菱形十二面体,菱形三十面体は球に外接する(内接球をもつ)のですが,球には外接しないものの合同な菱形だけでできている多面体には,2種類の菱形六面体を除いて実はあと2つ,1885年にフェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体(第2種)があります.
これまで,中川宏さんは菱形十二面体,菱形三十面体の木工製作を済ませていますので,今回は菱形二十面体と菱形十二面体(第2種)の木工製作にチャレンジしてもらうことになりました.
===================================
【1】菱形十二面体(第2種)の木工製作
[1]菱形十二面体(第2種)とその木工製作過程
菱形三十面体の一部を作った後,ゾーン多面体という特徴を利用して平行な対面を仕上げています.
[2]菱形十二面体(第2種)による空間充填
===================================
【2】菱形多面体
合同な菱形だけでできている多面体について考えます.どのような菱形でも平行6面体を作ることができるのですが,この菱面体には2種類(太った菱面体とやせた菱面体)あって,細めで尖ったほうがacute(扁長菱面体),太めで平たいほうがobtuse(扁平菱面体)と呼ばれています.
ケプラーは複合多面体から菱形十二面体,菱形三十面体を発見し,すべての面が合同な菱形である菱形多面体は,菱形十二面体と対角線の比が黄金比になっている菱形を30個組み合わせてできる菱形三十面体以外にはないことを証明しようとしたのですが,実はあと2つ,1885年,フェドロフが発見した菱形二十面体と1960年にビリンスキーが発見した菱形十二面体(第2種)があります.
菱形三十面体からあるゾーン(菱形の連なった帯)を抜き取って押しつぶすと菱形二十面体,菱形二十面体からあるゾーンを抜くと菱形十二面体(第2種)になるので,これらは各面の対角線の長さの比が黄金比の菱形からなる一連のゾーン多面体と考えることができます.
すなわち,黄金平行多面体は5種類あり,これらはコクセターによりA6(acute),O6(obtuse),B12(Bilinsky),F20(Fedrov),K30(Kepler)と名づけられています.黄金菱形をある方向に平行移動させたものがA6,O6であり,それをさらに平行移動させるとB12が,続いてF20が,最後にK30が生まれます.したがって,A6とO6は3次元の,B12は4次元の,F20は5次元の,K30は6次元の立方体とそれぞれ同等になります.
また,B12の中には2つずつのA6とO6が,F20の中にはひとつのB12と3つずつのA6とO6が(いいかえればF20の中には5つずつのA6とO6が),K30の中にはひとつのF20と5つずつのA6とO6が(いいかえればK30の中には10個ずつのA6とO6が)それぞれ入っていることになります.
===================================
【3】ゾーン多面体の構成
菱形三十面体からあるゾーンを抜くと,菱形二十面体や菱形十二面体(第2種)になるので,これらは各面の対角線の長さの比が黄金比の菱形からなる一連のゾーン多面体と考えることができます.菱形のすべての稜は2方向,菱形六面体のすべての稜は3方向,菱形十二面体では4方向,菱形三十面体では6方向を向いているのですが,菱形二十面体では5方向,菱形十二面体(第2種)では4方向を向くことになります.
一般にすべての稜がn方向を向くとき,面数はf=n(n−1)となります.そのうち,ゾーン面は2枚ずつ増やせるので2(n−1)面,天井面と床面はそれぞれ(n−1)(n−2)/2面で
2(n−1)+2(n−1)(n−2)/2=n(n−1)
という構成になっています.
f=n(n−1)=2,6,12,20,30,42,56,・・・
e=2n(n−1)
v=n(n−1)+2
n ゾーン 天井床 f e v
3 4 2 6 12 8
4 6 6 12 24 14
5 8 12 20 40 22
6 10 20 30 60 32
===================================
【4】菱形多面体の頂点
菱形の鋭角(acute)m個と鈍角(obtuse)n個が集まる頂点をamonで表すことにすると,菱形の鋭角と鈍角の和は
a+o=180°
ですから,頂点に4つ以上の鈍角が集まることは不可能です.頂点に集まる角がすべて鈍角である場合はo3で,菱形の鈍角が120°より小さいことが必要になります.
o=120°(a=60°)の菱形では平面充填形となってしまいますから,o3を有する菱形多面体の面は,正三角形を2個つなげた菱形(対角線の長さの比が1:√3)よりも太っていることが必要で,黄金比や1:√2の菱形などがその候補となるというわけです.
また,この菱形(鋭角が60°より大きい)が頂点に集まる角がすべて鋭角である場合は最大1頂点に5枚ですから,a3またはa4またはa5ということになります.また,鈍角と鋭角が混ざっている頂点がある場合,a+o=180°ですから,a1o1,a2o2は存在し得ず,a3o1,a2o1,a1o2のみが可能となります.
実際には
扁長菱面体:a3=2,a1o2=6
扁平菱面体:a2o1=6,o3=2
菱形十二面体:a4=6,o3=8
菱形十二面体(第2種):a4=2,a3o1=4,a1o2=4,o3=4
菱形二十面体:a5=2,a3o1=10,o3=10
菱形三十面体:a5=12,o3=20
のようになっています.
菱形三十面体からあるゾーン(菱形の連なった帯)を抜き取って押しつぶすと菱形二十面体,菱形二十面体からあるゾーンを抜くと菱形十二面体(第2種)になるので,これらは各面の対角線の長さの比が黄金比の菱形からなる一連のゾーン多面体と考えることができます.菱形30面体→菱形20面体の過程でいくつかのa5は保持されるのですが,菱形20面体→菱形12面体(第2種)の過程ですべて消失してしまいます.そして,4個のo3だけが最後まで遺残します.
===================================
【5】菱形多面体の二面角
木工では二面角が重要になるのですが,そこで黄金菱形,白銀菱形の菱形からなる菱形多面体の二面角を求めてみることにしました.
黄金菱面体 白銀菱面体
頂角 63.4350 70.5288
a3 72 75.5227
a2o1 36,144 60,120
a1o2 72,108 75.5227,104.477
o3 144 120
a4 112.456 120
a3o1 108,144 ×(124.101,144.16)
a5 144 ×(164.478)
a3とa1o2,o3とa2o1では同じ二面角が出現していますが,黄金菱面体ではさらにa5とa3o1,o3,a2o1が同じになります.
===================================