L関数
L(s)=1/1^s−1/3^s+1/5^s−1/7^s+・・・
はゼータ関数の兄弟分にあたります.
L(1)=1/1−1/3+1/5−1/7+・・・=π/4
はその特殊値で,グレゴリー・ライプニッツ級数として知られています.
L(2)=1/1^2−1/3^2+1/5^2−1/7^2+・・・
はカタランの定数として知られるもので,第1種完全楕円積分を用いると
L(2)=2∫(0,1)K(k)dk=1/2∫(0,π/2)θ/sinθdθ=0.91596・・・
に等しくなりますが,明示的な値は不明です.
杉岡幹生氏のHP
http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page182.htm
http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page185.htm
ではフーリエシステムと奇数ゼータの話題を取り上げていますが,今回のコラムではそのL関数版として,フーリエシステムと偶数Lの話題を取り上げることにします.
http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page188.htm
http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page189.htm
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【1】ディリクレのL関数
[1]ガンマ関数の定義式より
∫(0,∞)x^(s-1)exp(-nx)dx=Γ(s)n^(-s)
ですから,ディリクレ級数 Σan/n^sについて
Σan/n^s=1/Γ(s)∫(0,∞)(Σanexp(-nt))t^(s-1)dt
が得られますが,この式はディリクレ級数f(s)=Σan/n^sと同じ係数をもつベキ級数F(z)=Σanz^nはメリン変換
f(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)F(exp(-t))t^(s-1)dt
によって互いに結ばれていることを意味します.
例えば
(1)ζ(s)=Σ1/n^sにおいてF(exp(-t))=Σexp(-nt)=1/(exp(t)-1)
(2)φ(s)=Σ(-1)^(n-1)/n^s=(1-2^(1-s))ζ(s)において
F(exp(-t))=(-1)^(n-1)exp(-nt)=1/(exp(t)+1)
(3)L(s)=1/1^s−1/3^s+1/5^s−1/7^s+・・・において
F(exp(-t))=1/(exp(t)+exp(-t))
したがって,
Γ(s)ζ(s)=∫(0,∞)x^(s-1)/(exp(x)-1)dx
Γ(s)ζ(s)(1-2^(1-x))=∫(0,∞)x^(s-1)/(exp(x)+1)dx
L(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)t^(s-1)/(exp(t)+exp(-t))dt
関数論において,ベキ級数は基本的な役割を演じますが,メリン変換によって,ベキ級数の性質からディリクレ級数の性質を導いたり,その逆も可能になります.ゼータ関数は最も簡単かつ最も重要なディリクレ級数f(s)=Σan/n^sですが,メリン変換は(解析的数論における)ゼータ関数と(関数論における)保型関数(ある種の2重周期的挙動をする複素変数関数)を結ぶ装置として,数論の世界では決定的に重要な意味をもっています.
[2]また,ベルヌーイ数とゼータ関数の関係
ζ(2n)=(-1)^(n-1)2^(2n-1)B2n/(2n)!π^2n
ζ(2n+1)=(-1)^(n+1)(2π)^(2n+1)/2(2n+1)!∫(0,1)B2n+1(x)cot(πx)dx
ζ(1-2n)=−B2n/2n
に対して,オイラー数とL関数の関係
L(2n+1)=(-1)^nE2n/2^(2n+2)(2n)!π^(2n+1))
L(2n)=(-1)^nπ^2n/4(2n-1)!∫(0,1)E2n-1(x)sec(πx)dx
L(-n)=1/2En
があります.
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【2】フーリエシステムと偶数L
f(x)=Σ(-1)^(n-1)cos((2n+1)x)/(2n+1)^2
に対して
(-1)^(n-1)/(2n+1)^2=2/π∫(-π/2,π/2)f(x)cos((2n+1)x)dx
これを部分積分すると
(-1)^(n-1)/(2n+1)^2=2/π∫(-π/2,π/2)(Σ(-1)^(k-1)sin((2k+1)x)/(2k+1))sin((2n+1)x)/(2n+1)dx
これを縦に足し合わせると
Σ(-1)^(n-1)/(2n+1)^2=2/π∫(-π/2,π/2)(Σ(-1)^(k-1)sin((2k+1)x)/(2k+1))Σsin((2n+1)x)/(2n+1)dx
ここで,フーリエ級数の公式
Σsin((2n+1)x)/(2n+1)=π/4
Σ(-1)^(n-1)sin((2n+1)x)/(2n+1)=log(tanx+1/cosx)/2
より
L(2)=Σ(-1)^(n-1)/(2n+1)^2=1/4∫(-π/2,π/2)log(tanx+1/cosx)dx
である.
同様に,
f(x)=Σ(-1)^(n-1)cos((2n+1)x)/(2n+1)^4
に対して
(-1)^(n-1)/(2n+1)^4=2/π∫(-π/2,π/2)f(x)cos((2n+1)x)dx
これを部分積分すると
(-1)^(n-1)/(2n+1)^4=2/π∫(-π/2,π/2)(Σ(-1)^(k-1)sin((2k+1)x)/(2k+1)^3)sin((2n+1)x)/(2n+1)dx
これを縦に足し合わせると
Σ(-1)^(n-1)/(2n+1)^4=2/π∫(-π/2,π/2)(Σ(-1)^(k-1)sin((2k+1)x)/(2k+1)^3)Σsin((2n+1)x)/(2n+1)dx
ここで,フーリエ級数の公式
Σsin((2n+1)x)/(2n+1)^3=πx(π-x)/8
Σ(-1)^(n-1)sin((2n+1)x)/(2n+1)=log(tanx+1/cosx)/2
より
L(4)=Σ(-1)^(n-1)/(2n+1)^2=1/8∫(-π/2,π/2)x(π-x)log(tanx+1/cosx)dx
である.
このようにして,杉岡氏は
L(2n)=∫(0,π/2)(2n次多項式)log(tanx+1/cosx)dx
を示して,奇数ゼータが明示的に求めらない理由として,数回微分してlog(tanx+1/cosx)になる初等関数が存在しないことをあげています.
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【3】フーリエシステムと偶数L(その2)
すでに,杉岡氏は奇数ゼータζ(3),ζ(5),・・・の非明示は
y’+y^2=−1 → 初等関数y=1/tan(x+C)
y”+y’^2=−1 → 初等関数y=log(sin(x+C))
y^(3)+{y^(2)}^2=−1 → 初等関数解なし
y^(4)+{y^(3)}^2=−1 → 初等関数解なし
y^(5)+{y^(4)}^2=−1 → 初等関数解なし
y^(n+1)+{y^(n)}^2=−1 → n≧2のとき,初等関数解なし
との関連性を指摘していますが,偶数Lの非明示に対しては
(y’)^2=y^4−y^2 → 初等関数y=1/cos(x+C)
(y”)^2=(y’)^4−(y’)^2 → 初等関数y=log(tan(x+C)+1/cos(x+C))
(y^(3))^2=(y^(2))^4−(y^(2))^2 → 初等関数解なし
(y^(4))^2=(y^(3))^4−(y^(3))^2 → 初等関数解なし
(y^(5))^2=(y^(4))^4−(y^(4))^2 → 初等関数解なし
(y^(n+1))^2=(y^(n))^4−(y^(n))^2 → n≧2のとき,初等関数解なし
さらに奇数Lの明示が
y^(n)=π/4
なる初等関数の存在と関連することを指摘しています.これらの初等関数は簡単に求められますから,すべての奇数Lは明示的に求まるというわけです.
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