■イントロダクション

 高次元の多胞体を研究するためのmethodologyとして

[1]組み合わせ位相幾何学的方法,

[2]グラフ理論を用いる方法,

[3]群論的方法,

[4]個々に構成する方法,

[5]計量的な方法などがあげられる.

 コクセターはコクセター群(回映群)の立場から多面体研究している.すなわち,鏡像で生ずる有限離散群(polytope),無限離散群(honeycomb,空間充填)を整理して論ずるもので,方法としては最もエレガントだと思う.また,コクセターが初めて用いた用語に,正多面体のもつ高度の対称性を活用する「ワイソフ構成」がある.

 本稿ではワイソフ構成された多面体(ワイソフ多面体)を扱うが,率直にいって,これまでの群論的研究ではワイソフ構成の有用性に対する理解はまだまだ不十分である.そのため,f0,f1あるいはfn-1は求められてもfベクトル(f0,f1,・・・,fn-1,fn)の全容解明には至っていない.また,大域的な幾何構造はわかるが,局所的な幾何構造がわかりにくいという欠点もある.

 高次元図形の解析法は未完成であって,数学的にもっと昇華された方法を用いる必要がある.タンパク質の形はDNAによって決定される.DNAから情報をうまく抽き出すことによってタンパク質が合成される.いささか抽象的な言い方になるが,ここではワイソフ・コードを「遺伝子」とみなすことによって多面体の基本情報(k次元面数)を抽き出す方法(再帰的アルゴリズム)について紹介したい.

 ワイソフ・コードが遺伝子の役割を果たすことは誰しも直観的に理解できるものであろう.しかしその反面,これまでワイソフ・コードの有効活用が十分でなかった理由は,多面体の識別番号(単なる名前)という概念にとどまってしまい,ワイソフ・コードからの情報の抽き出し方がまずかったからである.

 われわれのアイデアの核心は,いわば

[6]遺伝的な方法(DNAとの相同性を利用した情報抽出法)

であるが,そのアルゴリズムを機械的・盲目的に適用することによって,高校生でも高次元情報を計算できるようになる.たとえば,任意に選んだ6次元ワイソフ多胞体{33334}(010110)のfベクトルは(f0,f1,f2,f3,f4,f5)=(5760,23040,32160,19680,5276,476)で与えられる.この計算は実際見かけほど困難ではなく,群論の知識も必要としない.行列計算ができればそれで済むのである.

 しかしながら,これから述べる方法は,高次元図形の研究法としてはじめの1歩であって,それだけで完成品ではない.われわれはこの方法をさらに進化・深化させて,他の基本情報(多面体の体積や表面積,頂点周りのk次元面数)を得ているし,その応用としていくつかの高次元空間充填多面体を構成している.空間充填以外の興味深い性質をもつ多面体クラスも構成している.

 高次元球の最密充填問題(とくに8D,24D)は通信理論に重要な成果をもたらし現代の生活スタイルを担保するものになっているが,本稿がその多面体版の役割を果たしてくれること,高次元離散幾何学の発展のみならず現実世界での応用を期待している.

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[1]正多胞体とシュレーフリ記号

[2]ワイソフ多胞体とワイソフ記号

[3]ワイソフ多胞体はいくつあるのか

[4]ワイソフ記号とトランケーションの自然な対応

[5]組み合わせ論的数え上げ

[6]再帰的アルゴリズムと計算例

[7]5次元ワイソフ多胞体のfベクトル

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