■n次元平行多面体数(その9)

【1】ボロノイベクトル

 ここでは,n次元格子の幾何学的分類をボロノイ細胞を使って考えるのだが,ボロノイ細胞の決定に関与するベクトルをボロノイベクトルと呼ぶことにすると,n個の独立なベクトル

  v1,v2,・・・,vn

あるいは,それらの和が

  v0+v1+v2+・・・+vn=0

を満たす1次従属なベクトルv0を加えたn+1個のベクトル

  v0,v1,v2,・・・,vn

でボロノイ細胞を決定することができる(v0をひとつ追加して考えることで,重要な進歩をもたらすことができる).

 ボロノイベクトルは,vと−vを同じベクトルと考えると

  m0v0+m1v1+m2v2+・・・+mnvn   (miは0または1)

で表すことができるのだが,miは同時に0または1であってはならない.また,たとえば,3次元の場合(v0+v1+v2+v3=0)では

  v0+v3=−(v1+v2)

のようにそれを表すベクトルは2つずつある.したがって,ボロノイベクトルは

  (2^(n+1)−2)/2=2^n−1

個あることになる.

 −1を掛けたものを含めると2(2^n−1)個あり,ボロノイ細胞の2(2^n−1)個のn−1次元平行面に対応する.そのため,2次元格子の多くについてボロノイ細胞は6角形,3次元格子の多くについてボロノイ細胞は14面体となるのである.

 このことは高次元の場合に一般化できて,4次元格子では30胞体,5次元格子では62房体になる.fkをn次元多胞体のk次元面の数とし,

  (f0,f1,・・・,fn-2,fn-1)

を構成要素とするn次元正多胞体で,n−1次元胞数fn-1を求めると

 fn-1(n−1次元面の数)

n=2   f1=6

n=3   f2=14

n=4   f3=30

n=5   f4=62

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【2】ボロノイ細胞の形

 n次元ボロノイ細胞の決定に関与する基底ベクトルは2^n−1個あり,したがって面の数は最大で2(2^n−1)個であることはわかったが,面の形はどうなるのだろうか?

 ボロノイベクトルにはボロノイ細胞のn−1次元超平面の中心を通過するもの,ボロノイ細胞の角(n−2次元超平面,・・・)を通過するなどがある.角を通るベクトルもごくわずかのところでボロノイ細胞のn−1次元面に関与していないだけなので,面心を通るベクトルと少なくとも同じ程度に重要である.

 たとえば,vi(i=1-n)はn−1次元面の面心を通るのだが,v0は2次元でも3次元でも頂点(0次元面)を通る.組み合わせ的方法によって,ボロノイベクトルが通る位置とその数を求めてみよう.

[1]2次元の場合(v0+v1+v2=0)

点:v0

辺:v1,v2

[2]3次元の場合(v0+v1+v2+v3=0)

点:v0

面:v1,v2,v3

辺:v1+v2,v2+v3,v1+v3・・・この図形には平行な辺(1次元面)が3組ある

[3]4次元の場合(v0+v1+v2+v3+v4=0)

点:v0

胞:v1,v2,v3,v4

面:v1+v2,v1+v3,v1+v4,v2+v3,v2+v4,v3+v4・・・この図形には平行な面(2次元面)が5組ある

辺:v1+v2+v3,v1+v2+v4,v1+v3+v4,v2+v3+v4

[4]n次元の場合(v0+v1+v2+・・・+vn=0)

 gkをn次元ボロノイベクトルのk次元面の数とし,構成要素を

  (g0,g1,・・・,gn-2,gn-1)

とすると

gn-1:nC1=n

gn-2:nC2=n(n+1)/2・・・この図形には平行なn−2次元面がgn-2組ある

g1 :nCn-1=n

g0 :nCn=1

計  :2^n−1

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 ボロノイ細胞のn−1次元面の数は2(2^n−1)個あり,それらの形はn−2次元面の退化・非退化によって決まってくる.この図形には平行なn−2次元面がn(n+1)/2組ある.

 3次元の場合,6組の平行な辺によって切頂八面体が定められることになるのだが,

点:v0             → 六角形

面:v1,v2,v3        → 六角形

辺:v1+v2,v2+v3,v1+v3 → 四角形

となり,4組(8枚)の六角形面と3組(六枚)の四角形面からなる14面体が得られる.3次元空間を充填するとき,切頂八面体は各頂点の周りに4個ずつ集まる.1点に4個の多面体が会すると頂点や辺だけで接している多面体がなくなり,ボロノイ分割に対して安定となる.

 平行多面体とは,平行移動するだけで3次元空間を埋めつくすことのできる単独の多面体であって,立方体,6角柱,菱形12面体,長菱形12面体,切頂8面体の5種類しかない.

 このうち6角柱,菱形12面体は4次元立方体,長菱形12面体は5次元立方体,切頂8面体は6次元立方体を3次元空間に投影したものと一致している.また,切頂8面体(f=14)の辺を点に縮めることによって,長菱形12面体(f=12)→菱形12面体(f=12)→6角柱(f=8)→立方体(f=6)ができると考えることができる.1点に4個の多面体が会してボロノイ分割に対して安定なものは切頂八面体だけなのであるが,立方体や菱形十二面体は,切頂八面体の辺を点に縮めることによって得られるというわけである.

 これら5種類の図形(平行多面体)は3次元格子の幾何学的分類であり,5種類の正多面体(プラトン立体)ほどよく知られていないが,少なくとも同じ程度に重要であると考えられる所以である.

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 4次元の場合は

点:v0                         → 切頂八面体

胞:v1,v2,v3,v4                 → 切頂八面体

面:v1+v2,v1+v3,v1+v4,v2+v3,v2+v4,v3+v4→六角柱

辺:v1+v2+v3,v1+v2+v4,v1+v3+v4,v2+v3+v4→六角柱

となり,5組(10個)の切頂八面体と10組(20個)の六角柱からなる30胞体となる.これはケルビンの立体の4次元版で,各頂点の周りに5個ずつ集まる.

 ついでにいうと,4次元格子のボロノイ細胞は2次元の六角形(3組の平行な頂点をもつ図形)や3次元の切頂8面体(6組の平行な辺をもつ図形)にあたる素の形(10組の平行な2次元面をもつ図形)が3つ(残り2つ)あるため3次元の5種類から52種類へと急増するそうである.5次元格子では素の形だけで222種類,その辺を点に縮めると膨大な数になる.

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