平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる5種類の平行多面体(フェドロフ)はよく知られている.一般に,n次元空間充填では,各頂点の周りに少なくともn+1個の多面体が集まる.n+1個のとき,n次元平行多面体の面数は最大2(2^n−1)個となる(ミンコフスキーの定理).したがって,3次元平行多面体の面数は最大14面となるし,4次元平行多胞体の胞数は最大30胞となる.
原始的n次元2(2^n−1)胞体には平行なn−1次元面が(2^n−1)組,平行なn−2次元面がn(n+1)/2組あることは組み合わせ的方法によって容易に理解されるところである.それでは平行な(1次元)辺は何組あるだろうか? 一松信先生とこの問題について議論していたのだが,その際,原始的4次元30胞体についての計算をご教示していただいたので紹介したい.
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【1】オイラーの多面体公式
正二十面体をイメージして下さい.正二十面体(頂点が12個,正三角形の面が20個ある)の各頂点からのびている5本の辺をそれぞれ1/3の長さの所で切り取り,五角錐をはずします.するとそこに12枚の正五角形が現れ,20枚の正三角形が20枚の正六角形になるわけです.
サッカーボールは正二十面体の切頂形であって,正五角形が12枚,正六角形が20枚の合計32枚の面で構成されています.12個の正五角形はすべて離れています.
サッカーボールでは,頂点の数v=60,辺の数e=90ですから,面の数f=32となってオイラーの多面体公式
v−e+f=2
が成り立っています.しかし,実際に頂点の数vや辺の数eを数えたら途中で間違うこと必定です.
そこで,正五角形がx面,正六角形がy面あるとします.サッカーボールではどの頂点からも3本の辺が出ているので,5x+6y個の頂点は同じ頂点が重複して3回数えられていることがわかります.したがって,頂点数vは
3v=5x+6y
同様に,5x+6y個の辺は同じ辺が重複して2回数えられているので,
2e=5x+6y
オイラーの公式に代入すると
(5x+6y)/3−(5x+6y)/2+x+y=2
より,x=12,y=20,v=60,e=90,f=32
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【2】原始的3次元14面体の計量
原始的3次元14面体とは切頂八面体のことです.そこで,正方形がx面,正六角形がy面あるとします.切頂八面体でもどの頂点からも3本の辺が出ているので,4x+6y個の頂点は同じ頂点が重複して3回数えられていることがわかります.したがって,頂点数vは
3v=4x+6y
同様に,4x+6y個の辺は同じ辺が重複して2回数えられているので,
2e=4x+6y
オイラーの公式に代入すると
(4x+6y)/3−(4x+6y)/2+x+y=2
より,x=6,y=8,v=24,e=36,f=14
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【3】オイラー・ポアンカレの公式
fkをn次元多面体のk次元面の数とし,
(f0,f1,・・・,fn-2,fn-1)
を構成要素とするn次元正多胞体では,組み合わせ的方法によって,k次元胞数fkが求められます.たとえば,正単体では
fk=(n+1,k+1)
なのですが,k=n−1のときfk=n+1であって,胞数はn+1と計算されます.
同様に,双対立方体では
fk=2^k+1(n,k+1),k=n−1のとき,fk=2^n
立方体では
fk=2^n-k(n,k),k=n−1のとき,fk=2n
となります.
もちろん,
正単体:fk=(n+1,k+1)
双対立方体:fk=2^k+1(n,k+1)
立方体:fk=2^n-k(n,k)
はオイラー・ポアンカレの定理:
f0−f1+f2−・・・+(−1)^(n-1)fn-1=1−(−1)^n
すなわち,nが奇数なら2,偶数なら0を満たします.この定理は正多胞体に限らず,n次元凸多胞体について常に成立します.
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【4】原始的4次元30胞体の計量
原始的4次元30胞体は原始的3次元14面体の4次元版である.構成要素は正六角柱(644)(HCと略)と切頂八面体(466)(TOと略)で,HCの六角形面をTOのひとつの面に合わせる必要がある.TOの正方形面はすべてHCの側面と合わせる.そう考えると次のような接続になる.
(1)HCの六角形面はつねにTOの六角形面と合う
(2)HCの六角形面は半数がTOの四角形面に,半数が他のHCと合う
(3)TOの四角形面はつねにHCの四角形面と合う
(4)TOの六角形面は半数がTOの六角形面に,半数が他のTOと合う
全体としてTO,HCの胞数をx,yとすると,これらの接続関係から次の関係式が出る.
x+y=30
2y=8x/2(六角形面について)
6x=6y/2(四角形面について)
したがって,x=1,y=20
面の数は四角形面の延べ数が30×6(両者とも四角形面は6個ずつ),六角形面の延べ数が8x+6y=120
2面ずつ接するから面の実数は四角形面が180/2=90,六角形面が120/2=60,合計150枚
辺の延べ数は4×90+6×60=720本であり,1辺の3胞(3面)ずつが会するから,辺の実数は720/3=240本
頂点数はオイラー・ポアンカレの公式から
30+240−150=120個
延べ数が720(辺の延べ数と同じ)なので,各頂点に6本ずつの辺が会する.
これで大体の形がわかったのでまとめると,原始的4次元30胞体では5組(10個)の切頂八面体と10組(20個)の六角柱からなる30胞体となる.これはケルビンの立体の4次元版で,各頂点の周りに5個ずつ集まる.この切頂八面体(466)×10と正六角柱(644)×20からなる4次元空間充填図形の諸計量は,
V=120,E=240,F=150,C=30
1つの頂点の周りに集まる胞数は(466)×2,(644)×2
となる.
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【5】雑感
故・乙部融朗住職が「数式の羅列はそれはそれで必ず正しいのですが計算が終わるマデにイメージが浮かぶのは一松先生のような大家のみカナ.」と話しておられたことを思い出した.
一松先生が誤りがあるかもしれない・・・とおっしゃるのだが,考察の続きを申し添えておきたい.『正六角柱の側面6本ずつは平行線の族である.これから一応,20組の平行線の族ができる.6×20=120本で全体の半分,そのうち,点対称な位置にある2組ずつが同じ向きなので,全体で10組,12本ずつの平行な辺の組ができる.3次元のTOのときと同じく六角形面同士の交わりの辺は対辺と平行であり,上記のどれかの組と平行になるので全体として24本ずつ10組の平行な辺の組ができるように思う.それらの向きは4次元の正5胞体において,中心から一対の対辺の中点とそれに相対する面の(正三角形の中心)を結ぶ方向,合計10本であるように思う.』
なお,一松先生はコラム「デーン不変量と二面角の幾何学」に対してもコメントくださり
『3次元の正多面体の二面角について,δ6=90°,δ4+δ8=180°という関係がありますが,それ以外の有理数関係はないようです.δ4とδ8とは互いに補角なので,
n1δ4+n2δ6+n3δ12+n4δ20=0
n1δ8+n2δ6+n3δ12+n4δ20=0
の一方が証明できれば他方も証明できるし,多分,整数論の知識を利用して証明できると思います.そして,これらが有理係数で線形独立ならば必要な原子が最低4種類という結論が主張できると思います(デーンの公式の一般化).』
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