杉岡幹生氏は
Σk^2sin(kx)/{exp(2πk)-1}=g(x)
Σk^3sin(kx)/{exp(2πk)-1}=g(x)
なる関数g(x)を閉じた形で表すことを問題としています.→コラム「奇数ゼータと杉岡の公式(その26)」
今回のコラムではそれにとりかかる準備として,2つのラマヌジャンの和についてまとめておきます.
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【1】超幾何関数とラマヌジャンが計算した和
1912年,ラマヌジャンはインド数学会誌に掲載された問題
Σ(-1)^ncos(nx)/(n+1)(n+2)を閉じた形に表せ
という問題を解いたという.
この問題は,超幾何関数で表現することができそうである.したがって,この超幾何関数を初等関数や特殊関数へ変換する方法が分かれば問題は解決するように思われる.
P(x)=Σ(-1)^ncos(nx)/(n+1)(n+2)
Q(x)=Σ(-1)^nsin(nx)/(n+1)(n+2)
とおく.すると
P(x)+iQ(x)=Σ(-1)^nz^n/(n+1)(n+2),z=exp(ix)
となる.
まず,Σ(-1)^nz^n/(n+1)(n+2)が第0項から始まるように,パラメータをずらすことにする.
Σ(-1)^n+1z^n+1/(n+2)(n+3)
この級数の項比は
an+1xn+1/anxn=-(n+1)(n+2)/(n+4)*z/(n+1)
であるから,
(-1)^n+1z^n+1/(n+2)(n+3)=a0*2F1(1,2;4;-z)
また,a0=-z/6より
Σ(-1)^n+1z^n+1/(n+2)(n+3)=-z/6*2F1(1,2;4;-z)
これより,級数Σ(-1)^nz^n/(n+1)(n+2)はガウス型超幾何級数であると同定される.
ここで,参考文献
奥井重彦「超幾何関数の公式集(Tables of Hypergeometric Functions)」
にある公式を活用しよう.
2F1(1,2;4;z)=6/z^2[1-z/2+(1-z)/zln(1-z)]
-z/6*2F1(1,2;4;-z)=-1/z[1+z/2-(1+z)/zln(1+z)]
が得られる.
1/z=exp(-ix)=cosx-isinx
(1+z)/z^2=1/z+1/z^2=cosx+cos2x-i(sinx+sin2x)
ln(1+z)=ln(1+exp(ix))=ln(exp(ix/2)(exp(-ix/2)+exp(ix/2)))
=ln(exp(ix/2)2cos(x/2))=ln(2cos(x/2))+ix/2
したがって,実部と虚部を比較することにより
P(x)=ln(2cos(x/2))(coxx+cos2x)+x/2・(sinx+sin2x)-cosx-1/2
となる.
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【2】保型形式とラマヌジャンの愛した和
ラマヌジャンは
Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504
Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π
Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240
Σ1/n{exp(2πn)-1}=-π/12-1/2log(ω/√2π)
も証明している.
ここで,πとωはそれぞれ,
π=2∫(0,1)1/√(1-x^2)dx=3.14159・・・(円周率)
ω=2∫(0,1)1/√(1-x^4)dx=2.62205・・・(レムニスケート周率)
∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)
ガウスの算術幾何平均
M(a,b)=π/2/∫(0,π/2)dθ/(a^2cos^2θ+b^2sin^2θ)^(1/2)
より
M(√2,1)=π/ω
また,レルヒの公式
Δ(i)=(ω/π√2)^12=Γ^24(1/4)/2^24π^18
E4(i)=3(ω/π)^4=3Γ^8(1/4)/64π^6
もこの兄弟分にあたる.
Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504
に対して前節の方法を適用してみよう.第0項から始まるように,パラメータをずらすと
Σ(n+1)^5/{exp(2π(n+1))-1}
この級数の項比は
an+1xn+1/anxn=(n+2)^5/(n+1)^5・{exp(2π(n+1))-1}/{exp(2π(n+2))-1}
であるから超幾何級数では表せないことがわかる.
それではどうやってこれらの級数を証明したらいいのだろうか? 杉岡幹生氏に教えてもらったのだが,アイゼンシュタイン級数
E6 → Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504
E2 → Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π
E4,ラマヌジャンのΔ → Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240
を用いればこれらを証明できるということであった.
とはいえ自力では証明できなかったので,
[参]黒川信重・栗原将人・斉藤毅「数論U,Fermatの夢と類体論」岩波書店
からの受け売りの証明を記しておく.
Ek(-1/z)=z^kEk(z) (双対性)
にz=iを代入すると−1/i=iになることを利用するのである.
Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504
(証)E6(-1/z)=z^6E6(z)にz=iを代入すると,E6(i)=i^6E6(i)=−E6(i)よりE6(i)=0
E6(i)=1−504Σσ5(n)exp(-2πn)=1−504Σn^5/{exp(2πn)-1}
Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π
(証)E2(-1/z)=z^2E2(z)+6z/πiにz=iを代入すると,E2(i)=-E2(i)+6/πよりE2(i)=3/π
Σσ(n)exp(-2πn)=Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π
Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240
(証)レルヒの公式より,E4(i)=3(ω/π)^4
E4(i)=1+240Σσ3(n)exp(-2πn)=1+240Σn^5/{exp(2πn)-1}
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[補]アイゼンシュタイン級数
SL(2,Z)群上,最も単純な(基本的・古典的)保型形式は重さkのアイゼンシュタイン級数
Ek=1/2Σ1/(mz+n)^k
m,nは互いに素,kは整数4,6,8,・・・(4以上の偶数)
です.すなわち,アイゼンシュタイン級数は変換公式
Ek(az+b/cz+d)=(cz+d)^kEk(z)
c,dは互いに素,ad−bc=1
を満たすというわけです.
保型性の定義から
Ek(z+1)=Ek(z)
Ek(-1/z)=z^kEk(z)
はすぐわかりますが,前者は周期性,後者は双対性と理解することができます.
Ek(z+1)=Ek(z) (周期性)
Ek(-1/z)=z^kEk(z) (双対性)
この保型性の定義は周期性f(x+1)=f(x)を含むので,任意の保型形式はq=exp(2πiz)とするフーリエ展開をもち,
E4(z)=1+240Σσ3(n)q^n
E6(z)=1−504Σσ5(n)q^n
E8(z)=1+480Σσ7(n)q^n
E10(z)=1−264Σσ9(n)q^n
E12(z)=1+65520/691Σσ11(n)q^n
E14(z)=1−24Σσ13(n)q^n
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σk(n)はnの正の約数のk乗和
ベルヌーイ数を用いると
Ek(z)=1−2k/BkΣσk-1(n)q^n
また,ζ(1-k)=−Bk/kにより
Ek(z)=1−2/ζ(1-k)Σσk-1(n)q^n
とも表されます.これらはすべてのσk(n)を教えてくれる母関数であり,それが保型性を示しているという事実が,モジュラー関数は深淵といわれる所以です.
アイゼンシュタイン級数を用いると
Δ(z)=η(z)^24=qΠ(1-q^n)^24
=q-24q^2+252q^3-1472q^4+5483q^5+・・・
は
Δ(z)=1/1732(E4(z)^3-E6(z)^2)
と表されます.
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