ピタゴラス方程式:x^2+y^2=z^2には無数の自然数解があるのですが,それでは連立2次のディオファントス方程式:
x^2+y^2=z^2
x^2−y^2=w^2
の自明でない自然数解を考えてみましょう(フィボナッチの問題).
ただし,(1,0,±1,±1)などの自明な解は必ずあるわけですから,どのx,y,z,wも0でないものとします.
実は,そのような答えをもたないことがフェルマーによって証明されていて,それがフィボナッチ・フェルマーの定理と呼ばれます.フィボナッチは西暦1200年頃,解は存在しないことを予想していたのですが,400年後にフェルマー得意の無限降下法によって証明が与えられました.すなわち(x,y,z,w)の最大公約数が1である任意の原始解を定めるとx’<xなる第2の原始解,x”<x’なる第3の原始解,・・・ができて矛盾を生じてしまうのです(要するに数学的帰納法).
さらに,この定理を応用すると,
「3辺の長さが自然数であるような直角三角形と同じ面積をもつ,辺の長さが自然数の正方形は存在しない(x^2+y^2=z^2,xy=2t^2)」
「x^4−y^4=z^2の自然数解はない」
「x^4+y^4=z^4の自然数解はない(n=4の場合のフェルマー予想)」
などが証明できます.
(その2)では,命題「x^4+y^4=z^4をみたす自然数は存在しない」は命題「y^2=x^3−xの有理数解は(x,y)=(0,0),(±1,0)のみである」に帰着できることをみてきましたが,今回のコラムではフェルマーの問題:x^n+y^n=z^nを有限体Fp上で考えてみましょう.ただし,(x,y,z)=(0,0,0)は除外することにします.
とはいってもすべてのnについて計算することはできませんから,
x^3+y^3=z^3
に限定することになるのですが・・・.
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【1】x^3+y^3=z^3 on Fp
(その1)ではx^3+y^3=z^3 on Fpを扱った.自明な解(x,y,z)=(0,0,0)は解から除外することにして,Fpでの整数点の個数Npは,
Np=0
for x=0 to p-1
for y=0 to p-1
for z=0 to p-1
a=x*x*x+y*y*y-z*z*z
if (a mod p)=0 then Np=Np+1
next z
next y
next x
Np=(Np-1)/(p-1)
のようなプログラムを組むだけで簡単に求めることができる.
一般の素数pに対しては解の数Npは
p 2 3 5 7 11 13 17 19 23
Np 3 4 6 9 12 9 18 27 24
となる.
p=5ではNp=p+1が成り立つが,p=7では成り立たない.他の場合も調べてみると,p=2(mod3)の場合,Np=p+1が成り立つことがわかる.
p Np p+1
2 3 ○
3 4 ○
5 6 ○
7 9 ×
11 12 ○
13 9 ×
17 18 ○
19 27 ×
23 24 ○
p=1(mod3)の場合,Npは複雑であるが,その場合でも
p+1−2√p<Np<p+1+2√p
が成り立つ.
実は
x^3+y^3=1 (x≠0,y≠0)
の解の個数をLpとおけば,
Np=9+Lp
となることがわかっているので,Npを求める問題はLpを求める問題に帰着されたことになる.
Lp=0
for x=1 to p-1
for y=1 to p-1
a=x*x*x+y*y*y-1
if (a mod p)=0 then Lp=Lp+1
next y
next x
Np=9+Lp
p 2 3 5 7 11 13 17 19 23
Np 3 4 6 9 12 9 18 27 24
Lp 0 0 18
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【2】Np+c(p)=p+1
Np+c(p)=p+1という関係が成り立つとすると
p 2 3 5 7 11 13 17 19 23
Np 3 4 6 9 12 9 18 27 24
c(p) 0 0 0 −1 0 5 0 −7 0
c(p)=p+1−Np
となるq展開の係数をもつ保型関数は如何にという問題が残されている.
これまででてきた保型関数は
(その2)→ F(q)=qΠ(1-q^4n)^2(1-q^8n)^2
(その3)→ F(q)=qΠ(1-q^n)^2(1-q^11n)^2
であったから,
F(q)=qΠ(1-q^an)^2(1-q^bn)^2,a+b=12
の中から候補を探すとすると
F(q)=qΠ(1-q^3n)^2(1-q^9n)^2
F(q)=qΠ(1-q^6n)^2(1-q^6n)^2
が最も考えられるところである.
阪本ひろむ氏に計算してもらった結果
F(q)=qΠ(1-q^3n)^2(1-q^9n)^2
=q-2q^4-q^7+5q^13+4q^16-7q^19-5q^25+2q^28+O(q^31)
F(q)=qΠ(1-q^6n)^2(1-q^6n)^2
=q-4q^7+2q^13+8q^19-5q^25+O(q^31)
a+b=12の組み合わせをすべて試みたのだが,c(n)をフーリエ係数とする保型関数F(q)は得られなかった.
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【3】3次曲線のj-不変量
非特異3次曲線の標準型:
y^2=x(x−1)(x−λ)
のj-不変量は
j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
によって定義されます.λ=−1のときj=1728,λ=−ζ6(1の6乗根)のときj=0となります.
射影変換によって互いに写り合う3次曲線は同型とみなされます.jー不変量はモジュラー不変量とも呼ばれ,
j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)
=j(1−1/λ)=j(1/(1−λ))=j(λ/(1−λ))
ですから,4個の点{0,1,λ,∞}の入れ替えに依存しないinvariantで,最も単純で重要な保型関数と考えられます.
複比を
λ={(λ0−λ2)/(λ1−λ2)}/{(λ0−λ3)/(λ1−λ3)}
によって定義すると,λiの順序を変えるとλの値は変わります.すなわち,{λ0,λ1,λ2,λ3}からつくられる複比の値は,
λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ
の6つのどれかに移ります.{λ0,λ1,λ2,λ3}の6つの対に対して計算すればこのことは容易に確かめられます.
この順序による曖昧さを消すために,λの6つの分数変換の不変式をとって,
j=2^8(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
とおくのです.複比は一次分数変換で不変であり,jもまた射影変換で不変です.(直線上の4点の複比は射影によって不変である)
なお,
j(λ)=j(1−λ)=j(1/λ)
が成り立てば,あとの等式はこの2つから導かれますから,有理関数
(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
が本質的であって,係数2^8には本質的な意味はありません.実際,
(x^2−x+1)^3/x^2(x−1)^2=(λ^2−λ+1)^3/λ^2(λ−1)^2
と,変数xの方程式を考えると,
λ^2(λ−1)^2(x^2−x+1)^3−(λ^2−λ+1)^3x^2(x−1)^2=0
はλ≠0,1より,6次方程式となり,
λ,1−λ,1/(1−λ),1/λ,λ/(λ−1),(λ−1)/λ
のどれを代入しても成り立ちます.重複が生ずるのは
λ^2−λ+1=0,λ=1/2,λ=−1,λ=2
の場合に限ります.
y=ax^3+bx^2+cx+dという方程式で定まる曲線はおなじみの3次曲線ですが,yのところがy^2に変わるとワイエルシュトラスの楕円曲線:
y^2=ax^3+bx^2+cx+d
になります.ただし,a,b,c,dは有理数で,右辺の3次式は重根をもたないものと仮定します.楕円曲線をワイエルシュトラス形式に制限しても一般性を失いません.実際,どのような楕円曲線もワイエルシュトラス形式の楕円曲線に双有理的に同値だからです.
また,x^2の項の係数はx’=x+b/3aと変数変換(カルダノ変換)することによって簡単に消すことができますから,
y^2=x^3+ax+b (4a^3+27b^2≠0)
を楕円曲線と定義しても構いません.4a^3+27b^2≠0は重根をもたないための条件です(判別式:Δ=−(4a^3+27b^2)).
ワイエルシュトラスの標準形:
y^2=x^3+ax+b (2^2a^3+3^3b^2≠0)
のj-不変量を計算すると,
j=2^8・3^3b^2/(2^2a^3+3^3b^2)
となります.jー不変量は,2つの楕円曲線が同じjー不変量をもつかどうかなど,3次曲線を分類する(見分ける)ための指標になっているのです.
なお,jは射影変換不変量であるばかりでなく,双有理変換不変量です(サーモンの定理).
[参]ヘッセの標準形
非特異3次曲線は9個の変曲点をもつ.そのひとつを(0,1,0)とし,そこでの接線がz=0となるように射影座標をとると,ワイエルシュトラスの標準形:
y^2z=4x^3−g2xz^2−g3z^3
の形にできる.
さらに,9個の変曲点が
(−1,ω^i,0),(−1,0,ω^i),(0,−1,ω^i)
ωは1の虚数立方根,i=0,1,2
となるような射影座標をとると,ヘッセの標準形
x^3+y^3+z^3−3λxyz=0
に正規化することができる.
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【4】オイラーによる楕円曲線の解法
オイラーによる楕円曲線:y^2=ax^3+bx^2+cx+dの解法を紹介しましょう.
d=f^2とする.gを未知数として,ax^3+bx^2+cx+f^2=(gx+f)^2なる関係を考える.c=2fgになるようにgを定めれば,ax+b=g^2.したがって,
x=(g^2−b)/a=(c^2−4bf^2)/4af^2
なる有理数解を得る.
手品のようですが,幾何学的に考えると
F(x,y)=y^2−ax^3−bx^2−cx−f^2
の点(0,f)における接線の方程式は−cx+2f(y−f)=0.ここで,c=2fgと定めるとy=gx+fになる.曲線は3次で,接点では2重に交わるから,第3の交点(有理点)が1つ決まるのです.
y^2=ax^4+bx^3+cx^2+dx+e
では,e=f^2,d=2gf,c=g^2+2hfとおくと,ax^4+bx^3+cx^2+dx+f^2=(hx^2+gx+f)^2より,ax+b=h^2+2hg.したがって,
x=(b−2hg)/(h^2−a)
なる解が得られます.
y^3=ax^3+bx^2+cx+d
の場合も同様に解くことができますが,これらの方法は実質的にはディオファントスまでさかのぼることができます.
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