■空間充填18面体と4軸構造(その10)

 このシリーズでは周期的4軸構造[111]型(構造体T)に対応するのが空間充填18面体であることを直接的に示してきたが,4軸構造は他にもある.(その3)に掲げた[111]型(構造体U)がそれである.構造体Uをもとにして空間充填多面体を設計したとしてもエンゲルの38面体を越すことはないと思われるが,6軸構造よりも計算は簡単なはずである.

  4軸構造(構造体T)   周期的   等方的

  4軸構造(構造体U)   周期的   等方的

  6軸構造[110型]   周期的  非等方的

  6軸構造[1τ0型]  準周期的   等方的

 とはいっても1種類の多面体で済むかどうかはわからないし,凸多面体になるという保証もない.しかし,空間充填多面体を軸数で分類することは数学者が行っていない設計方法であり,同じ頂きに登るにしても登山ルートはいくらでもあるということを示すためにもやってみる価値はあると思う.

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【1】[111]型(構造体U)の計量

 [111]型(構造体T)の骨組みとなったのはねじれ重角錐Cであったが,構造体Uの骨組みになる多面体を求めてみよう. 

 二面角120°は3つの多面体が合して1稜をつくる際の二面角であるが,マラルディの角(cosθ=−1/3,θ=109.471°に対応する二面角でもある.菱形十二面体には平行な辺が4組あり,それが4軸を決定するのであるが,4軸構造(構造体U)の場合もその中心にあるのは菱形十二面体(二面角120°)である.

 4方向を立方体の対角線の方向[1,1,1],[−1,1,1],[1,−1,1],[1,1,−1]にとるのが4軸構造であり,ザクロ石の結晶は実際にこの構造をとる.空間充填18面体の場合もその4軸はそれぞれ109.471°(70.529°)をなしているのだが,4軸は交わらずにねじれの位置にある.

 そして,4軸構造にはトポロジカルに異なる構造が2種類あり,接触指数6^4(構造体T)と3^4(構造体U)の2タイプが存在することがわかっている.たとえば[1,1,1]を法線ベクトルとする平面(x+y+z=0)に投影したとき円柱が他の円柱と6点で接し,自己保持されているのが構造体T,3点で接し固定されているのが構造体Uである.

 このことから,構造体Tでは菱形12面体の3価の頂点を天地に配して,天の3面だけで決定できたのだが,構造体Uでは菱形12面体の3価の頂点を天地に配して,側面も考慮に入れる必要があることがわかる.なお,頂点と辺の3等分点を通る水平面で水平断する切断は菱形12面体を菱形台形12面体に変形させるときに用いられるものである.→コラム「ボロノイ細胞と平行多面体(その17)」参照

[1]円柱の方向ベクトルを[1,1,1]方向にとり,

  A1=[1,1,1],A2=[−1,1,1],A3=[1,−1,1],A4=[1,1,−1]

とおく.以下,これを規格化した

  A1=1/√3[1,1,1]

  A2=1/√3[−1,1,1]

  A3=1/√3[1,−1,1]

  A4=1/√3[1,1,−1]

を方向ベクトルとして用いることにする.

[2]定点ベクトルBiをAiと直交するように選ぶ.たとえば,規格化した定点ベクトルは

  B2=1/√2[0,1,−1],B3=1/√2[−1,0,1],B4=1/√2[1,−1,0]

になる.ここでは,定点ベクトルの大きさをdとして,

  B2=d/√2[0,1,−1]

  B3=d/√2[−1,0,1]

  B4=d/√2[1,−1,0]

と定める.

 また,AiとAjの両方に直交するベクトルBij,その大きさをdで定めると

  B23=d/√2[1,1,0]

  B34=d/√2[0,1,1]

  B42=d/√2[1,0,1]

[3]2円柱Pi=tAi+Bi,Pj=tAj+Bjの双方に対して垂直な単位ベクトルnijは

  nij=Ai×Aj/|Ai×Aj|=1/√2(1,1,0)

さらに2円柱Pi,Pjの距離dijは

  dij=|nij・(Bi−Bj)|=d

と計算される.

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 円柱の中心軸ベクトルPi=tAi+Biを求めると

  P5=sA1+2B2=[s/√3,s/√3+d√2,s/√3−d√2]

  P6=sA1+2B3=[s/√3−d√2,s/√3,s/√3+d√2]

  P7=sA1+2B4=[s/√3+d√2,s/√3−d√2,s/√3]

  P8=rA2−2B2=[−r/√3,r/√3−d√2,r/√3+d√2]

  P9=rA4−2B4=[r/√3−d√2,r/√3+d√2,−r/√3]

  P10=rA3−2B3=[r/√3+d√2,−r/√3,r/√3−d√2]

このとき,

  n59=A1×A4/|A1×A4|=1/√2(−1,1,0)

  d59=|n59・2(B2+B4)|=d

より,P5とP9は互いに接していることがわかる.

  n910=A4×A3/|A4×A3|=1/√2(0,−1,−1)

  d910=|n910・2(B4−B3)|=2d

よりP9とP10は接しないが,

  P9=[r/√3−d√2,r/√3+d√2,−r/√3]

  P10=[−r/√3+d√2,r/√3,−r/√3−d√2]

の距離d910=2dとおくと

  r=√6d

P2とP3の接点にはt=d√(3/2)が対応することは(その3)で述べたが,この値はその2倍である.

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次に,P3とP9が互いに接する条件から

  n39=A3×A4/|A3×A4|=1/√2(0,1,1)

  d39=|n39・(B3+2B4+d√(27/8)A1)|=d

これより

  P2=tA2+B2+d√(27/8)A1=[−t/√3+3d/2√2,t/√3+5d/2√2,t/√3+d/2√2]

  P3=tA3+B3+d√(27/8)A1=[t/√3+d/2√2,−t/√3+3d/2√2,t/√3+5d/2√2]

  P4=tA4+B4+d√(27/8)A1=[t/√3+5d/2√2,t/√3+d/2√2,−t/√3+3d/2√2]

と定まる.

 円柱P3,P9の接点は

  P3=tA3+B3+d√(27/8)A1=[t/√3+d/2√2,−t/√3+3d/2√2,t/√3+5d/2√2]

  P9=[r/√3−d√2,r/√3+d√2,−r/√3]

の距離d39=dとおいて,

  t^2+2tr/3+r^2+d(11t+r)/√6+43d^2/8=0

 この方程式の変数は2個あるが,平方和の形

  (t+r/3+11d/2√6)^2+8/9(r−3d/2√6)^2=0

に整理されるから

  r=d√6/4,t=−d√6

となる.この値もt=d√(3/2)の−2倍である.

 南半球

  P11=tA2+B2−d√(27/8)A1=[−t/√3−3d/2√2,t/√3−d/2√2,t/√3−5d/2√2]

  P12=tA3+B3−d√(27/8)A1=[t/√3−5d/2√2,−t/√3−3d/2√2,t/√3−d/2√2]

  P13=tA4+B4−d√(27/8)A1=[t/√3−d/2√2,t/√3−5d/2√2,−t/√3−3d/2√2]

における円柱P11,P9の接点は

  P11=tA2+B2−d√(27/8)A1=[−t/√3−3d/2√2,t/√3−d/2√2,t/√3−5d/2√2]

  P9=[r/√3−d√2,r/√3+d√2,−r/√3]

の距離d119=dとおいて,

  t^2+2tr/3+r^2−d(11t+r)/√6+43d^2/8=0

  (t+r/3−11d/2√6)^2+8/9(r+3d/2√6)^2=0

に整理されるから

  r=−d√6/4,t=d√6

となる.

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【2】頂点の座標

 P2からP4に対して,に対して,ts=−d√(3/2),te=d√(3/2)として2端点に対応する空間座標を求めると

  P2s=d/2√2[5,3,−1]

  P2e=d/2√2[1,7,3]

  P3s=d/2√2[−1,5,3]

  P3e=d/2√2[3,1,7]

  P4s=d/2√2[3,−1,5]

  P4e=d/2√2[7,3,1]

となるが,

  B23=P2e−P3s

  B34=P3e−P4s

  B42=P4e−P2s

という関係があることはすでにわかっている.同様に,P11からP13に対して,ts=−d√(3/2),te=d√(3/2)として2端点に対応する空間座標を求めると

  P11s=d/2√2[−1,−3,−7]

  P11e=d/2√2[−5,1,−3]

  P12s=d/2√2[−7,−1,−3]

  P12e=d/2√2[−3,−5,1]

  P13s=d/2√2[−3,−7,−1]

  P13e=d/2√2[1,−3,−5]

 P8からP10に対して,rs=−d√6,re=d√6として2端点に対応する空間座標を求めると

  P8s=d/√2[2,−4,0]

  P8e=d/√2[−2,0,4]

  P9s=d/√2[−4,0,2]

  P9e=d/√2[0,4,−2]

  P10s=d/√2[0,2,−4]

  P10e=d/√2[4,−2,0]

 また,AiとAjの両方に直交するベクトルBij,その大きさをdで定めると

  B23=d/√2[1,1,0]

  B34=d/√2[0,1,1]

  B42=d/√2[1,0,1]

となるが,

  P8e−P9s=2d/√2[1,0,1]=2B42

  P9e−P10s=2d/√2[0,1,1]=2B34

  P10e−P8s=2d/√2[1,1,0]=2B23

という関係がある.

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  P8からP10に対して,rn=d√6/4,tn=−d√6として2端点に対応する空間座標を求めると

  P8n=d/2√2[−1,−3,5]

  P9n=d/2√2[−3,5,−1]

  P10n=d/2√2[5,−1,−3]

  P2n=d/2√2[7,1,−3]

  P3n=d/2√2[−3,7,1]

  P4n=d/2√2[1,−3,7]

  P2n−P10n=d/√2[1,1,0]=B23

  P3n−P9n=d/√2[0,1,1]=B34

  P4n−P8n=d/√2[1,0,1]=B42

  rw=−d√6/4,tw=d√6として2端点に対応する空間座標を求めると

  P8w=d/2√2[1,−5,3]

  P9w=d/2√2[−5,3,1]

  P10w=d/2√2[3,1,−5]

  P11w=d/2√2[−7,3,−1]

  P12w=d/2√2[−1,−7,3]

  P13w=d/2√2[3,−1,−7]

  P13w−P10w=d/√2[0,−1,−1]=−B34

  P11w−P9w=d/√2[−1,0,−1]=−B42

  P12w−P8w=d/√2[−1,−1,0]=−B23

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【3】雑感

 ここで,仮にd=30√2とおくと

  P2s=[75,45,−15]

  P2e=[15,105,45]

  P3s=[−15,75,45]

  P3e=[45,15,105]

  P4s=[45,−15,75]

  P4e=[105,45,15]

  P11s=[−15,−45,−105]

  P11e=[−75,15,−45]

  P12s=[−105,−15,−45]

  P12e=[−45,−75,15]

  P13s=[−45,−105,−15]

  P13e=[15,−45,−75]

  P8s=[60,−120,0]

  P8e=[−60,0,120]

  P9s=[−120,0,60]

  P9e=[0,120,−60]

  P10s=[0,60,−120]

  P10e=[120,−60,0]

  P8n=[−15,−45,75]

  P9n=[−45,75,−15]

  P10n=[75,−15,−45]

  P2n=[105,15,−45]

  P3n=[−45,105,15]

  P4n=[15,−45,105]

  P8w=[15,−75,45]

  P9w=[−75,45,15]

  P10w=[45,15,−75]

  P11w=[−105,45,−15]

  P12w=[−15,−105,45]

  P13w=[45,−15,−105]

 以上で代表的な頂点の座標は求まったが,多面体にすべく勝手に取った点をつないで線は引けても,面を構成するには相手を選んで線を引かねばならないし,逐次的に行くのも大変である.次回以降に再検討したい.

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