■奇数ゼータと杉岡の公式(その26)

  [参]加藤和也・黒川信重・斉藤毅「数論T,Fermatの夢と類体論」岩波書店

によると

  Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)=π/tanh(π)

  Σ(-∞,∞)1/(1+n^2)^2=π/2(exp(4π)+4πexp(2π)−1)/(exp(2π)−1)^2

の2つの公式は,

  Σ(1,∞)1/n^2=π^2/6=ζ(2)

  Σ(1,∞)1/n^4=π^4/90=ζ(4)

のようにゼータ関数の値を直接表すものではないが,同様の世界に属していて,ζの香りが漂っているように思われるとコメントされている.

 これらの式は

  Σ(1,∞)1/(a^2+n^2)=π/(2atanh(aπ))−1/(2a^2)

  Σ(1,∞)1/(1+a^2n^2)^2=π^2/(2sinh(x/a))^2+π/(4atanh(x/a))−1/2

と等価である.→コラム「コーシー分布の離散化(その3)」参照

 ところで,(その25)において,杉岡幹生氏のフーリエ係数を求める計算システム(フーリエシステム)を紹介した.杉岡氏によるとこれらの「ζの香りの漂う公式」はテイラーシステムでは導出できないが,フーリエシステムを使って導き出すことができるという.今回のコラムでは杉岡氏の結果

  http://www5b.biglobe.ne.jp/~sugi_m/page175.htm

の概略だけでも示したいと思う.

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【1】Σ(1,∞)1/n^k(1+n^2)

 k=0の場合,2πを周期とする周期関数

  f(x)=Σcos(nx)/(1+n^2)

を考えると,

  1/(1+n^2)=1/π∫(-π,π)f(x)cos(nx)dx

 これを部分積分すると

  1/(1+n^2)=1/π∫(-π,π)(Σksin(kx)/(1+k^2))sin(nx)/ndx

これを縦に足し合わせると

  Σ1/(1+n^2)=1/π∫(-π,π)(Σksin(kx)/(1+k^2))Σsin(nx)/ndx

 ここで,

  Σksin(kx)/(1+k^2)=π/2・sinh(π-x)/sinhπ

  Σsin(nx)/n=(π-x)/2

より,

  Σ1/(1+n^2)=1/π∫(-π,π)π/2・sinh(π-x)/sinhπ・(π-x)/2dx

  =π/2・(exp(2π)+1)/(exp(2π)-1)-1/2

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 同様のことをk=1の場合について考える.2πを周期とする周期関数

  f(x)=Σsin(nx)/n(1+n^2)

に対して

  1/n(1+n^2)=1/π∫(-π,π)f(x)sin(nx)dx

 これを部分積分すると

  1/n(1+n^2)=1/π∫(-π,π)(Σcos(kx)/(1+k^2))cos(nx)/ndx

これを縦に足し合わせると

  Σ1/n(1+n^2)=1/π∫(-π,π)(Σcos(kx)/(1+k^2))Σcos(nx)/ndx

 ここで,

  Σcos(kx)/(1+k^2)=π/2・cos(π-x)/sinhπ-1/2

  Σcos(nx)/n=-log(2sin(x/2))

より,

  Σ1/n(1+n^2)=∫(0,π)(1/π-cosh(π-x)/sinhπ・log(2sin(x/2))dx

となって,関数を閉じた形に表せないというのが杉岡氏の計算結果である.

  Σ(1,∞)1/(1+n^2)

  Σ(1,∞)1/n(1+n^2)

について示したが,杉岡氏は一般に

  Σ(1,∞)1/n^k(1+n^2)

はkが偶数のとき明示的に求められるが,奇数のときは関数を閉じた形に表せないだろうと述べている.すなわち,ζの奇偶性に対応することを主張しているのである.

 さらに杉岡氏は

  Σn^k/{exp(2πn)−1}

に対しても同じことがいえることを述べている.

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【2】Σn^k/{exp(2πn)−1}

 ラマヌジャンは保型形式を用いて,たとえば,

  Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504

  Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π

  Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240

  Σ1/n{exp(2πn)-1}=-π/12-1/2log(ω/√2π)

を証明している.ここで,πとωはそれぞれ,

  π=2∫(0,1)1/√(1-x^2)dx=3.14159・・・(円周率)

  ω=2∫(0,1)1/√(1-x^4)dx=2.62205・・・(レムニスケート周率)

  ∫(0,1)1/(1-x^4)^(1/2)dx=Γ^2(1/4)/2^(5/2)π^(1/2)

である.

 これらの等式は,ゼータ関数の積分表示

  ζ(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)x^(s-1)/{exp(x)-1}dx

の離散化とみることができるが,この式はプランク分布(Bose-Einstein統計)そのものといってもよい.→コラム「プランク分布と量子化の概念」参照

 さて,ラマヌジャンの計算の近似値を求めてみることにしよう.ベルヌーイ数{Bn}の指数型母関数

  x/{exp(x)-1}=ΣBn/n!x^n

を使って,あるいは,

 ∫(0,∞)=∫(0,1)+∫(1,∞)

と分けて厳密に考察すべきなのであろうが,細かいことは気にせずに計算すると,

  ζ(s)=1/Γ(s)∫(0,∞)x^(s-1)/{exp(x)-1}dx

において,x=2πyとおくと,dx=2πdyより,

  ∫(0,∞)y^(s-1)/{exp(2πy)-1}dy=ζ(s)Γ(s)/(2π)^s

 これより,

  Σn^(s-1)/{exp(2πn)-1} 〜  ζ(s)Γ(s)/(2π)^s

ここで,ζ(2)=π^2/6,ζ(4)=π^4/90,ζ(6)=π^6/945を代入すると,

  Σn^5/{exp(2πn)-1}=1/504 〜 1/504

  Σn^3/{exp(2πn)-1}=1/80(ω/π)^4-1/240 〜 1/240

  Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π 〜 1/24

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【3】杉岡氏のアプローチ

 2πを周期とする周期関数

  f(x)=Σncos(nx)/{exp(2πn)-1}

に対して

  ncos(nx)/{exp(2πn)-1}=1/π∫(-π,π)f(x)cos(nx)dx

 これを部分積分すると

  n/{exp(2πn)-1}=1/π∫(-π,π)(Σk^2sin(kx)/{exp(2πk)-1}sin(nx)/ndx

これを縦に足し合わせると

  Σn/{exp(2πn)-1}=1/π∫(-π,π)(Σk^2sin(kx)/{exp(2πk)-1}Σsin(nx)/ndx

 ここで,

  Σsin(nx)/n=(π-x)/2

  Σk^2sin(kx)/{exp(2πk)-1}=g(x)

  Σk/{exp(2πk)-1}=1/π∫(-π,π)g(x)(π-x)/2dx

である.関数g(x)の具体的な形はわからないが,Σn/{exp(2πn)-1}=1/24-1/8π(既知)であることから,1/π∫(-π,π)g(x)(π-x)/2dxの定積分値は求められることを示している.

 それに対して,Σn^2/{exp(2πn)-1}の場合は,2πを周期とする周期関数

  f(x)=Σn^2cos(nx)/{exp(2πn)-1}

に対して

  n^2cos(nx)/{exp(2πn)-1}=1/π∫(-π,π)f(x)cos(nx)dx

 これを部分積分すると

  n^2/{exp(2πn)-1}=1/π∫(-π,π)(Σk^3sin(kx)/{exp(2πk)-1}sin(nx)/ndx

これを縦に足し合わせると

  Σn^2/{exp(2πn)-1}=1/π∫(-π,π)(Σk^3sin(kx)/{exp(2πk)-1}Σsin(nx)/ndx

 ここで,

  Σsin(nx)/n=(π-x)/2

  Σk^3sin(kx)/{exp(2πk)-1}=g(x)

  Σk^2/{exp(2πk)-1}=1/π∫(-π,π)g(x)(π-x)/2dx

であるが,Σn^2/{exp(2πn)-1}は未知であり,1/π∫(-π,π)g(x)(π-x)/2dxの定積分値は求められないことがわかる.

 以上のことから,

  Σn^k/{exp(2πn)−1}

はkが奇数のとき明示的に求められるが,偶数のときは関数を閉じた形に表せず,この結果もζの奇偶性に対応していることを杉岡氏は主張しているのである.

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