【1】懸垂曲線

 ひもの両端を固定しぶら下げてできる曲線を懸垂線(カテナリー)といいます.懸垂線はちょっと考えると放物線ではないかと思われがちですが,放物線よりもずっときつく上昇する曲線で,代数曲線ではありません.懸垂線は双曲線関数

  y=a/2(exp(x/a)+exp(-x/a))=acosh(x/a)

によって定義されます.

 懸垂線の問題を解いたのがベルヌーイであったのですが,変分法によって懸垂線は与えられた2点を両端とする一定の長さの曲線をx軸を軸として回転させたときにできる曲面の表面積を最小にする曲線であることが導かれます.なお,体積が最大になる曲線は楕円関数になります。

 また,サイクロイドは直線上に円を転がしたときにできる軌跡でしたが,懸垂曲線は放物線を直線上で転がしたとき焦点が描く軌跡でもあります.

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【2】四角い車輪

 車輪の曲線を極座標表示してr=r(θ),道の曲線をy=y(x)とします.その際,直交座標上での曲線の長さは

  l(x)=∫(0,x){1+(dy/dx)^2}^(1/2)dx

また,極座標上における曲線の長さは,

  s(θ)=∫(0,θ(x)){r^2+(dr/dθ)^2}^(1/2)dθ

で与えられます.

 車輪が滑らずに転がることから,l(x)=s(θ)

この両辺をxで微分して,2乗すると

  1+(dy/dx)^2={r^2+(dr/dθ)^2}(dθ/dx)^2

 また,道の深さと車輪の動径が等しいことより

  r(θ(x))=−y(x)

これを微分すると

  dr/dθ・dθ/dx=-dy/dx

前式にこれを代入して

  dθ/dx=−1/y(x)

が得られます.

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 車輪の形:r=r(θ)が与えられているときには,y(x)=r(θ)ですから

  dθ/dx=1/r(θ(x))

を解くことになります.

 四角い車輪が転がる場合について求めてみることにしましょう.1辺の長さが2の正方形の場合,下辺は

  r=−1/sinθ  (-3π/4≦θ≦-π/4)

で表されます.したがって,解くべき方程式は

  dθ/dx=−sinθ  (θ(0)=-π/2)

 この方程式は変数分離形ですから,

  ∫(-π/2,θ)1/sinθdθ=−∫(0,x)dx

左辺は

  log(−tan(θ/2))

右辺は−xですから,

  x=−log(−tan(θ/2))

 →exp(−x)=tan(θ/2)

 したがって,

  y=1/sinθ=−cosh(x)

すなわち,懸垂線を逆さまにした曲線となります.

 正方形が直線上を回転するとき,正方形の頂点が回転軸となるため,正方形の中心は中心角π/2の円弧を連ねた曲線を描きますが,それとはまったく異なる曲線(懸垂曲線)が得られたことになります.四角い車輪の場合,辺上の接点と懸垂線とは,伸開線と縮閉線のような関係にあるのです.

 また,正方形の中心から頂点までの距離は√2ですから,cosh(x)=√2を解いて,

  a=log(1+√2)

が得られます.2aごとにこれを平行移動でつないだ曲線

  y=−cosh(x−ka)

  (2k−1)a≦x≦(2k+1)a,kは整数

が道の曲線となるわけです.

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【3】三角の車輪

 1辺の長さが2の正三角形の場合,下辺は

  r=−1/√3sinθ  (-2π/3≦θ≦-π/3)

で表されます.したがって,解くべき方程式は

  dθ/dx=−√3sinθ  (θ(0)=-π/2)

 この方程式は変数分離形ですから,

  ∫(-π/2,θ)1/√3sinθdθ=−∫(0,x)dx

左辺は

  log(−tan(θ/2))/√3

右辺は−xですから,

  x=−log(−tan(θ/2))/√3

 →exp(−√3x)=tan(θ/2)

 したがって,

  y=1/√3sinθ=−cosh(√3x)

 また,正三角形の中心から頂点までの距離は2/√3ですから,cosh(√3x)=2/√3を解いて,

  a=log(√3)/√(3)

が得られます.2aごとにこれを平行移動でつないだ曲線

  y=−cosh(√3x−ka)

  (2k−1)a≦x≦(2k+1)a,kは整数

が道の曲線となるわけです.

 これで車輪が正三角形でありながら電車が上下動することなく進むことのできる線路の出来上がりです.

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【4】n角の車輪

 一般に,1辺の長さが2の正n角形の車輪の場合,

  r=−cot(π/n)sinθ  (-2π/n≦θ≦-π/n)

したがって,

  y=cot(π/n)sinθ=−cosh(tan(π/n)x)

中心から頂点までの距離はcosec(π/n)ですから,解曲線は

  y=−cosh(tan(π/n)x)

  |x|≦cot(π/n)log(cot(π/n)+cosec(π/n))

となります.

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【補】接線座標

 曲線上の点Pにおける接線とx軸とのなす角度をσ,OP=rとすると,曲線(x,y)は接線座標(r,σ)でパラメトライズされることがわかります.焦点Fを原点とする接線方程式をr=f(σ),基線となる曲線を(x,y)とすると

  y=f(π/2−τ),τ=arctan(dy/dx)

  dy/dx=tanτ

  dx/(dx^2+dy^2)^1/2=cosτ

  dy/(dx^2+dy^2)^1/2=sinτ

これを積分すれば所要の曲線が得られます.

 たとえば,焦点を原点とする楕円の接線方程式は

  r(2a−r)sin^2σ=b^2

したがって,微分方程式

  y(2a−y)=b^2/cos^2σ=b^2(1+(dy/dx)^2)

を解いて

  y−a=csin(x/a)・・・三角関数

車輪の形が楕円で道の形が三角関数のとき,楕円の焦点は直線を描くことが確かめられました.

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【補】接線極座標

 曲線上の点Pにおける接線に原点Oから引いた垂線の長さをp,接線とx軸とのなす角度をφとすると,

  xsinφ−ycosφ=p(φ)

と表されます.(p,φ)を接線極座標といいます.

 接線座標(r,σ)との関係は

  p=−rcosσ,dp/dφ=rsinσ

  r=(p^2(φ)+p’^2(φ))^1/2,σ=arctanp/p’

から得られます.

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