■楕円積分の加法定理(その18)

 (その14)において,楕円のn等分に失敗したのは第2種楕円積分に関する加法公式がないためであったが,調べてみると,オイラーは

  ∫F(x)dx/√P(x)

Pは4次の多項式,Fは任意の多項式あるいは有理関数のような第2種,第3種楕円積分についても加法・減法・乗法公式を拡張した結果を与えていることがわかった.

 オイラー全集の企画が立てられたのは20世紀にはいって間もない頃といわれている.ビルクホイザー社(スイス)にて1911年から刊行中であるが,現在でもなお未完結である.幸い,系列Tの数学著作集は完結し,全29巻(30冊)に達した.当初は3系列と予定されていたが,今日の構想では全部で4系列,総計88巻に達するとされている.系列Uは力学・天文学,系列Vは物理学,系列Wは書簡及び手稿とのこと.

 楕円積分に関してはオイラー全集T−20,21に掲載されているのだが,

  http://math.dartmouth.edu/~euler/

から無料でダウンロードできる.早速,当該論文E581を取り寄せてみることにした.

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【1】第2種楕円積分の加法定理

 楕円y^2=ax^2+bの弧長は

  s=∫(0,x)dx/((1+px^2)/(1+qx^2))^1/2

   =∫(0,x)(1+qx^2)dx/((1+px^2)(1+qx^2))^1/2

  p=a/b,q=(a+a^2)/b

  α=√(−b/a)

で与えられる.

 楕円の弧長の2等分点を求めるためには

  Π(x)=∫F(x)dx/√P(x)

  P(x)=1+mx^2+nx^4

  F(x)=γ+βx^2

  m=p+q,n=pq

  β=q,γ=1

の場合だけ扱えればよく,E581によれば,その場合の加法定理は

  Π(z)=Π(x)+Π(y)+βxyz

 楕円の弧長の2等分問題は倍角公式

  Π(z)=2Π(x)+βx^2z

において,z=αのときのxを求める問題になっている.β=0の場合は

  Π(z)=2Π(x)

で,加法定理

  z=2x(1+mx^2+nx^4)^1/2/(1−nx^4)=α

が成り立つから代数的に求めることができるが,β≠0の場合,

  Π(z)=2Π(x)+βx^2z

の計算は超越的であって,(2次までの)代数的過程では解けないことがわかるだろう.

 たとえ,第2種楕円積分に関する加法公式を利用できたとしても楕円の2等分は作図不可能な問題なのである.

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【2】第2種楕円積分の加法定理(その2)

  Π(p)=Π(a)+Π(b)+βabp

の両辺にΠ(c)を加えると,

  Π(p)+Π(c)=Π(a)+Π(b)+Π(c)+βabp

また,

  Π(q)=Π(p)+Π(c)+βcpq

であるから,

  Π(q)=Π(a)+Π(b)+Π(c)+βabp+βcpq

 したがって,3倍角公式は

  Π(q)=3Π(a)+βa^2p+βapq

となるが,どうしても倍角公式

  Π(p)=2Π(a)+βa^2p

の助けが必要になる.楕円のn等分はますますもって作図不可能なのである.

 以下,同様に

  Π(r)=Π(a)+Π(b)+Π(c)+Π(d)+βabp+βcpq+βdqr

  Π(s)=Π(a)+Π(b)+Π(c)+Π(d)+Π(e)+βabp+βcpq+βdqr+βers

  Π(t)=Π(a)+Π(b)+Π(c)+Π(d)+Π(e)+Π(f)+βabp+βcpq+βdqr+βers+βfst

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【3】おまけ

 極座標(r,θ)を用いて

  r=r(θ)=a/(1+εcosθ)   (a>0,0<ε<1)

で表される曲線は原点を1つの焦点とする楕円で,εはその離心率となる.なぜなら,分母を払ってr+rεcosθ=a.また,r^2=x^2+y^2,rcosθ=xであるから

  x^2+y^2=a^2−2εax+ε^2x^2

  (1−ε^2)(x+εa/(1−ε^2))^2+y^2=a^2/(1−ε^2)

これは楕円の方程式である.

 2次曲線は円(e=0)として生まれ,楕円に育ち,放物線(e=1)で相転移して双曲線になる.漸近線のなす角度は最初鋭角だがだんだん大きくなり,180°になった時点(e=∞)で虚領域に入る.そして再び円に生まれ変わる.楕円の面積は有限,放物線の面積は∞,この考え方を延長すると双曲線の面積は虚数ということになる・・・というのがケプラーの原理である.射影平面上では,円錐曲線はただ1種類しかなく,双曲線・放物線・楕円などの区別はなく,どれも同種の曲線となる.

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[参]デュパンのサイクライド曲面

 固定して置かれた3つの球のすべてに接する無数の球を考えたとき,それらの一連の球の中心は楕円上にあり,その包絡面はデュパンのサイクライド曲面となる.逆にいうと,ある楕円上に中心をもち,ある1つの球に接する球面全体の包絡面ということになる.

 サイクライド曲面にはトーラスと違い太い部分と細い部分があるが,トーラスはサイクライド曲面の特別な場合であって,すべてのサイクライド曲面はトーラスを反転させることによって得られる.

 ある曲面のすべての点に法線をたてると法線焦点は一般に曲面を描くが,サイクライド曲面はこの焦曲面が曲線に退化する唯一の曲面であり,また,曲率曲線がすべて円である唯一の曲面はサイクライド曲面であることが知られている.実際,サイクライド曲面はさまざまな切り口において円の断面が見られるなど,さまざまな面白い性質をもった数学曲面である.

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