■素数定理とエラトステネスのふるい(その20)
もし,仮に加法の素因数分解を考えれば,たとえば,
10=3+7=5+5=2+3+5=・・・
と幾通りもの素因数分解が考えられるところである.(p(10)=41通りの方法がある.)
それに対して,乗法の素因数分解は順序の違いを除けば1通りしかないというのが「算術の基本定理」である.
10=2・5=5・2
物質の世界において,原子が分裂することは一大事であるが,数の世界において,素数が分裂することは一大事である.たとえば,
a+ib√5 (a,bは整数)
の形の数の世界を考えると,この世界では
21=3×7=(4+i√5)(4−i√5)
のように素因数分解の一意性が成り立たない.
Z(i),Z(√−2),Z(√2),Z(√3),Z(√6)
など,Z(√m)という形の環(mは平方因子をもたない整数)でユークリッド整域になるものは20個くらいしかないことが知られていることを補足しておきたい.そこには大切な法則ながあるに違いない.
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Q(i)の整数環は一意分解整域である.つまり,どの整数a+biも素数の積で,順序は無視して一通りに表される.さらにこの環は整除のアルゴりズムが定義されるユークリッド整域である.
整数環Zもユークリッド整域であり,したがって一意分解整域である.Zはn=1の円分体Q(ξn)の整数環と考えられる.
虚2次体の単数が±1でないものが2つある.
Q(i)→±1,±i
Q(ω)→((−1+i√3)/2))^j,j=0〜5
虚2次体Q(√−d)の類数が1であるdは9個ある.
d=1,2,3,7,11,19,42,67,163
この体の整数は,素数の積で順序は無視して一通りに表される.ガウスはこの9個をしっていたが,他にはないということがわかったのは1966年になってからである.後半の4つ,d=19,42,67,163に対し,Q(√−d)の整数環はユークリッド整域ではないので注意.
虚2次体Q(√−d)の類数が2となるdは9個ある.
d=5,6,10,13,15,22,35,37,51,58,91,115,123,187,235,267,403,427
実2次体Q(√d)の整数環がノルムの絶対値に関してユークリッド整域となるのは,次の16個である.
d=2,3,5,6,7,11,13,17,19,21,29,33,37,41,57,73
整除のアルゴリズムが定義できる整域をユークリッド整域という.
円分体Q(ξn)の整数が素数の積として一通りに表されるn(≠2 mod4)は,次の30個である.
n=1,3,4,5,7,8,9,11,12,13,15,16,17,19,20,21,24,25,27,28,32,33,35,36,40,44,45,48,60,84
円分体Q(ξn)の整数環は
n=1,3,4,5,7,8,9,11,12,15,16,20,24
のとき,ユークリッド整域である.n=32のときはそうではない.
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