■幾何学的不等式への招待(その3)

 同じ大きさの球に内接する正12面体と正20面体とでは,正12面体の方が体積Vも表面積Sも大きい.−−−そんなばかなと思われるかもしれませんが,直感に反して,正12面体は球の66.5%,正20面体は球の60.6%を占めるのです.したがって,正多面体を球に内接させたとき最も球に近い正多面体は正12面体です.一方,外接させれば体積も表面積も正20面体の方が球に近くなります.

 このように三次元の問題はなかなか一筋縄ではいきませんが,今回のコラムでは多面体に対する等周問題を取り上げます.

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【1】等周不等式

 任意のn次元の等周不等式は,

  S^n/V^(n-1)≧n^nvn   (vnはn次元単位球の体積)

         =n^nπ^(n/2)/Γ(n/2+1)=Cn

で表されます.

 n次元等周比(Cn)において,とくに,n=2のときとn=3のときについては,

  C2=4π,C3=36π

すなわち,

  L^2≧4πS

  S^3≧36πV^2

がわかります.以下,

  C4=2^7π^2,C5=8/3*5^4π^2,C6=6^5π^3,・・・

となりますが,等周比が有理数(整数)×πの形となるのは,2次元・3次元だけのようです.

 また,凸体Vを囲む曲面Sにおいて,平均曲率は,

  H=1/2(1/R1+1/R2)

で定義されます.ここで,平均曲率の積分を

  M=∫Hds

で表すと,ミンコフスキーの不等式

  S^2−3VM≧0

  M^2−4πS≧0

これから直ちに

  S^3≧36πV^2

が導かれます.

 ともあれ,3次元凸集合に対し,表面積をS,体積をVとすると,

  S^3≧36πV^2

が成り立ちます.等号成立は球のときだけで,すべての立体中で球が表面積に対して最大の体積をもっています.

 多面体の等周問題は,単位球に外接する多面体では,

  V=S/3

となることから,

  S^3/V^2=9S=27V

が成り立ちます.したがって,与えられた面数nをもつ多面体に関する等周問題は,最小の体積または最小の表面積をもち,球に外接するn面体を定めるという問題に帰着されます.

 凸f面体の表面積をS,体積をVとすれば,等周不等式は,

  S^3/V^2≧54(f−2)tan(ωf)(4sin^2(ωf)−1)

  ωf=f/(f−2)・π/6   f≧3

ただし,等号は3稜頂点多面体に対してのみ成り立つことに注意して下さい.これによって,3稜頂点多面体に対しては,正多面体(正4面体,立方体,正12面体)が同じ面数の多面体の中でも最良となることが証明されるのです.

 一方,3角形多面体に関しては

  S^3/V^2≧54(f−2)(3tan^2(ωf)−1)

また,これらを包括する一般的な不等式として

  S^3/V^2≧9esin(2π/p~)(tan^2(π/p~)tan^2(π/q~)−1)であることが予想されています.

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【2】メディアル多面体

(Q)等周比の点からいえば,5種の正多面体では正4面体が最も球に遠く,正20面体が最も球に近いことになります.それでは,f個の面をもつ多面体の中で等周比の最小値を与えるものは何でしょうか?

(A)答えはf=4,6,12ではプラトンの正多面体,すなわち,正四面体,立方体,正十二面体が最小値をとります.しかし,f=8で等周比の最小値をあたえるものは正八面体ではありません.

 フェイェシュ・トートの「配置の問題−平面・球面・空間における−」みすず書房にはf=8で等周比の最小値をあたえるものはアルキメデスの反プリズムとあったと記憶しているのですが,マイケル・ゴールドバーグの論文:

  M. Goldberg: The isoperimetric problem for polyhedra, Tohoku Math. J. 40, 226-236(1935)

には四角形4枚,五角形4枚からなるメディアル多面体(4^45^4)が極値を与えることが紹介されています.

          等周比

  正八面体    187.06

  六角柱     187.06

  歪重角錐    181.55

  4^45^4    180.23

  S^3/V^2≧54(f−2)tan(ωf)(4sin^2(ωf)−1)=177.45

 同様にf=20も未解決のまま残っていますが,五角形12枚,六角形8枚からなるメディアル多面体(5^126^8)が極値を与えることが紹介されています.

          等周比

  正二十面体   136.46

  5^126^8    133.31

  S^3/V^2≧54(f−2)tan(ωf)(4sin^2(ωf)−1)=132.87

 これらのことからゴールドバーグは最小値はメディアル多面体(どの面も[6−12/f]角形または[6−12/f]+1角形)のとき達成されると予想しました.f≧12のとき,メディアル多面体の構成は5^126^(f-12)になります.

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[補]アルキメデスの正角柱(Archimedean prism:上下の底面が正多角形で,側面がすべて正方形であるもの)に対して,アルキメデスの反角柱(Archimedean antiprism)とはアルキメデスの正角柱を少しひねって,側面をすべて正三角形にしたものです.

 また,元の立体の頂点の数と面の数を互いに入れ替えた立体を双対多面体といいます.正多面体の双対は正多面体ですが,アルキメデスの立体はアルキメデス双対で,たとえば,菱形十二面体の双対多面体は立方八面体です.また,正角柱の双対は重角錐(dipyramid),反角柱の双対はねじれ重角錐(trapezo-hedron)となります.

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