1796年,ガウスはp=17のとき,
ζ=exp(2πi/17)=cos(2π/17)+isin(2π/17)
cos(2π/17)=-1/16+1/16・√17+1/16・√{(34-2√17)+1/8・√(17+3√17)-√(34-2√17)-2√(34+2√17)}=0.92247・・・
となり,正17角形が定規とコンパスだけで作図可能であることを示しています.
今回のコラムでは「ガウス和と有限テータ関数」,「フェルマーの最終定理と有限体」に出てきた2つのガウス和についてまとめておきます.
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【1】ガウス和
有限フーリエ級数
F(m)=Σ(k=0~m-1)exp(i(2π/m)k)
を幾何学的に解釈すると,原点から正m角形の頂点に向かって一様に放射状に出る長さ1のベクトルの和であるから,値は0になる.
次に,ガウスが正n角形の研究中に出会った関数
G(m)=Σ(k=0~m-1)exp(−i(2π/m)k^2)
について考える.kが2乗されていることで,全方向の一様性がなくなってしまい,図形的にみることが難しくなる.
この関数は長い間ガウスの心を占めていた数学の問題で,現在,ガウス和と呼ばれている.偉大なガウスでさえもG(m)の値を得るのに数年を要したといわれている.
ガウスはこの問題を数論的な手法により1805年に解決したのであるが,その30年後の1835年,ディリクレがフーリエ級数を用いて簡潔な証明を生み出した.ガウス和は回折理論で有名なフレネル積分
∫(0,∞)sin(ax^2)dx=∫(0,∞)cos(ax^2)dx=1/2√(π/2a)
に帰着され,最終的な結論だけを述べると
m=0(mod4) → G(m)=(1−i)√m
m=1(mod4) → G(m)=√m
m=2(mod4) → G(m)=0
m=3(mod4) → G(m)=−i√m
指数の符号をプラスにした
H(m)=Σ(k=0~m-1)exp(i(2π/m)k^2)
はG(m)と複素共役だから,G(m)がわかればH(m)もわかる.
m=0(mod4) → H(m)=(1+i)√m
m=1(mod4) → H(m)=√m
m=2(mod4) → H(m)=0
m=3(mod4) → H(m)=i√m
奇数のmに対して,
|H(m)|^2=m
である.また,m=pqで置き換えると,
H(pq)=(−1)^(p-1)(q-1)/4H(p)H(q)
ガウス和は有限テータ関数として解釈することができるが,ヤコビのテータ関数は解析数論における数多くの深遠な問題と密接に結びついている.また,ガウス和は物理や通信における散乱,たとえば,コンサート・ホールの音響を弱めないで拡散させることなどに応用されているのである.
ガウス和の指数を2乗和k^2に制限する理由はなく,k^nすなわちガウスの3乗和,4乗和,5乗和,6乗和,・・・と一般化することもできる.また,
H(m,k)=Σ(k=0~k)exp(i(2π/m)k^2)
と定義する.mを固定して,k=0,1,・・・,m−1と動かすと不完全ガウス和となる.
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【2】もうひとつのガウス和(mod pのフーリエ解析)
ここで,一般的に話を進めるためにガウス和とヤコビ和の本来の姿を導入しますが,位数p−1の巡回群の指標には1のp乗根が対応して,
ζ=exp(2πi/p)
として
τ(χ)=Σχ(x)ζ^x (x=1~p-1)
を指標χ(x)に属するガウス和と呼びます.すなわち,ガウス和はFpに1のp乗根ζを添加した拡大体におけるχの1次結合であり,mod pのフーリエ解析になっているというわけです.
平方剰余のときχ=1,平方非剰余のときχ=−1とすると,ガウスは
p=1(mod4) → τ(χ)=√p
p=3(mod4) → τ(χ)=i√p
が成り立つことを1805年に証明したのですが,解決まで数年を要したといわれています.
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【3】ヤコビ和
また,2つの指標χ(x),φ(x)に対して,ヤコビ和と呼ばれる複素数
J(χ,φ)=Σχ(x)φ(1-x)=τ(χ)τ(φ)/τ(χφ)
が定義されます.ガウス和の定義はガンマ関数
Γ(s)=∫(0,∞)x^(s-1)exp(-x)dx
ヤコビ和はベータ関数
B(p,q)=∫(0,1)x^(p-1)(1−x)^(q-1)dx=Γ(p)Γ(q)/Γ(p+q)
と非常によく似ていています.ガンマ関数とベータ関数が実数世界の兄弟分にあたるように,ガウス和とヤコビ和もFp世界の兄弟分というわけです.
φ=χの場合,これらの大きさは
|τ(χ)|=√p
|J(χ,χ)|=√p
|J(χ~,χ~)|=√p
|J(χ,χ)|^2=J(χ,χ)J(χ~,χ~)=p
で与えられます.
互いに素な整数a,bに対する平方の和a^2+b^2は3で割れません.
a=3k → a^2=9k^2
a=3k+1 → a^2=9k^2+6k+1
a=3k+2 → a^2=9k^2+12k+4
より,a^2を3で割ったときの余りは0か1になります.0になるのはaが3の倍数のときです.
b^2に対しても同じことが成り立ちますから,a^2+b^2を3で割ると,余りは0+0,0+1,1+0,1+1にしかなりません.0+0はaもbも3の倍数であることに対応していて,仮定に反します.
4n+3の数はa^2+b^2の形にならないことも簡単に示すことができます.
a=4k → a^2=0 (mod 4)
a=4k+1 → a^2=1 (mod 4)
a=4k+2 → a^2=0 (mod 4)
a=4k+3 → a^2=1 (mod 4)
したがって,a^2+b^2を4で割ったときの余りは0+0,0+1,1+0,1+1にしかならないので,この主張が示されました.
pを素数として,p=x^2+y^2を満たす整数x,yが存在するための必要十分条件は
p=1(mod4)またはp=2
であることは有名です.
それに較べてあまり知られていないのですが,p=x^2−xy+y^2を満たす整数x,yが存在するための必要十分条件は
p=1(mod3)またはp=3
が成り立つことです.
ヤコビ和を使うと(←)が簡単に証明できます.
(証明)1の原始3乗根
ω=(−1+√3)/2,ω~=(−1−√3)/2
ω^2=ω~,1+ω+ω^2=0
を使うことにします.
p=2(mod3)であれば,x^2−xy+y^2を割った余りは2になり得ないので解なし.p=1(mod3)であれば,
J(χ,χ)=x+yω,J(χ~,χ~)=x+yω~
と表される.
p=|J(χ,χ)|^2=J(χ,χ)J(χ~,χ~)
=(x+yω)(x+yω~)=x^2−xy+y^2
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【4】ポアンカレ和
モジュラー群SL(2,Z)群上,最も単純な(基本的・古典的)保型形式は重さkのアイゼンシュタイン級数
Ek=1/2Σ1/(mz+n)^k
m,nは互いに素,kは整数4,6,8,・・・(4以上の偶数)
です.
すなわち,アイゼンシュタイン級数は変換公式
Ek(az+b/cz+d)=(cz+d)^kEk(z)
c,dは互いに素,ad−bc=1
を満たすというわけです.
そして,ガウス和τの保型性との類似は,アイゼンシュタイン級数
Ek(aτ+b/cτ+d)=(cτ+d)^kEk(z)
に拡張されます.
数論のガウス和と複素関数論のアイゼンシュタイン級数はよく似た役割を果たすのですが,アイゼンシュタイン級数をさらに拡張したものがポアンカレ級数です.
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