紀元前3世紀の頃(ユークリッドの時代),既に5種類の正多面体は知られていたといわれています.これら5個はすべて頂点がひとつの球面上にあり,Dを球面の直径,aを内接する正多面体の辺の長さとすると,
立方体 → D^2=3a^2
正四面体 → D^2=3a^2/2
正八面体 → D^2=2a^2
正十二面体 → D^2=(5+√5)a^2/2
正二十面体 → D^2=3(3+√5)a^2/2
また,正多面体ではすべての二面角が等しいという性質をもっています.今回のコラムでは正多面体の二面角に着目してみます.
立方体の二面角はπ/2(cosδ6=0,δ6=90°)ですが,他の正多面体については
正四面体 → cosδ4=1/3,δ4=70.5288°
正八面体 → cosδ8=−1/3,δ8=109.471°
正十二面体 → cosδ12=(1−φ^2)/(1+φ^2)=−√5/5,tanδ12=−2,δ12=116.565°
正二十面体 → cosδ20=(1−φ^4)/(1+φ^4)=−√5/3,sinδ20=2/3,δ20=138.19°
と計算されます.正四面体と正八面体の二面角は互いに補角をなすというわけです.
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【1】デーンの定理(1901年)
任意の三角形を平行四辺形に直す→長方形に直すことは小学校の教科書にも載っている方法ですが,平面上に面積の等しい2つの多角形が与えられたとき,どちらにも組み立てられる有限個の小片が必ず存在します(ボヤイ・ゲルヴァインの定理,1833年).
デュドニーのカンタベリー・パズルは正三角形をそれと等積の正方形に直す問題ですが,正五角形や正六角形を切り刻んで正方形に再構成する仕方も知られています.また,正六角形をいくつかの小片に切り離して並び替え正八角形をつくることや星形を正方形にかえることも可能です.
それでは,同じ体積の2つの多面体は常に分解合同であろうか? 1900年,ヒルベルトは体積の等しい2つの多面体が切断によって合同かどうかを国際数学者会議での問題として問いかけました.それに対して,1901年,デーンは体積の等しい立方体と正四面体は切断によって合同でないという結果を証明しました.任意の三角形は長方形と分割合同であることが証明されるので,デーンの定理は2次元と3次元の違いを際立たせていることになります.
デーンを有名にしたこの定理は,パリの国際数学者会議(1900年)においてヒルベルトが提出した第3問題を直後に否定的に解決したものです.第3問題「分解合同・補充合同でない2つの多面体の存在を示せ」の背景には,ユークリッドの原論にみられる面積と体積の理論を幾何学の厳密な公理の上に再構成しようとしたヒルベルトのプログラム(幾何学基礎論)が潜んでいるのですが,それに対する否定的な解答がデーンの定理というわけです.
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「正四面体と直方体は(たとえ同じ体積をもっていたとしても)分割合同ではない」ことは,二面角δがπとは通約できない(cosδ=1/3ならばδはπの有理数倍ではない),すなわち,0でない整数n1,n2に対して
n1δ+n2π=0
が成り立たないことを使って証明されます.
また,デーンの定理から
「同じ底面積と高さをもつ2つの三角錐は分割合同ではない.」
ことも証明されます.同様に,そのn次元版「等積なn次元正単体とn次元直方体とは分解合同にならない」ことが結論されます.
デーンの定理により,一般には同じ体積をもつ他の多面体には組み替えられないのですが,菱形十二面体と直方体の間の立体蝶番返し,鼈臑型四面体の三角柱への組み換えなどは分解合同の例ですが,それは例外的なケースなのであって,多面体においては体積が等しくても分解合同でないものが存在するのです.
なお,分割合同であるための必要条件と空間充填形ができるための必要条件は,ほぼ同じと考えられるのですが,空間充填形ができるための必要条件は,二面角δが4直角の整数分の1であることです.菱形十二面体,直方体,鼈臑型四面体などが分解合同であるのは二面角δが4直角の整数分の1であるためです.
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【2】秋山の定理(2008年)
正四面体と正八面体の二面角は互いに補角をなすので,
n1δ4+n2δ8=0
が成り立ちますが,
n1δ4+n2δ6=0,n1δ4+n2δ12=0,n1δ4+n2δ20=0
n1δ6+n2δ8=0,n1δ6+n2δ12=0,n1δ6+n2δ20=0
n1δ8+n2δ12=0,n1δ8+n2δ20=0,n1δ12+n2δ20=0
は成り立ちません.
ところで,本年6月,ロシアの数学者ポントリャーギンの生誕100年を記念してモスクワ大学で幾何学の国際会議が開催されたのですが,秋山仁先生が「正多面体の元素について」という演目で講演されました.秋山先生は
(Q)何種類かの凸多面体ピースを使ってすべての正多面体を作ること
という問題を考えて,実際に4種類の元素をα,β,γ,δとすると正四面体はα8,正20面体はβ24,正八面体はβ24γ24,立方体はα8β12γ12,正12面体はα8β12γ12δ12で構成されることを示しました.
このことから
[定理]正多面体の元素数は≦4である.
がいえるわけです.すなわち,正多面体の元素数は多くても4種類であることを主張しているわけです.
正多面体の二面角は超越数ですから
n1δ4+n2δ6+n3δ12+n4δ20=0
n1δ8+n2δ6+n3δ12+n4δ20=0
も成り立ちそうにありません.このことは正多面体の元素数は少なくとも4種類であり,at most 4とat least 4,これらのことから正多面体の元素数は4であると推定されます.
また,
[定理]平行多面体の元素数は1である(立方体σ12(σ96),6角柱σ144,菱形12面体σ192,長菱形12面体σ384,切頂8面体σ48).
が成り立つのは平行多面体が空間充填多面体であって,その二面角がπと通約できることに基づいています.
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【3】デーン不変量
多面体Pに対して,デーン不変量
δ(P)=Σ(ai,αi)
を定義します.aiは辺の長さ,αiは二面角でmod πで還元されているものとします.
すると,立方体のデーン不変量はδ(P6)=12(a,π/2),正四面体のデーン不変量はδ(P4)=6(a,δ),cosα=1/3となります.
また,加法を
(a,α)+(a,β)=(a,α+β)
(a,α)+(b,α)=(a+b,α)
(a,0)=(0,0)
で定義すると,
(a,π/2)=(a/2,π/2)+(a/2,π/2)=(a/2,π)=(a/2,0)=(0,0)よりδ(P6)=0.
しかしながらδ(P4)≠0なので,正四面体と立方体は同値ではない→たとえ同じ体積をもっていたとしても分割合同ではないということになります.さらに,デーン不変量を用いると正八面体と立方体は同値でない,正八面体と正四面体は同値でないことなどを示すことができます.
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